速水/草壁
相棒10:速水智也/草壁彰浩
危険な腕
死の覚悟を語ったあとで、彼は「きみも来るか」と訊いてきた。
拒絶しても、彼は怒ったりはしなかっただろう。でも、最後の最後で俺を殺してから自殺するかもしれないとは思った。それくらいのことは平気でやる人だ。
もちろん俺は「はい」と答えた。そうしなければ計画は先へ進まない。
彼は満足して微笑み、俺を抱き寄せる。俺は抱き返すことができず、ただシーツの上で手を泳がせていた。
大義のためなら、罪もない一般人が……子どもでさえ死んでもかまわないと本気で思えるこの男は、同じくらいの本気で、俺を優しく抱いてくれる。
その落差に戸惑っているわけでも、まっすぐな彼を欺いていることを後ろめたく思っているわけでもない。
ただ、なんとなく居心地が悪い。
この身体は単に好みで、しばらく相手のいなかった俺を充分に満足させてくれる。彼と関係を持つのはそれだけの理由だったから、それ以上を要求されると困る、という程度のことなのかもしれない。
大きな手が、俺の髪を撫でる。
ひどく気持ちよくて、俺はいよいよ落ちつかなくなった。
この腕は危険だ、と頭のどこかで騒いでいる俺がいる。でも振り払ったら計画が崩れる、と言い訳がましく縋る俺もいる。
どうにもできなくて、結局シーツの上で拳を握りしめただけだった。
俺が一人でぐるぐるしているあいだ、この世でいちばん危険な男は、この世でいちばん優しく、俺を甘やかしていた。
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