一護/斬月

2005_BLEACH,[PG]

BLEACH:黒崎一護/斬月

お題「RAINY」より


 昼過ぎまで降っていた雨が晴れ、太陽が顔を覗かせる。
 薄暗かった部屋にも光が差し込んできた。
 勉強用の眼鏡を外し、つけていた蛍光灯も消して、窓を開ける。
 雨上がりのひんやりとした風が、湿気のこもった部屋へ静かに流れ込んで心地よい。
 雲が引いていく空を見上げ、一護は思わず声を上げる。
「おぉ、虹だ」
 その言葉に、ベッドの上に座り込んでいた男がのそりと動いた。
「虹……」
 普段はこちらから声をかけないかぎり、調度品にでもなったかのように微動だにしない長身が、ゆらりと立ち上がった。
「斬月?」
 窓枠の上に手をかけ、斬月は窓の外を見やる。
 さわやかな青空には、色鮮やかなアーチがかかっていた。
「……これが、虹か」
 感情の乏しい声に、わずかに感慨がこもっている気がして、一護は自分の真上にある顔を見上げた。
 サングラスの反射で目は見えないが、薄い唇は平素のように硬く引き結ばれてはいなかった。
「虹、見たことねえのか?」
 斬月は蓬髪をふわりと揺らし、主を見下ろす。
「見るのは、初めてだ」
「そっか」
 彼がこの世界に来て、初めて目にするものは多かった。これもそのひとつかと微笑ましい気持ちになりかけ、はっと息をのむ。
「それって……」
 斬月が見つづけていた風景。それは……。
「俺の世界に、虹はなかったんだな」
「ああ」
 まっすぐ空を見つめたまま、斬月は答える。
 無機質な灰色のコンクリート、どんよりと曇った灰色の空、降りそそぐ冷たい雨。上下左右もあべこべな、不条理としかいいようのない世界に、斬月は長いあいだ閉じこめられていた。その世界を作り、閉じこめていたのは、一護自身。
「……美しいものだな」
「ああ……」
 相づちを打ちながらも、一護はもう虹など見ていなかった。虹を見つめる斬月だけを見ていた。
 七色の虹も架からない空。戦いに身を置いていたあのころ、自分の心はひどく乾いていたのだろうと思う。
「今は、どうなんだろうな」
 自分の胸に手を当てる一護を、斬月は再び見下ろした。
「さあな。私にもわからない」
 その声からは、あいかわらず感情が読みとれない。
「だが……」
 長く骨ばった指が、一護の眉間に軽く押し当てられる。
「斬……」
「ずいぶんと、やわらかい顔になった」
 周りの人々から眉間の皺を何度も指摘されていた、あのころの自分。たしかに、今はそんなこともなくなった。
「オッサンも」
 腕を伸ばして、高い位置にあるサングラスを取った。眩しそうに細められた目が現れる。
「優しい顔になったぜ」
 その言葉に斬月は微笑みで応える。
 本来、戦いの道具として存在する彼が、この平和な時間を共有してくれる……それが、一護にはくすぐったくもうれしくて。
 高い肩を抱き寄せる。同時に空いた手でカーテンの端をつかみ、引こうとした。
「なぜ閉める」
「……外から、見えるじゃねえか」
 昼間から窓際で睦み合う度胸はなかった。そんな一護の性分はよくわかっているはずなのに、この男はあいかわらずどこかずれた反応をする。
「だが、虹が……」
「目ェ閉じるんだから関係ねえだろ」
 一護はカーテンを勢いよく引きながら、斬月の唇に噛みつく。
 実際に相手が目を閉じているかはわからない。だが、一護としては自分の視界を閉ざしたことで気分が楽になった。
「……っ」
 長い指が、背中に食い込んでくる。髭がざらつく感触が快くて、そんな自分の意外な嗜好にも、もう慣れた。
 こうしていると、カーテンの向こうに広がる晴天も虹も見えないけれど。
 現実に負けないくらい大きくて美しい虹が、この胸の奥にある青空にも架かっている。
 一護はそう確信して、大切な片割れを抱きしめる腕に力を込めた。

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Posted by nickel