鎌倉殿の13人、(あえて)気に入らなかったところ。

最終回、見届けました。
見届けたとしか言いようのないラストでした。
一年間、最高のエンタテインメントをありがとうございました。

スーパー戦隊もなんだけど、一流とされる創作者って、期待された安定のクオリティを常にお出しするんじゃなくて、どんどん研ぎ澄まされていくんですね。上限がない。
それをただ実感する一年でした。

よかったところは全話語れるんですが、ここはあえて、「個人的に気に入らなかったところ」をあげつらってみます。
あまりにも大絶賛されている作品への、ささやかな抵抗です。
口を極めて罵ってるつもりですが、たまに私が折れてます。

全体はあとで総括できたらいいなあ。


といっても、進行上なにが悪いとかまちがってるとかわかるわけもないので。
歴史のことも全く知らないので。

大絶賛は、生存バイアスやエコーチェンバーかもしれないし。

ここでは、私がどうしても好きになれなかった登場人物を貶すことで、溜飲を下げようと思います。
この人たちの存在が物語の中でいつか矛盾を起こさないか、余分なパーツにならないか、やっぱりあの設定はまちがっていたということにならないか、いつも意地悪く見ていました。

もちろんそんなことあるはずもなかったんですけど。


まず平六こと三浦義村ですね。
最後まで生き残ると聞いて、こいつの死に目に会えないのか……って思ったくらいに「嫌な」やつでした。

あのね、キャラクターとしては完璧なのよ。脚本と演出と芝居が完璧にかみ合ってる。かっこつけでおもしろくてキレる、三枚目。
昔だったら「それおもしろいと思ってやってるでしょ」みたいな部分があったけど、平六は本当に笑えるからなにも言えない。円熟しやがって。
その完璧な造形に、完全にハマってしまった。
一話たりとも信用できなかった、好きになれなかった「嫌な」キャラクターを、徹底して貫いた平六にもう完敗ですよ。
あいつめちゃくちゃムカつく。でもそれは敵の作戦通りなのだ。

第一話から、大して小四郎を好きなようにも見えないのに、小四郎がなんであんなに一方的に信頼してるのかわからなかったんですよ。だっていつも本気で「こいつ死んでもいいや」って感じで見切りをつけてたし。
でも小四郎に頼まれたら断らずに聞いてやる。保身のためと、貸しを作りたいのと、嫌われたくないのと、相対する気持ちが未整理のままずーっと最後まで「全部嘘で全部本心」っていう気持ち悪い状態を維持していて、本当に気持ち悪かった。
「志村後ろ後ろ!」的な気持ちで見てました。小四郎、平六平六!

で、最終回のキノコのくだりで見事に回収されたわけですよね。
一歩引いて客観的になれば気づくようなことも、小四郎は「平六の言葉だから」と信じ込む。その程度の頭の男に負けたというのは、それはもう悔しくて仕方なかろうなと。
しかも小四郎は今回も「平六の言葉」を信じる。それはもうそのとおりにしてやるしかないじゃん。あのあと帰ってめちゃくちゃ荒れたと思うよ、平六。
あの状態で「生きつづける」ことが、平六のなによりの屈辱だと思うことにします。

朝時の「うっせえジジイ」に本気でキレてるシーンで、私の中の民衆が勝ち鬨を上げ喝采を送っていました。
朝時最高だな! 善良な泰時や盛綱が「ちょっと困ったおじさん」くらいに思ってるのを、めちゃくちゃ増幅して悪意に仕立ててくれるの、最高だな! 小四郎憎さで北条家に苛ついてるとこに北条家の「だれか」からヤジが飛ぶのすっごい腹立っただろうな!

……褒めたね。平六を褒めちぎってしまったね。
もうちょっとシビアに作劇方面に踏み込んでいこう。


八重と比奈は、まあできた嫁すぎるなって。
良妻賢母キャラが好みでないだけです。
賢くて強くてもちろん美しい、地味な小四郎には不釣り合いな妻っていうのがね。

いや、八重さんはだいぶ勝手な人でしたけどね?
八重さんは、血筋以外取り柄もない好色モジャ男に引っかかるようなしょうもない女でした。そこから明確に一途な小四郎ステキ!ってなってくれたらよかったんですが、ただ粘着されつづけてめんどくさくなっただけだよね。
なんにもステキなエピソードなかった。言ってしまえば、二人にときめかなかった。
もう「しょうもない女とろくでもない男がくっついた」だけの話なのに、美しく死んだことで聖母というか女神になってしまって、うーん……ていう感じ。
小四郎、結局自分のどこがダメだったのかわかんないまま歳とっちゃったよ。

