るろうに剣心のこと

(2)北海道編1~5巻読みました

るろ剣展から帰ってきて、とるものもとりあえず電子版DLしました。
連載してるのは知ってたけど、作者が一度は「もう描かない」と宣言していた作品であり、当時あれこれ期待や妄想が先走っていた「北海道編」でもあり、実写映画でかなり満たされた身としては「もはや和月が描く『るろ剣』は自分が見たいものではないのでは」という気持ちが、なんとなく遠ざけていた感じです。

るろうに剣心―明治剣客浪漫譚・北海道編― 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

もしかしたらタイミングがよかったのかもしれない。
めちゃくちゃおもしろかった。一気に5巻まで読めたのもありがたかった。

これが20年越しの「北海道編」……と感慨深さが先行しましたね。
とにかくオールスター!って感じで、生き残ったキャラはバンバン出てくるのが楽しい。
5巻でやっとメンバーがとりあえずそろって(全員ではない)、話が動きはじめたという雰囲気なので、この話はけっこう長くなるんじゃないかな。

以下ネタバレ感想。
薫と結婚してからこちらの体感的には「20年後」なのに時系列的には「5年後」なので、20世紀が21世紀になって平成が令和になったのに作中ではずっと地続きの「明治」なので、読んでるほうの時間感覚がずっとバグったままです。


敵さんの「剣客兵器」が、強い人を片っ端からスカウトして毎回断られるのがギャグじゃないんだけど地味におかしい。
斎藤さんも全力で誘われますが、全力で断って、全力で潰されます。ていうか一人で「援軍」任せられてるの、明治政府に余裕がないのもわかるけど、そもそも明治政府のほうが幕末の生き残りたちを「剣客兵器」扱いしてんじゃないのかなっていう……

この「弱ってる斎藤さん」というのがなかなかに新鮮で、ありがたいです。
利き腕と最後の刀を砕かれて、実質戦力外となって佇んでる、それを剣心が心配してるというのがなんかこう……うまく言えないけどありがたい。
剣心も人の心配してる場合じゃないんですよ。雑魚含め戦うたびに寿命すり減ってるわけだから。こっちは雑魚くらい左之に任せてくれよって思っちゃうほどだから。なのに見舞い行かなきゃとか言い出すし(実際は様子見的なことなんだろうけど)、あと剣心目線の斎藤さんにソフトフォーカスかけるのやめてくれます? ありがたいから。

見逃しちゃいけないのが今回の斎藤さん、すっごいナチュラルに剣心のこと「緋村」って呼んでる! 「抜刀斎」じゃなく!!
前はどんなシチュでも執念深く「抜刀斎」って呼びつづけてたのに、人誅編の最後で剣心をきっちりフッて、区切りをつけたんでしょうね。不殺の剣心と俺の抜刀斎は別物、っていう拘り(悪い意味で)を感じてとてもありがたい。

永倉さんは、展示で初めて見て「!?」ってなった。
本人っていうより、再会した斎藤さんが誰にも見せたことないような顔で微笑んでたので……!! いやなにそれちょっと聞いてない!と思ってあわてて読みはじめた感じです。
永倉さんの登場自体は20年前から予想されたことではあったので、衝撃!というほどでもないんですが、斎藤さんと剣心をうまく繋げるポジションっていうのはうまい。大久保利通にさえぞんざいだった斎藤さんが敬語で挨拶してさんづけで呼ぶ相手がまず初だし、抜刀斎時代を知りながら剣心を敵視も崇拝もせずフランクに接してくれるタフな人もいなかったよね。
永倉さんを挟んで、斎藤さんと剣心が酒を酌み交わしてるのも胸熱です。今まで何度か「共闘する仲間」ではあったけども、いっしょにごはん食べたこともなかったんじゃないかなって。いや京都編とかわりと長距離移動も連れ立ってたりするので、無言で向き合って蕎麦すすってた仲でもそれはそれで楽しいけど。

ただまあ初対面の宗次郎を斬っちゃおうとするあたり、永倉さんも十分血の気が多いので、今後の活躍が楽しみです。役割的には、牙を失った斎藤さんの代打なのかな。
もう一人新選組関係者が出るってことで、島田魁かな市村鉄之助かなとかあまり考えずに待ちたいと思います。

あと張を密偵にこき使う斎藤さんがわりと好きだったんで、今回「手下」が増えててにこにこしました。存分に全員こき使ってください。
栄次は親戚の家に預けてたってことで、養育責任はないという解釈でいいですかね。


予想外というか予想以上に育ってたのが左之。
話反れますけど、ワンピースのゾロがね、途中までわりと視界に入ってなかったんですよ。でもスリラーパークのあたりからかな、なんか存在感出てきて。「2年後」の再登場では、「何があったの!?」っていうくらい育ってて、いつのまにか「ルフィの片腕」として認めざるをえなくなっていた、という個人的な経緯がありまして……
今回の左之がそういう感じだった。

世界を巡って帰ってきて、フィジカルも当然パワーアップしてるんだけど、精神的にすごい大人になってる。もしかしたら幕末引きずってる剣心や斎藤より、志々雄引きずってる十本刀より、俯瞰から見えてるかもしれない。
剣心が主人公として強くなっていくことが望めなくて(むしろ弱っていく設定だし)、手のかかる子供たちしかいない以上、弥彦ではなく左之助が剣心の傍らにいるというのがものすごく安心感ある。
ゾロもそうだけど、そのへんの成長にたぶん誰も気づいてないというのがまた憎いよね。剣心や薫は左之の「存在」を信頼してはいるけど「変化」には無頓着だし、斎藤さんや張はそもそも認めたがらないだろうし。
こっち側の戦力で精神的肉体的に不安のないメンバーが、安慈と左之しかいないんですけど(永倉さんは未知数なので除外)、もう左之助はその位置に立ってるんだよ、というのが感慨深いですね。

弥彦はたしかに「かっこいい主人公」なんだけど、三馬鹿を御するのも剣心を支えるのもちょっとまだ荷が重い。東京で留守番というのはいろんな意味で安心できて、いい布陣です。
由太郎もすっかり立派になって……あのころ迷って絶望して苦しんでた子らが、ちゃんとまっすぐ成長して自分らしい能力を獲得して、今の場に必要な存在として再登場する、そういうの好きよ。


明治生まれの三馬鹿は、ああ和月のマンガ読んでるなあって感じがする。明日郎とアランが、弥彦と由太郎にならないように気を遣ってる感もわかる。

全体的に斎藤さんメインで見てますが、ちゃんと和月定番の「少年少女の成長譚」としても楽しんでます。
剣心がやっぱり今見ると変化球の主人公なので、剣心を否定まではいかずとも肯定せずに物語を進める、というのがバランス感覚として必要だと思うのね。今回それを属性ごとに3人にしたのもいい。「緋村抜刀斎」を直接知らない世代の距離感とか、それぞれが背負ってる影とか、知的な作劇って気がします。

半年に一冊くらいのペースで単行本出てるみたいなので、今後も楽しませていただきます、という話でした。

https://twitter.com/shiro_rwks/status/1358037387847245825?s=20

まだつづきます。