ショウイチ/淘子

2009_仮面ライダーディケイド,[G]

仮面ライダーディケイド:芦河ショウイチ/八代淘子


遅い昼休み

「おまえなあ……」
ため息混じりのかさついた声にふり向くと、制服に着替えたショウイチが半笑いでドアに寄りかかっていた。
すすりかけていた麺を一気に飲み込み、八代淘子はインスタントラーメンのカップを置く。
「おかえりなさい。ずいぶん疲れてるのね」
「呆れてるんだ、おまえに」
大股に入ってきたショウイチは、つい数十分前まで敵と戦っていた男だ。状況を判断して指示を出す立場の淘子も、気を抜くことなどできない。彼が無傷で帰投したという連絡を受けて初めて、自分の空腹に気づくくらいだった。
こんなときのために買いだめしてあるインスタント食品が、淘子の常食なのだが、ショウイチはそれを快くは思っていないらしい。
「才色兼備のエリート警部が、豪快にカップラーメンすすってる姿を見せられるこっちの身にもなれよ」
たしかに容姿も頭脳も人より優れていることは自分でも認めるが、それと昼食メニューとは関係ない。
「もう慣れたでしょ。こっちこそ、三十路の独身男が所帯じみた弁当を広げる姿にはうんざりしてるんです」
隣に座って弁当包みを広げかけていたショウイチが、戸惑ったように手を止める。それが愛妻弁当ならまだしも、本人お手製なのだから始末が悪い……と、淘子は思っていた。
「なんだそれ、セクハラか? おまえも年ごろの女なんだから、弁当くらい作ってこいよ」
「それがセクハラよ、芦河巡査部長」
「ではパワハラでありますか、八代警部?」
だが言うほどには気にしていないらしく、さっさとふたを開けて食べはじめる。包みや弁当箱は地味なくせに、中身はやたら色が多くておいしそうに見えるのも、気に入らない原因のひとつだ。
彼と彼の弁当を睨みつけながら、コンビニのおにぎりにかぶりつく。
「弁当なんか作ってるひまがあったら、神経断裂弾の強化でもしてたほうが有意義だもの」
料理ができないわけではないが、どうしてもむだな時間に思えてしまう。できているものを買いに行くか、外へ食べに行くほうが効率的だ。
そこで、淘子はふと先ほどの戦闘を思い出した。おにぎりをスポーツドリンクで飲み下してショウイチをふり返る。
「そういえば、今回増やした弾倉の数だけど……」
「メシ時くらい仕事のことは忘れろって」
「でも……」
口を開いたところへ、卵焼きを突きつけられた。美味しそうな色と香りに、条件反射でかぶりついてしまう。
「よーし、そのまま黙ってろ」
ひひ、と悪戯っぽく笑うと、ショウイチは再び自分の弁当に向きなおった。
淘子はむすっとした顔で卵焼きを咀嚼し、残りのおにぎりも口に突っ込む。彼の意図どおりに黙らされたのも、そして彼をやりこめる言葉も思いつかないのも悔しい。
「……卵焼きは、甘いのが好きなの」
食事を終えて、淘子がショウイチに言えたのはそれだけだった。

次の日の朝、ショウイチはなぜか弁当の包みを持って司令室に現れた。
「もう昼ごはん? それとも朝ごはん食べ忘れた?」
「それはおまえだろ。朝メシ抜きは肌に悪いぞ」
淘子の皮肉も聞き流し、彼はそれを差し出してくる。
「……なにこれ」
思わず受け取ってしまったが、どう見てもショウイチの弁当だ。これをどうしろというのか。戸惑いのまま彼を見上げると、どこか得意げな笑みが返ってきた。
「おまえの昼メシだよ。どうせ弁当ならコンビニじゃないほうがいいだろ」
「えっ……」
「ついでだよ、俺のついで。一人ぶんも二人ぶんも変わらないからな」
「……………」
声も出なかった。
当然ながら今までの恋人にも作ってもらったことなどないのに、まさか同僚から、しかも年上の男から、弁当を分けてもらうとは。
「あ……」
ありがとう、と言おうとした瞬間に、アラームがけたたましく鳴りはじめる。淘子は通信機に飛びついた。
「未確認よ! 江戸川区に3体出現、G2システムの出動を要請する! 芦河刑事!」
「了解!」
それから6時間、淘子は弁当のことなど完全に忘れて、通信機に向かって叫びつづけた。

司令室で一人、弁当を食べながら、妙な気分になる。
どうして前線で戦う男が、弁当なんか作るのだ。あれほど強いのに。
ショウイチ以外の男など、システムにふりまわされる人形同然だった。机上の空論あつかいされてお蔵入りになるかと思われた淘子の研究を、ショウイチの身体能力が現実のものにしたのだ。
そんな実力を持った男が、どうして……
普段はめったに立ち入ることのない給湯室で弁当箱を洗っているときも、釈然としない思いでいっぱいだった。束の間、仕事のことも忘れるくらいに。
「あの……ごちそうさま……」
帰ってきたショウイチに、空の弁当箱を差し出す。
「美味かったか?」
無言でうなずく淘子に、ショウイチは笑いかけた。
「卵焼き、甘すぎなかったか?」
「……ちょうどよかった」
子どものように答えている自分が恥ずかしくて、弁当を作ってうれしそうな顔をしている相手が腹立たしくて。
「どうして……そうなのよ」
「ん?」
つい口調がとげとげしくなるのを止められない。
「女のくせに料理もしない私への当てつけ!? あなた、戦士なのよ! 弁当なんか仕出しでいくらでもとってやるわよ、なんでこんな……」
ありがとう、と素直に言えればいいのに。口をついて出てくるのは彼への非難ばかりだった。
彼は年下の同僚からの言いがかりを驚いた顔で聞いていたが、淘子が言葉を詰まらせると、困ったように笑顔を作る。
「おまえが働いてるあいだ、俺はすることがないからな」
「!」
淘子はようやく、自分のかんちがいに気づいた。
支えているのではない。支えられていたのだ。
どんなに負荷が高いシステムを作っても、無茶な指示を出しても、彼はそれに応えてくれる。
食事を作る間も惜しんで研究をしていれば、こうして弁当まで渡してくれる。
淘子は前線で戦うショウイチを支えているつもりだった。現にシステムは彼に合わせて作っていたし、彼の実戦経験からさらなる開発が展開する。淘子のシステムはいつしかショウイチのためのものになっていた。
だが、それは結果論でしかない。
彼は自分のスタンスを片時も忘れたことはないのだろう。
システムの操り人形にならなかったということは、彼が彼自身の意志で淘子を支えようとしていたということだ。
今までそんな明白なことにも気づかなかった自分が、幼く思えた。
「……八代?」
うつむいて黙り込んでしまった淘子を前に、ショウイチはうろたえて顔を覗き込もうとする。
淘子はいつもどおり、毅然とあごを上げた。
「……肉、もっと増やしてよね。ぜんぜん足りないわ」
「おまえなあ……」
そのかすれ声が耳に心地よくて、がっくりと肩を落としてみせる姿がおかしくて、思わず笑い出していた。
彼がパートナーで、よかったと思った。

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