チャールズ/エリック

2016_X-MEN,[R18]

X-Men Apocalypse:チャールズ・エグゼビア/エリック・レーンシャー


一歩前に進められたポーンを眺めながら、エリックがため息交じりに呟いた。
「まったく、ポーランドの工場よりひどい」
椅子の背に寄りかかったチャールズは、愉快な気分で目の前の相手に次の手を促す。彼はひじ掛けに頬杖をついたまま、こちらにクールな色の目を向けた。
「いったい何百枚のパンにバターを塗りたくればいいんだ」
哀れすら感じさせる口調に、チャールズはこらえきれずに噴き出す。
「きみがバターナイフを一度に何本も動かせるおかげで、劇的に生産性が上がった。ハンクも感謝しているよ」
学園の子らの食事を作るという日課は、元来研究者であって料理人でも栄養士でもないチャールズとハンクにとって苦行に近い労働であったし、自分の能力が全く活かせない領域というのも苛立ちの要因ではあった。
そこへ、キッチンにあるものほとんどを自在に操れる男が戻ってきたのだから、使わない手はない。
かくして世界を幾度もおびやかしたミュータントは、子供たちのサンドイッチや目玉焼きを作ることにその能力を行使するはめになっている。
「いつまで笑ってるんだ」
エリックは口を曲げて、ビショップを端まで動かした。
「だって……」
よく考えもせず、そのビショップをナイトで取る。
「バターナイフだけじゃない、鍋もフライパンもターナーも支配下にあるじゃないか。キッチンこそきみの城だよ」
「冗談じゃない……」
ついにはエリックも肩を震わせて笑い出した。
「じゃあ皿とカップも金属製にしてくれ、皿洗いまでやってやろう」
そう言いながらおもむろにクイーンを進め、得意げな顔でチャールズを見やる。
「チェックメイト……笑いすぎたな」
はっとして盤面を見れば、完全に手詰まりだった。さっきのビショップを取ったせいだ。それがまたおかしくて、チャールズはひたいを押さえていた。
他愛もないことで大笑いして、何時間でもチェス盤に向き合って……だれに憚ることもなく、人の目など気にせず二人で過ごしていられる。
「昔みたいだ」
チャールズの言葉にエリックも微笑む。
「昔は、パンだってあんなに必要なかった」
かつて集まった若者たちは歳もそれほど離れていなくて、全員が仲間だった。今は明確に、自分たちが教師で保護者だ。アレックスもいなくなってしまった今、エリックが彼らを導く手助けをしてくれたらと心から思う。
廊下の柱時計が鳴った。
「……もうやすんだほうがいい」
車椅子を回そうとすると、エリックが立ち上がった。
「手伝おう」
「いやいい。たいていのことは一人でできる。きみも早く……」
 部屋に戻るように言いかけて、彼の思惑を読み取る。
「そうだな……頼むよ、エリック」

エリックが車椅子を止めた場所は、ベッドから離れていた。もう少し近くに、と言う前に抱き上げられる。
「軽くなったか」
昔より頑丈になった腕に、再会する前の彼が辿ってきた道を思う。心や記憶を読み取るのとは別の、直接触れ合ってこそわかる事実だ。
「どうかな」
彼の肩にもたれた。なんの怒りも恐れもなく、こうして彼の体温を感じられる日がまた来るとは。
紳士的にとはいかないまでもチャールズをベッドに横たえたエリックは、目を細めて覗き込んできた。
「一人で、なんでも?」
「いや……できないこともあったな」
ついゆるんだ頬を、エリックはそっと撫でる。震える指先を肌に感じた瞬間、チャールズは彼の首を抱き寄せて唇を押しつけていた。
「……!」
相手の重みが心地よくのしかかってくる。チャールズが軽くなったのなら、エリックは重くなった。力を隠し、抑え込み、人間と同じように肉体だけを使って生きてきたから。常に追われ、怯えながら、人としての体を鍛えてきた。若いころよりずっとたくましく、傷だらけの彼が今ここにいる。
長いあいだ押し殺していたのは、人の目を恐れ隠しつづけていたのは、能力だけではない。
「っ……」
口づけを貪りながら、彼は羽織っていたシャツからもどかしげに腕を抜く。読もうとしなくてもこちらに流れ込んでくる感情は、飢えて渇いていた。
触れたくて、触れられたくて、愛したくて、愛されたくて。長い空白を埋めるために、チャールズを強く求めていた。
こちらも応えたい一心で、彼の頭に直接具体的なイメージを送り込む。
「チャールズ……」
エリックが不機嫌そうに呻いた。彼はチャールズの能力で欲望を揺り動かされることを好まない。操られている気分になるのだという。
だがそんな些細なこともすぐ気にならなくなった。
お互いの荒い息に急かされ、チャールズはまくり上げられたシャツを自分で脱いだ。エリックもTシャツを脱ぎ捨て、ジーンズのベルトを外す。
言葉はいらなかった。チャールズにはエリックがしたいことがわかっていたし、エリックもチャールズが求めることを受け取っていた。きっと心が読めなくてもわかっただろう。
「あ……」
同時に声が洩れる。なんの障壁もなしに中心が触れ合い、それを合図に二人は互いにつかみかかった。喧嘩のような勢いで相手の口に噛みつき、乱暴に相手の欲望をこすり上げる。あっという間に息は上がり、チャールズは笑いながらエリックに降参を訴えた。
「体力勝負は分が悪いな」
「なのに、自分が『上』を取りたがってる」
からかうような笑みとともに、エリックがチャールズの上にまたがる。そうは言いながらも、チャールズの要求を無視するつもりはないらしい。
それは途方もなく長い時間に思えた。
何年も離れて触れ合うことすらできなかったというのに、今は肌を重ねながら、繋がるまでのわずかな手間がもどかしくてならない。チャールズは幾度もエリックの顔やたくましい肉体に口づけて急かした。
互いに躊躇いながら繋がった、若い日々を思い起こす。一時の愉悦に身を委ねてはしゃぐこともできなかった。障壁があまりにも多く、自由なはずのチャールズをも縛りつけていたから。
今、あのときの恐怖はない。時代は変わり、世界も変わりつつある。きっと、自分たちも。
「あまり焦らさないでくれ……」
「そっちこそ急かすな……」
自らチャールズを受け入れ、身をくねらせるエリックを眺める。腰を押さえて突き入れるたび、母国語で感嘆を口走る様子は、あのころと変わらない。ちがうのは、二人を動かしているのがもはや不安ではないということ。
どこにでもいるありふれた恋人たちのように、ただ純粋にこの夜を愉しんでいる、その事実こそがチャールズにとっては奇跡だった。
「ああ、エリック……」
彼の頬に手を伸ばすと、その手をとって口づけてくれる。肩で息をつき、ひたいに汗をにじませながら。
だが次の瞬間、彼はふと眉をひそめた。
「……うれしくない」
「それは、すまない」
能力の抑制を忘れ、内心が伝わってしまったようだ。この大男が今だけはひどく愛らしく見えると、チャールズが感じていることを。

