魁利/圭一郎

2018_ルパパト,[PG]

【Valentine’s Day】

白い息を吐きながら、圭一郎は夜空を見上げた。
公園のベンチを眺めながら、立ったままで缶コーヒーを一本開けてしまったところだ。
「なにをしてるんだ、俺は……」
街灯のスポットライトに照らし出されたくずかごに、缶を投げ入れようと振りかぶる。
「また外すぜ、お兄さん」
「!!」
投げようとした缶は、弧を描くことなく足下に落ちた。転がっていった缶を拾い上げたのは、自分がたった一人、焦がれつづけるあの青年。
「魁利くん……」
いつしか、闇の中からしか現れなくなった彼を前に、圭一郎は息を止めていた。
「なに、待ち合わせ?」
手の中の空き缶を弄びながら、からかうように魁利は尋ねてくる。まったくそのとおりだ、と思いながら、大きく深呼吸した。
「きみに、会えるかと思っていた」
「なんで? 約束した覚えねえけど」
しかし、彼は現れた。圭一郎の帰り道に。一年前の今日と同様に。
「今日は……2月14日だからな」
根拠もなにもない。だがゼロにも等しい可能性に、縋ってしまった。それを見透かしたかのように、魁利は現れた。
圭一郎は提げていた小さな紙袋を、魁利に突き出す。
「は?」
さすがの魁利も虚を突かれたのか、ぽかんと口を開けてこちらを見返した。
「これ……まさか………」
探るような目を圭一郎の顔から、受け取った紙袋の中へと移す。小ぶりだが真紅のプリザーブドフラワーが彼には見えているはずだ。
「圭ちゃんが……花?」
「食べものでは、すぐ消えてなくなってしまうからな」
どうしてそんなことを思ったのか、自分でもわからない。紙袋を覗き込んでいた魁利がそのままの姿勢で乾いた笑い声を上げた。
「……毎日ずっと、圭ちゃんのこと忘れないようにって? ヤバいわ、それ」
「ああ、そうだな」
夜野魁利……永遠に、圭一郎が救えない男。圭一郎の手に入らない男。
今もまだ暗がりに身をひそめ、己の目的のためだけに生きている。彼にはもう、光の中を歩く権利があるというのに。
彼に対する無力さは承知の上で、忘れてほしくはなかった。魁利さえその気なら、圭一郎はいつでも彼を救い出すつもりだということを。
顔を上げた彼は、すでに笑ってはいなかった。
「忘れたことなんかねえよ」
抜け目のない動きで、彼はこちらに足を踏み出す。圭一郎も彼へ歩み寄りながら腕を伸ばした。
二人は互いの体を捕らえ、そしてどちらからともなく唇を重ねる。
押しつけあった刹那、相手の熱い息を感じ、わずかにこちらの唇をかすった舌にたじろいだ。だが魁利が舌をねじ込んでくるのを、制止することはできなかった。
荒い息を交わしながら、二人は口づけ合う。腕の中の彼はすでに華奢な未成年ではなく、死地を幾度もくぐり抜けてきた戦士の体つきだ。そして、悔しいほどに馴れた様子で圭一郎を翻弄する。
抱きしめる腕に力がこもる。今はなんの装備もない。手錠さえも。この腕だけが、彼をとどめおける唯一の力だ。
「ふ……」
魁利が息をつくようにあごを上げた。
かと思うと次の瞬間には胸を強く突き飛ばされ、目眩を起こしかけていた圭一郎は大きくよろめく。
後ろへ大きく飛びのいた魁利は、濡れた唇を舐めながらにやりと笑った。
「罪状増えた? それとも共犯?」
「……っ」
引き止める言葉が喉まで出かかり、だが声にはならなかった。彼は絶対に圭一郎の救いを求めることはない。
「アデュー、おまわりさん」
甘い声とともに、快盗の顔つきになった青年は闇の中へ再び姿を消す。次に会うのは一ヶ月後か、一年後か。それは二人にもわからない。
冬の冷気が、あっという間に唇を乾かしていった。


リュパパトの時系列って11月後半~12月前半ですよね騎士たちの装備的に。
だから年明けて2月にはコレクション全部集め終わっててもいいなって今書きながら思いました!

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