カナロ/バンバ
騎士竜戦隊リュウソウジャー:カナロ/バンバ
日も落ちかけ、近道をしようとして公園の中を横切ったのがまちがいだった。
すべり台の向こう側、揺れる音だけが聞こえるブランコは、風の仕業だと思ったのだが。白いコートの長身が、露骨に肩を落として心あらずといった様子でブランコに座っていた。
「……………」
声をかけたところで用事もない。挨拶をする間柄でもない。そう判断して素通りするつもりだったが、人の気配に顔を上げた彼は、そうは思わなかったらしい。
「なぜこんなところにいる」
「こっちの台詞だ」
自分中心の問いかけに、率直な言葉を返すと、彼は「自分がなぜここにいるか」に思い当たったらしい。
「おれは……っ、彼女のためを思って……っ」
「そうか」
聞かずとも、いつもどおり女にふられて落ち込んでいるのだとは見当がつく。どちらにしても海のリュウソウ族など今のバンバには全く関係がないし、関わろうとも思わない。
そのまま行こうとすると、カナロはブランコから勢いよく立ち上がった。
「待て、なにか一言くらいないのか」
まさか、かまってほしいのだろうか。コウが絡んでいくと邪険にしているから、放っておかれたいのだと思っていた。
などと意外に思ったのが顔に出たのか、彼はあわてたように眉を上げて言葉を続ける。
「べつに、慰めとか、そういうことを期待しているんじゃない。ただ……」
ただ……その先は、彼の中でも言葉になっていなかったのだろう。バンバを呼び止めたのも理由などないはずだ。しいていうなら、夜が迫る陸に傷心のまま一人きり、心細かったというところか。
甘えるな、とうつむく彼を眺めながら思った。トワだって、もうそんなわがままは言わない。
「……うわべだけの愛を囁いて手に入る女など、ろくなものじゃない」
気遣うつもりもなかったために、きつい発言が飛び出し、案の定カナロの眉間に皺が寄る。
「女性に対してそんな物言いをするやつに、おれの恋愛をどうこう言われたくない」
たぶん、ずっと見て見ぬふりをしてきたのだ。まともにつき合ったら、苛立ってしまうから。だが、正面から挑まれては、かわすのも難しい。
「恋愛だと? おまえがしているのは恋でも愛でもない。子供の遊びだ」
「なに……」
バンバにはカナロの「やり方」が正しいとも理にかなっているとも思えなかった。口を出す立場でもないから今まで黙っていたが、今日に限ってはなぜか苛立ちが抑えられなかった。
「子を産ませたいだけなら、だれでもいいはずだ。恋だの愛だのも必要ない」
「そういう考えが気に入らないからだ」
カナロは迷わず、きっぱりと言い切る。初めて言われたのではないのかもしれない。
「過去にはたしかに、そのためだけに連れてこられた人間が多くいた。モサレックスも繁殖が最優先だという。でもおれは、産ませるためだけの伴侶などおかしいと思っている。相手の寿命が尽きるまで、本気で愛し合っていける相手でなければ意味がない」
理想は認める。だが所詮は理想だ。その結果が目の前のこれで、おそらくはなにかのまちがいが起きるまで、彼は愚直に失恋しつづけるのだろう。
仮に人間と添い遂げたとしても、彼は「相手の寿命が尽きる」絶望をまだ知らない。
「……ならば余計に、方法論がまちがっているな」
見かけだけは端正な顔に、手を伸ばす。反射的に遮ろうとした腕を振り払い、細いあごを掴んだ。
「なにを……っ」
「この唇が、軽薄な口説き文句を紡ぐ以外に使われたことがあるのか?」
厚めの柔らかい唇に、親指を押し当てる。激昂して手を振りほどかれると予想していたが、カナロは目を見開いて息を止めていた。
「だれかと、本気で愛し合った経験があるのか?」
指先でゆっくり唇をなぞる。
半開きになっている唇がかすかに震え、その目は狼狽を隠さずにこちらをまっすぐ見つめてくる。
「理想を語るのはかまわないが……」
バンバの言葉を遮るためか、眉を寄せたカナロは、自分の人差し指をバンバの唇に触れさせた。
「では……その唇は、どれほどの愛を語ってきたというのだ」
あまりに生真面目なその言葉におかしさがこみ上げてきて、触れられている唇が自然と笑みを形作る。
言葉など……
彼の唇から離した手でこちらに触れている彼の手を取り、その指に軽く口づけてやった。目だけは相手から逸らさずに。
「!!」
羞恥と、混乱と、屈辱と……彼の表情が変わっていくのを、細い手を握ったまま眺めていた。
さすがに遊びすぎたかと我に返る。
これ以上は決闘にもなりかねない。相手から絡んできたとはいえ、はじめに挑発したのはこちらだ。今日はどうにかしていた。
「……一度、海に帰って休むといい」
立ちすくんでいる彼を解放し、きびすを返す。
「おい……」
カナロが呼び止めようとするが、これ以上相手をしているとさらに心ない言葉をかけてしまいそうだ。どういうわけか感情を抑えられる自信がない。
「悪いが、弟を待たせている」
「待て……」
腕を掴もうとした手は、目測を誤ったのかシャツの袖を掴みしめただけだった。振り払おうとしたが、彼と正面から視線がぶつかる。
「行かないで、くれ……」
縋るような目は、女に別れを告げられたときと同じ色をしていた。
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