零/ジャック

2006_戦闘妖精雪風,[PG]

戦闘妖精雪風:深井零/ジェイムズ・ブッカー


フェアリィ・夏

零はこめかみを伝う汗を腕で拭った。濡れた腕をタンクトップの腹でさらに拭い、大きく息を吐き出す。
つなぎの作業着は暑すぎてサウナスーツのようだった。だから、この整備場にいる他の連中がそうしているように、上だけ脱いで腰に巻いている。しかしそれでも暑いことに変わりはない。
「零、そこの端末を取ってくれ」
頭上からジャックの声が降ってくる。乱雑な工具箱の中から、手のひらほどの大きさのパッドを引っぱり出し、腰の後ろに突っ込んでステップをよじ登ろうとして……金属のステップが空気によって熱せられているのに気づいて、あわてて作業用のグローブをはめた。
機体の翼より上に出れば、声をかけてきた本人より先に、脱ぎ捨てられたTシャツが雪風の鼻先に張りついているのが目につく。
コックピットを覗き込むと、小さな竜が睨みつけてきた。彼の肩に入った刺青を勤務中に見るとは思わず、思わず口笛を鳴らす。
「おう、悪いな」
それを呼びかけだと思ったのか、たくましい腕だけが突き出された。その手に、持ってきた端末をつかませる。
「調子はどうだ」
「雪風なら元気だ。俺のことなら、見てのとおりだよ」
ぐったりした声でそう呟き、ジャックはシートにもたれかかって零を仰ぐ。
「なあ零、この戦いに人間はいらないんじゃないだろうか」
「なんだ、いきなり」
「人間より機械のほうが優先されるんだぞ。電力不足になったら切られるのは人間側の空調だ。システム軍団の冷却設備はフル稼働してる。この軍の主体はどこにあるっていうんだ」
零は哀れみをこめて友人の顔を見つめた。
「愚痴か」
「……まあ、そんなとこだ」
行き場のない不満を部下に吐き出して気が済んだのか、ジャックは手袋の甲でひたいの汗を拭いて……上半身で布に覆われているのが手首より先だけというのも奇妙だ……モニタに向き直る。
零も機体に寄りかかったまま、その様子を眺めていた。熱された鉄板の床よりは、巨大送風機に攪拌された生ぬるい空気の中にいるほうがまだマシだ。
「……ちょっと、今のところ」
「ん?」
零はコックピットの中へ身を乗り出し、汗ばんだ腕を伸ばしてパッドに触れる。その瞬間、シートに座っている男から立ち上る熱に包まれた。
「……このフェーズはこっちのコードで指示を出したほうが早い。手順が2つ省ける」
「そうか。気づかなかったな」
零が直したコードを見返し、ジャックは大きく息をつく。パッドから手を離した零は、機体に寄りかかったままで彼を眺めていた。暑さに喘ぎ上下する裸の胸は、こんな場にはそぐわない気がした。肩に触れると、熱いかと思ったが汗のせいか冷たく湿っている。
「零」
いきなり触れられてさすがに驚いたらしい。だがもう遅い、と思いながら、零は明確な目的を持ってジャックに顔を近づけた。
「深井少尉!」
「む……」
数センチのところで、ごわついた手袋に遮られる。
「終業時間まで待て……これは命令だ」
命令と言いながら、懇願のような力ない口調だった。怒る気力もないらしい。それはこっちも同じで、押し切る元気はさすがにない。
「……了解」
零はタンクトップの胸元を引っぱって首筋の汗を拭うと、遥か遠くから熱い微風を送ってくるファンを、八つ当たりのように睨みつけた。

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