るひま祭シリーズ2

▽国内舞台,[R18]

SS大江戸2
SS大江戸2


綱吉×吉保

元禄万紅

「逃げるでない」
「……逃げてなど」
逃げたくても、動くことすらできない。
柱を背に追いつめられ、肩とひざを押さえつけられて。
その気になれば、どのような望みも強引に押し通すことができる立場であるはずなのに、綱吉は苦しげな声で吉保を問いつめるだけだった。
「ではなにゆえ、こちらを見ぬのだ」
吉保が見つめているのは、彼の向こうの襖絵。なんとか平静な心で主を説き伏せようと、大きく息をつく。
「……お戯れが過ぎますぞ」
この聡明な主がわからぬはずはない。吉保が足枷になるようなことはあってはならないと。もう幼いころの無邪気な間柄には戻れぬのだと幾度も告げて、言葉通りに幾度も拒んだ。それでも彼は……
とん、と胸にぶつかってきたのは、綱吉の頭だった。
「余のためにならぬ……とでも思っているのであろう」
己の鳩尾のあたりから相手の声が聞こえるのが、近いようで遠く感じる。
「そなたはいつでもそうだ。余のためと理屈や建前を並べ立てて、己の気持ちは少しも見せぬ」
「左様なことは……」
反論にもならない弱々しい言葉に、綱吉は頭を上げて吉保を睨みつけた。
「では、今ここで見せてみよ。余のことをどう思っておる?」
強い眼差しがまっすぐに吉保を射抜く。その目だけで吉保が動けなく……逆らえなくなることを承知しているのだろうか。
「目を逸らすな」
頭を押さえつけられ、完全に逃げ場はなくなった。
最後の抵抗で、吉保は目を閉じる。
「おわかりでしょう……私はずっと……」
いや、それは抵抗ではない。降参だった。全ての防御を解いた吉保の耳に、綱吉の穏やかではない呼吸と衣ずれが聞こえる。
「吉保……」
胸に心地よい重みがかかり、唇に熱が触れる。卑怯と知りながら、無抵抗なふりをして誘い込む。
「ん……っ」
知的で冷淡な印象とは裏腹に、その口づけは荒々しくて不器用だった。なりふりかまわない熱さで、吉保が懸命に張り巡らした壁を突き崩していく。
「はっ……」
吉保が綱吉の肩に縋りつくまでその舌先だけで蹂躙しておいて、名残を惜しむように唇を舐めて離れていく。
目を開けると、乱れた前髪のあいだから、殺意すら感じさせる目が睨みつけていた。
「そなただけだ」
吐き捨てるように、挑みかかるように、彼は心からの想いを口にする。
「そなたさえおれば、なにもいらぬ」
「なりません、上様は……」
お立場をお考えくださいませ……そうたしなめて押し戻さなければならないのに。襟元に這い込もうとする手を押さえることさえできないでいる。
「余が嫌いか?」
「いえ……」
はだけた肩に濡れた唇が押しつけられるだけで、全身が期待に震えそうになる。その先にあるものをこの身は覚え込んでいて、どうしたら理性の監視を免れられるかと、苦しい弁明を考えはじめる。
「余では満たされぬか?」
「いえ……」
返事をするのもやっとだというのに、無慈悲な男は真摯な口づけをよこす。
軽く触れただけの唇が、吉保の息を完全に止めた。
「……っ!」
呼吸の仕方を忘れ、喘ぎながら主に助けを求めて縋りつく。
「……私も! 貴方様だけを想っております! されど、このようなこと許されるはずが……」
綱吉は非情にも思える眼差しで吉保を見下ろしていたが、やがて口を開く。
「……それは余が決める」
毅然と言い放った将軍は、最も愛しい男を力強く抱き寄せた。

