魁利/圭一郎

2018_ルパパト,[PG]

【クリスマス1】

忙しい12月、兄が帰ってくるのはたいてい魁利が寝ついてからで、クリスマスを兄と過ごせることはあまりなかった。
それでも朝起きるとクリスマスプレゼントだけが枕元にあった。魁利は白々しく喜び、「サンタからの」プレゼントを兄に自慢してみせた。兄のほっとした笑顔を見たかったから。
しかし「いい子」でない魁利に、そんな無理はそう長くはつづけられなかった。

幼稚園のクリスマス会に、とうとう圭一郎は現れなかった。
そのままジュレに引き上げてクリスマス二次会と称して打ち上げを始めても、彼は来なかった。
「ねえ、圭ちゃんまだ?」
警察の手前、アルコールは厳禁だったが、パーティの雰囲気に酔ったふりをしてつかさに尋ねる。彼女は携帯端末を確認し、まだ返事が来ない、メッセージも見ていないようだと申し訳なさそうに首を振った。
「えーっ、忘れて帰ってるだけかもしんないじゃん。電話してよ電話。料理冷めちゃうって」
わざと甘えた口調で駄々をこねてみせると、彼女は困った顔で微笑み「そうだな」と律儀に店の外へ出ていく。
「国際警察ってそんな忙しいの?」
上機嫌にノエルへ絡んでいる咲也にも訊いてみるが、彼は不思議そうに首をかしげただけだった。
「そんなはずはないんだけどね。緊急出動ならボクやつかさ先輩にも連絡が来るから。子供たちの招待状を渡すときに、ちゃんと予定は確認したよ」
咲也のほうも、ついに幼稚園に圭一郎が現れなかったことには不満があるらしい。せっかく先輩のために用意したのに、とパーティ用のサンタ服を未練がましく店の壁にかけてある。
「魁利くんもこんなに楽しみに待ってるのに! あの人はまったく……」
「いや、オレは……」
思わず否定しかけたとき、つかさがスーツに端末をしまいながら戻ってきた。
「すまない、魁利くん。今日は来られないそうだ。自分のぶんまで楽しんでくれと……」
「えーっ!」
魁利より先に、咲也が勢いよく立ち上がる。
「せっかく圭一郎先輩に元気出してもらおうと思っていろいろ考えたのに、本人来なきゃ意味ないですよ!」
かなり酔っているらしい彼は自分も電話をかけようと携帯を取り出したが、つかさにたしなめられてしぶしぶおとなしくなった。
明らかに消沈した咲也に、初美花が明るく声を上げる。
「でもっ、つかささんは来てくれたし! 子供たちもすっごく喜んでたし! 咲也さん半分以上は成功してますよ! ねっ!」
魁利も小さく息を吐き出し、彼女の元気に便乗することにした。
「そーだよ、来ないやつのことはほっとこうぜ! そんじゃあ圭ちゃんのチキン食っちまおうっと……シャケも残してやんねーから」
「じゃあ、ボクは先輩のお酒もらっちゃいます!」
咲也もヤケクソのようにボトルへ手を伸ばす。彼なりに悔しさや残念さはあるのだろう。慰めるように、つかさが彼のグラスにワインを注いでやっていた。
「それならぼくは、圭一郎くんのケーキをもらおうかな。初美花ちゃんも食べる?」
「はい!」
透真がノエルと初美花にブッシュドノエルを切り分けているのを横目に、冷めかけた骨付きチキンにかぶりつく。最高に美味いはずなのに、最初の感動が失われたせいか、なにか足りない気がしてしまう。
暑苦しくて、鬱陶しくて、顔を見るのもうんざりしていたが、いないときに感じるこの気持ちは……
「去年は、三人でクリスマスパーティしたの?」
酔った咲也の無邪気な問いに、はっと顔を上げる。その言葉を向けられた初美花の笑顔がわずかに固まるのを見た。
「去年の今ごろは……まだ、そんなに仲良くなってなかったから……」
「三人とも働きはじめて日が浅かったので、店を回すので精いっぱいでしたよ。自分たちのクリスマスなんてとても……それより、こちらのワインもどうぞ」
透真がボトルを手に割って入り、それ以上追求させまいと話題を強引に切り替える。初美花はわざとらしくケーキの美味しさを褒め、買ってきてくれたノエルに礼を言うことでその場を切り抜けた。
黙々とチキンに噛みつきながら、二人の心情を思う。
一年前はクリスマスなんてなかった。
キラキラ輝くイルミネーションは腹立たしいほどに目障りで、仲睦まじい家族連れは喪失感を強めるだけで。打ち合わせたわけでもないのに三人ともあえてその喧噪から顔を背け、はしゃぎも祝いもせず普段どおりに過ごそうとしていた。
咲也の提案に巻き込まれなかったら、今年も同じようにしていただろうか。いや、たぶんこちらから警察の三人を誘っていた。きっと初美花が、彼女がやらなければ魁利が。ノエルが持ちかけていれば、表面上はさておき透真だって断りはしないはずだ。
今、妙なつながりではあるけれど、仲間の三人とも敵である彼らとも、笑って楽しめるようになった。ノエルの参戦もあって、希望が見えつつあるからだろうか。
透真が、ケーキを取り分けてドリンクとともに持ってきてくれる。こういうときの彼は表情こそ控えめだがとても楽しそうで、多少の粗相やトラブルにも苛立つことはない。
「ありがチュ」
フォークでクリームをつつきながら、添えられた砂糖菓子のサンタクロースに気づいた。日本製ではないからか、今ひとつかわいらしさがないのはさておいて。
「サンタは来なくてもクリスマスできるもんな」
口の中で呟いて、胸の奥にある疼きを鎮めようとする。
ほしかったのはサンタクロースからのプレゼントではなくて、サンタ……兄と過ごすクリスマス。ケーキなんてなんでもよかった。コンビニの売れ残りでも、小さなショートケーキでも。家族と過ごす時間がほしかった。
圭一郎が来ないと聞いた瞬間、兄が帰らないと悟ったときの気持ちを掘り起こされてしまった気がして、まだ兄と重ねてしまう自分にも嫌気がさして。
「圭ちゃんは、プレゼントくれねえし」
あたりまえの事実を自分に言い聞かせ、砂糖菓子のサンタを口に放り込んだ。


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