ソウジ/ノッさん

2013_キョウリュウジャー,[PG]

獣電戦隊キョウリュウジャー:立風館ソウジ/有働ノブハル


『だってダブルスコアだよ?』


もう恋なんてしないなんて。言わないよぜったい。

「それ、誰だっけ。聞いたことある」
店のBGMに流れていたアレンジ曲の、覚えている歌詞の部分だけを口ずさんだら、思いもかけず平成生まれの高校生がそう言ってくれて、うれしいやら悲しいやら微妙な気持ちになった。他は年齢など関係なくジャパニーズ・ポップスになど縁のない連中ばかりなので、最初から期待はしていない。そこまで異文化ではないからこそ、彼とはこういう「決して小さくない年齢差を感じる瞬間」がときどきある。
「マッ、キーたことあるだけでうれしいよ。ぼくが小学生のときに流行った歌だから」
「へえ……」
ソウジが生まれる前だ、ということにノブハル自身も気づいて、自分で落ち込みそうになった。そうか、それくらい差があるのか。
「でもぼくは、もう恋なんてしないなんて言わないなんて、言わないけどねぜったい」
「もう恋なんて……」
少しその言葉を反芻したらしいソウジは、意味がつながってから表情を変え、ノブハルを見据える。
「なんで? なんでもう恋しないの? ていうか、してたことあったの?」
微妙に失礼な気がするが、言った本人が真顔なので指摘しづらい。
「それはあるよ、ありますよいくらぼくでも」
自分で言ってまた微妙な気持ちになった。そこまで卑屈になる必要があるだろうか。これでも勤め人を辞めるまでは、そこまで女性に無縁ではなかったはずなのだが。
「そんなに大した、歌やドラマみたいな理由はないんだけど……大人になると、楽しくないことのほうが多かったりしてね、ま、あそこにいる人みたいに百発百中で楽しい人もいるみたいだけど、残念ながらぼくはそういうタイプじゃなくて、じゃあもういいか、っていう気分になったりもして……今はほら、家族とか仕事とか世界平和とかで、それどころじゃないし」
少し離れた窓際の席では、黒いジャケットの青年が昨日とはちがう女性と歓談している。ソウジは少しムッとした顔でイアンを睨みつけ、クリームソーダを一口飲んだ。潔癖なティーンには認めがたい部分もあるのだろう。しかしあれもまた恋にはちがいない。
「ソウジくんは、今好きな人とかいるの?」
「べつに……」
その問いのおかげで、彼は急にクリームソーダの上のアイスを処理するというタスクに気づいたようだった。
むりもない、と苦笑してコーヒーをすする。
ノブハルに対しては歳が離れているせいか、ストレートに「恋しないの?」などと尋ねてくるが、彼自身はひどくシャイな高校生だ。しかも今どき古風なほどに生真面目な。たとえ気になるクラスメイトがいたとしても、こんなおっさ……お兄さんにおいそれと打ち明ける気にはならないだろう。
今日のBGMはアーティスト縛りなのか、やけになつかしいメロディばかりが流れてくる。覚えているという認識の前に歌ってしまうような。

好きなものは好き、と言える気持ち。

ソウジがちらりと上目遣いにこちらを見た。やはり、好きな子くらいはいるのかもしれない。
「どんなときも?」
「実際にはそうもいかないけどねえ」
どうも今日は、夢のないことばかり言っている気がする。いつもは感じない年齢差というものを必要以上に意識してしまっているせいか。茶化そうにもうまいダジャレが思いつかない。
「たとえばの話だけど、ぼくがきみの同級生のこと好きって言ったらおかしいでしょ。極端に言えば、そういうこと」
「そう……かな」
ソウジはグラスの中を覗き込んだまま、ぽつりと呟いた。
「でも、たとえばの話だけど、おれだったらノッさんとつき合ってもいいと思う」
「っ!」
コーヒーが鼻から出そうになった。動揺のあまり、返す言葉も素っ頓狂なものになる。
「だっ、だってダブルスコアだよ!?」
「……ホントだ」
気づかなかった、という顔で彼は大きな目を見開く。
そんな表情を見ると、同じ戦士とは思えないほどかわいらしくて、ついこちらも顔がほころんでしまう。まだちょっと鼻が痛いが我慢しよう。
「……でも、ちょっとうれしいなあ。高校生から見たら30代なんて対象外だと思ってたよ」
30代から見ると、高校生は対象外なのだが。これだけ性格も頭もよくて顔もかわいくてかっこよくて……と非の打ち所のない子からそんなことを言われて、悪い気がするはずはない。それがたとえ男の子であっても。
「べつに歳とか、関係ないし……」
年齢など大した要素ではないと思えるのは、それこそ若さの特権だ。その傲慢さも微笑ましい。ノブハルの近くには、今までいなかった人種だった。
弟というには歳が離れすぎていて、息子というには近すぎる。再就職の予定もないから、将来こんな部下を持つこともない。友人というにはこちらが不遜な気もするけれど、敬語もない、不思議な関係。
彼も同じことを思ったのか。遠慮がちに尋ねてくる。
「おれは……ノッさんの、何になら、なれるのかな」
どこかまっすぐでない言葉は、たぶん世代間の溝によって日本語が曲げられたせい。彼はときどきナチュラルにノブハルの知らない言語を使うから。
それはさておき、たしかにこの青年は自分にとってどういう存在なのだろう。大切な仲間だけれど、見守ってあげたい、でもどことなく近寄りがたい、不可侵な感覚は……
考えながら、またしても聞こえてきた懐かしいメロディに、覚えている歌詞を乗せた。

きみはきっと、どうしようもないぼくに降りてきた天使。

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