叶わぬ望みなどない。
多少の無理も、吉保がどうにかしてくれる。
だがたったひとつ思い通りにならぬのが、その吉保だった。
綱吉は熱い息を吐き出しながら、己の下で黙って身を震わせている彼を見下ろす。こみ上げる歯がゆさを言葉にできず、両ひざに手をかけて、つながっている部分を奥まで押し込んだ。
「んぅ……っ!」
苦痛の悲鳴も甘い嬌声も飲み込んで、吉保はただ身をよじる。
これでは奉仕だ、と綱吉は思う。まるで主人に逆らえない犬のようだ。天下の大将軍が。
懐紙を噛ませたのは、強情な彼が唇を噛み切らぬように。
帯で手首を縛り上げたのも、逆らわずに済む口実を与えてやるため。
その気になれば帯はたやすくほどけ、細い腕はあっさり抜けるだろう。だが吉保はそれをしない。ここで主におとなしく抱かれることが、吉保の「役目」なのだ。心でぶつかろうとしてもかわされるが、役目を与えてやれば唯々諾々と従う。それが吉保という男だった。
これは全て吉保が望んだこと。だが、綱吉が心から望んでいるのは、ただ情欲をかき立てるだけのあられもない姿ではない。
綱吉は震える手で吉保の顔に触れ、汗で張りついた髪をそっとかき上げた。
潤んだ目が驚きをもって綱吉を見上げる。
「そなただけなのだ……」
ほんとうに欲しいのは。そして、どうあっても手に入らないのは。
虚を突かれたのか、懐紙を噛みしめていた口元がわずかにゆるんだ。濡れた懐紙をそっと口から外すと、彼は泣きそうにゆがめた顔を背けてしまう。
「吉保……」
聞いているのかいないのかわからない耳に口を寄せ、耳朶を甘く食む。吉保の息が乱れていくのがわかったが、それでも声を上げない意固地さに焦れて、つい歯を立てた。
「……んっ!」
ひとつに括られて頭の上に追いやられていた吉保の腕が、ひくりと動く。その腕にゆっくり手をすべらせながら、反らされた首に唇の痕を濃くつけた。
「ぅ……上様……」
縋るような呼びかけを無視して、なおも白い肌に紅の痕を残す。そのたびに吉保は息を止め、己で己の呼吸を締め上げていく。胸の尖った飾りを強く吸われたときには、ついに小さく喘ぎを洩らした。
「ぁ、はっ……」
舌先で転がしながら噛んで吸い上げてやると、堪らないといった風情で首を振る。
二人の腹のあいだでは、吉保の欲が苦しげに脈打っていて、上等な着物の生地を先走りで濡らしている。その様は浅ましいほどに淫らで、揶揄と面罵を浴びせればどれほど恥じ入るか、羞恥のあまりに達する姿がどれほど無様か、考えるだけで総毛立った。
それでも、綱吉は吉保を嬲ることができない。
「何故じゃ……」
全てに対する苛立ちをそのまま口にし、細い腰を掴んで奥を穿つ。
「ぁああっ!!」
背を反らせて吉保が耐えきれずに嬌声を上げる。決壊したように、濡れた口からは甘い泣き声がこぼれはじめた。
「ぃや……っ、あぁ、ん……っ!」
手ひどく責めれば責めるほど、吉保は苦しげに泣いて慈悲を求め、それでも身体のほうは悦びに震えながら綱吉を誘う。もっと酷く、手荒に、その身を踏みにじってほしいとせがむ。
抗えず、ひたすらに腰を叩きつけた。
愛しい男を満たすためだけに。
「……っ!」
嵐が過ぎたあとの室内に、束の間の静寂が訪れる。
綱吉は衣を直すのもそこそこに、吉保の戒めを解いた。大きく息をついた吉保が、身体の痛みに呻きながら大儀そうに起き上がる。
帯の端が擦れたところに、赤い筋ができていた。それを目にした刹那、どうしようもなく哀しくなって、彼の腕に口づけ、舌を這わせていた。
「上様……」
己がつけた傷を舐めている主を、彼はどんな顔で見つめているのか。顔を上げて確かめることもできず、綱吉はただ手首の傷に舌を這わせつづけた。従順な飼い犬のように。
「もう……よろしいのですよ、上様……」
優しい声音に促されて、忠犬はようやく顔を上げる。
乱れた着物をわずかに引き寄せたところであまり意味はなく、肌に残る交わりの痕は痛々しいほどに吉保を艶めかせていた。
こんな姿にしたかったのではない。だが綱吉のささやかな願いを、吉保は許そうとはしない。ただ心を通わせたい、それだけなのに。
最も浅ましいのは、いかなる姿でも愛おしく感じてしまう己の心だった。
「吉保……!」
喉の奥がつまる。あふれる涙を止められず、綱吉は吉保のひざに顔をうずめていた。
「ふ……ぅうっ……」
人前で涙を流すなど、男として武士として将軍として、断じてあってはならぬこと。だが涙は勝手に滲んで吉保の衣を濡らす。
幼子のようにしゃくりあげる将軍を、側用人は叱ったりなどしなかった。
「どうかお苦しみにならないで……」
幼きころより幾度も綱吉をなだめてきた声が、今も穏やかに聞こえてくる。嗚咽をつづける主の肩をさすりながら、吉保は何度も囁いた。
「すべて、この吉保にお任せくださればよろしいのです……」
綱吉を苦しめ追いつめる、その優しい声で。


皆さまこんばんは、戦国武将の明智光秀でございます。ご存じの方はご存じ、ヘルニアのコバカッツでございますよ。
あーさて、今回の二人はいちおう史実でも記録が残っているカップリングではございますが、そんなことはいっとき忘れてくださいませ。年齢差などもお気になさらず…なんなら吉保のほうが5歳ほど年上ということにいたしましょう。
これはフィクションでございます。ファンタジーでございます。シリコン製極薄コンドームの使用も認められております。ですから皆々さまにおかれましては、お心を広くお持ちいただきまして、お楽しみくだされば幸いでございます。
今回のSSにはもちろん全くこれっぽっちも関わらないていうかむしろ関わりたくない、戦国武将の明智光秀でございました。

作成日: 2012年9月1日(土) 13:25

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