比奈ちゃんは、八重さんよりはトキメキが見えたけど。
なんで辛気くさい小四郎を好きになったのか。キモいセクハラモジャオヤジから助けてくれたってこと? 小四郎→八重さん並みの熱量で、比奈→小四郎になるのがよくわかんなかった。私がそこまで興味なかったからかもしれないけどさ。
ワガママな八重さんと違って、小四郎(北条)のために現れて小四郎(北条)のために動いて小四郎(北条)のために去っていく。
女神2人目ですよ。女神大安売りですよ。
比奈ちゃんが甘やかすから小四郎がいろいろまちがったまま歳とっちゃったよ。

でも小四郎の絶望と希望には、八重比奈が不可欠なんですよね。悔しいけど一人欠けてもダメなんですよこのドラマ。
のえさんは好き。でも八重比奈あっての彼女だともわかっています。


あと上総介?
べつに嫌いではなかったんだけど……
自分がまだそこまで入り込んでない(この物語はこういうテンションで進むのだな、とか把握している最中だった)段階で、ファンからやたら持ち上げられすぎてちょっと引いてしまった。
いや頼朝に殺された中で、この人だけがそんなに特別ってことなくない?って。

そのへんをちょっと苦々しく思ってたから、泰時が上総介の生まれ変わりっていうのも、なんかやりすぎというかオカルトというか……法皇さまみたいに夢枕に立つくらいでいいのよオカルトは。
上総介が死んだときに生まれた子供が「ブエイ」と泣いた、個人的にはそれだけで充分でした。泰時が双六苦手とか言わなくていい。「字の練習をする学のない上総介」から、ラストの「学のない武士にもわかる決まりを作るぞ」へのリンクだけでよかった。

泰時も鶴丸も大好きだから登場するだけでテンション上がるんだけど、背後に八重さんや上総介をちらつかせられるたびに少しだけ下がってました。
ちょっと引っぱりすぎた人たち、という感じ。


トウに関しては、演出が正解だったのか今でも疑問。
善児の、そのへんの下人が気配もなくフラッと現れて、鶏でも締めるみたいにさくっと武士や貴族を殺しちゃうのが、怖くて本当に「できる」雰囲気で最高だったんですよ。彼を推した脚本家の気持ちがわかる。
トウは見るからに「仕事人です」っていう佇まいで、最初から派手な「アクション」を披露して、その後も常にド派手な立ち回りをしていて、ぜんぜん暗殺者っぽくなかった。いや、腕はいいんだろうけど、善児が仕込んだ後継にはどうしても見えなかった。顔もきれいで表情も凛々しすぎた。
善児は目立たないことで仕事を成功させてきたのに、彼女はどこへ行っても目立ってしまう。
なので、みんな惨めに死んでいくこの世界で、最後まで「魅せるアクション担当」だった彼女には、ずっと違和感がありました。
わざわざこのために呼んだのだから、というのはわかるんだけども。

でもまあ、ラストの13人の孤児たちの「殺気が出すぎてる」シーンで帳消しになった部分はあるよね……ああいう使い方をするなら仕方ない、のかもしれない。


「わざわざ呼んだ」繋がりで言うと、大江殿の無双モードも。
コレはただのファンサービスなんだよね?そうなんだよね??っていう飲み込みがワンクッション必要でした。
あの話で本当に重要かつかっこいいのは、自ら公文書を持てるだけ担いで逃げてきた「大江殿らしからぬ愚直さ」だったのに、「実は強かった大江殿」がおもしろすぎて霞んじゃったのが残念だった。
大江殿の信用できるとこって、小四郎や政子に忠実ってより、幕府の維持が最優先でブレないとこだったと思うのですよ。だから完全な文化系でも非力でもかまわなかった。むしろ自分では刀も扱えない大江殿が、屈強な板東武者たちを次々に滅ぼしていくってほうが怖くてかっこいいと私は思う。

上総介と同じく、愛されすぎていたのが難点だったのかも。

画のかっこよさ、美しさはドラマだから優先されて然るべきだと思うけど、ちょっと「見栄えのよさ」を優先させて雰囲気がふらついたところも散見されました。
一年の長丁場だしね、息抜きも必要だよね、とは思いますが。


不満としては、まあそんなもんです。
あとは百点満点、一億点です。

あ、八田殿のセクシーが意図してなかったものだと聞いて、「演出しっかりして!!」と大声で叫びました。あれは演者を止めなかった演出が悪い。