テレパスと繋がるのは恐ろしい。
心も体も境目がわからなくなってしまうから。
「ああエリック、お願いだ……」
今、小柄な彼はエリックの腕に収まっている。胸に頬をすりつけてはくるが、自分で動くことができない。エリックの中心を深々と飲み込まされ、苦しげな表情で訴えかけてくるだけだ。言葉とテレパシーとを使い分けて。
「だから心を操るのはやめろ……口で言え」
「お願いだって言ってるじゃないか」
不機嫌そうに眉を寄せた顔に鼻先を近づける。ポルノも真っ青の露骨なイメージを人の頭に送り込んでおいて、よく言えたものだ。
「本心を『口にしない』のはあいかわらずか」
エリックは自分の唇を舐めて微笑むと、彼の尻を掴んで揺さぶった。
「うぁっ、あっ……」
チャールズの中で普段はおとなしくしている欲望が、今ばかりは理性を押し切ろうと暴れていた。その感覚がエリックの中にも流れ込んできて、彼の感情なのか自分の気持ちなのかわからなくなる。
押し広げられる痛みと、突き上げられる衝撃と、時折触れる性感と。それからエリックと睦み合える幸福。すべてを忘れどこまでも乱れたいという衝動に、男として権威者としての矜恃や理性がぎりぎりで歯止めをかけている状態だ。
めちゃくちゃにでも犯してほしい、あるいは心ゆくまで犯したい、そうして自分がたしかにこの世界の生き物であることを確かめたい。
そう思っているのはチャールズなのか、エリックなのか。
しまいには、抱いているのか抱かれているのかさえわからなくなってくる始末だった。
「ぁっ……!」
高まった体が大きく痙攣する。エリックは自分が射精したのだと錯覚した。直後にエリック自身が達したとき、チャールズも同じ呻きを上げた。それほどに二人の心は重なり溶け合っていた。
これ以上は危険だ。つながった心と体を引き剥がさなければならないのに、エリックは暫しチャールズを抱きしめたまま動くことができなかった。
二人のあいだにはなんの障壁もなく、糾弾も迫害も存在しない。ここにいるかぎりは。

ベッドを出て、彼の頬に唇を落とす。
「……行くのか」
チャールズがもの憂げな目を向けてきた。わかっているくせにわざわざ尋ねるのだ、この男は。
「ここにはいられない。わかるだろう」
学園を建てなおし、彼らの日常が戻り、チャールズの傷も癒えた。年長の若者たちを戦士として育成するプログラムも始まる。ハンクはもとより、レイヴンもよくやっている。もうエリックは必要ない。いてはいけない。
そんなことはない、とチャールズは呟き、静かに頭を振った。
「いつでも、戻ってきてくれ。ここはきみの家でもあるんだ」
チャールズの言葉はいつも本心からなのに、それは真実とイコールではない。エリックはただ微笑み、おやすみを言って部屋を後にする。
テレパスの傍らにいつづけるのは恐ろしい。
心をすべて暴かれて、それでもいいと思ってしまうから。すべてを知って受け入れてほしいと叶わぬことを求めてしまうから。

永遠に繋がっていたいと、願ってしまうから。

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2016_X-MEN,[R18]

Posted by nickel