【SS】シンケンジャー「花薫姫君」
ツイッタを見たらシンケンジャーがトレンド入りしてて何事!?と思ったら、初回放送が10年前の今日なんだとか。へえ~。
なんかイベントあったわけでもないのにすごいな、愛されてるな!
と思ったので、その勢いでピクブラに過去SSを上げてみました。
志葉丈瑠×腑破十臓です!
……堂々としてたら、あとからハマった人たちが「ああそういうのもあったんだ~」的な感じでカジュアルに受け入れてくれるんじゃないかなって(うつむきながら)
このあとに書いた丈瑠×源太ならまだ需要があったんでしょうけど、殿十とつづいてるの不親切だし、さすがに字数がエグいことになるのでやめました。
10年前の作品というあまりの攻撃力に、自分のテキストを薄目で探して薄目でコピーしてそのまま貼り付けるという自己防衛行動に出ていましたが、まあ仕方がない! 10年だもの!!
なにも言うことはないですが、とにかくエロをがんばって書いてたなって印象です。
ていうかシンケンジャーってなんかエロかったよね(責任転嫁)
シンケンジャーは自分の中でも別格の戦隊で、安直に他人に勧めていいのかわからなかったんだけど、世間的にも高評価らしいので今は積極的に勧めていこうと思います(笑)。
カップリングはさておいても「すごい」戦隊だったよ。
どうでもいいけど俳優追わないポリシーの私が、作品終了後に全員別の作品で見てる(しかもほぼ生で)というのはなかなかレアで、それくらい全員がちゃんと世に出て仕事してるってことで、めずらしく(笑)「中の人全員推せる」作品でもある。
いろんな要素がかっちりハマったというのは、ルパパトにも似てるかも。ていうかルパパト好きな人はシンケン絶対好きだと思う……
エロと同じくらい健全な普通の二次創作もちゃんと書いてたという点でも別格だったかもしれない。
てことで、ピクブラには出せなかった「侍たち7人がきゃっきゃしてるだけの話」をここに置いておきます。
もうすぐ春だし。
最終回までのネタバレを含むので、ご同志の方のみどうぞ。「7人」の話です。つまり9年前の作品です。うへぇ。
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花薫姫君(はなかおるひめぎみ)
すらっと背が高く、顔立ちも端正な青年。昨今めずらしいくらいに重みのある低い声。
彼がひとたび声を発すれば、近くにいた者は老若男女問わず、思わずふり返り、その顔に目を留めるのも当然だろう。
しかし今現在に限って言えば、その視線は羨望でもときめきでもなかった。
「いやだ! 俺はぜったいに行かないからな!!」
二十歳過ぎの男とは思えないセリフだ。しかもそれが遊園地のお化け屋敷の前となれば、情けなさは倍増する。
志葉薫は初めて見る丈瑠の姿に呆然としながら、説明を求めるべく隣に立っている男を見やった。視線に気づいた源太は「ああ」と苦笑して肩をすくめてみせる。
「ちっちゃいころから苦手だったんだよ、丈ちゃんはさ。今でも苦手とは思わなかったけど、千明にバレたのが不運だったねえ」
だが薫が知っている丈瑠は、外道衆をも恐れぬ侍であったはずだ。その丈瑠に志葉家当主のプライドを捨てさせるほどの恐怖とは。
「……そんなに怖いのか、お化け屋敷というのは」
遊園地に来るのも初めての薫は、当然作り物のお化けなど見たことがない。丹波に聞かされた教訓交じりの怪談には眠れないほど怖がらされたものだが。
「いいや、外道衆に比べたらぜんぜん。わっと出てきておどかすくらいなもんよ。オレも、なんであんな怖がってるのかわかんねえ」
源太の言葉でさらにわからなくなった薫は、千明に手を引っぱられている丈瑠に歩み寄った。
「私も入ってみたい」
「姫!?」
「お姫さまがー!?」
いろいろあって丈瑠は薫の養子になったのだが、そもそも法的な効力はない。系図上の決めごとでしかないのに、歳も背丈もだいぶ上の男に「母上」と呼ばれるのは収まりが悪いと互いが思った。結局、丈瑠も侍たちも元通りに「姫」と呼ぶようになっている。
薫は丈瑠の顔を見上げた。
「丈瑠、供をせよ」
「ええっ!?」
丈瑠の絶望的な表情とは逆に、千明が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「お姫さまが入るって言ってんだぞ? 供をするのが息子の役目だよなあ、丈瑠?」
「な……」
言葉を失って青ざめる表情がおかしくて、薫はつい噴き出してしまった。
「お化けから私を守ってくれるな、丈瑠?」
挑発のつもりだったかもしれない。だが丈瑠が口を開く前に、金色のジャンパーが割り込んだ。
「姫さま、オレがついてくぜ。この丈ちゃんじゃあ、なにかあったときに姫をお守りできねえからな」
「源太……」
意外な助っ人に、丈瑠は運命の相手でも見つけたかのような潤んだ瞳を向けたが、一方の千明は「源ちゃん空気読めよ!」と怒っている。
薫はふむと考え込み、源太と丈瑠を見比べた。
たしかに、初めての場所には頼りになる連れのほうがいい。源太は侍ではないし、見た目の体格も他の侍たちより劣る。だが窮地の友を救おうと動いた、その心意気が気に入った。
「では頼むぞ寿司屋」
「おうよ! 足下気をつけな、草履はすべるからな!」
桜色の着物が金のスカジャンにエスコートされていくのを、千明と丈瑠はそれぞれの思いで眺めていた。
「ちぇっ、つまんねえの! 源ちゃんばっかいい思いしてさ!」
「……じゃあおまえが行けばよかっただろ」
「そういうんじゃねえよ、オレはおまえが困るとこを……」
再び言い争いをはじめる二人の前に、茉子がジュースを飲みながらやってきた。
「もう、なにやってんのよ」
「ま、茉子! 流ノ介とことはは?」
ことははともかく流ノ介がいれば、きっと千明の陰謀を阻止してくれたはずなのに。と、丈瑠がらしくもない逆恨みを込めて尋ねると、茉子はストローをくわえたまま真上を指した。
「あそこ」
見上げれば、悲鳴とともに轟音が頭上を駆け抜けていく。
「ことはがどうしても乗りたいって。流ノ介は保護者役らしいけど、どうだか……」
いくら三人とも動体視力が人並み以上とはいえ、ジェットコースター上の流ノ介が見えてしまったのは意図するところではない。あれだけの人数がいて、視覚的にも音声的にも存在感を示す流ノ介には三人とも驚嘆してしまった。
「ねえさんは?」
「あー、あたしああいうの酔っちゃうからダメなの。乗り物じゃないほうが……」
茉子は背景のお化け屋敷を見上げて、それから顔色の悪い丈瑠を見やった。
「ていうか、そこまでダメなの?」
呆れたように尋ねる茉子に、千明がにやりと笑う。
「ねえさん、見たことねえの? すっげーぜ、丈瑠のやつ……」
茉子の顔にとても優しい笑顔が広がるのに、時間はかからなかった。
丈瑠はじりじりと後ずさるが、両サイドから腕をつかまれる。
そして数分後。
お化け屋敷の外でジュースをすする千明の耳に、この世の終わりのような悲鳴と幸せいっぱいの黄色い歓声が聞こえてきた。
薫は動悸を抑えながら、ベンチに座ってクレープをかじっていた。
たしかにとてもスリリングだった。おどろおどろしさは丹波の怪談に及ばないが、それなりに物語性もあって、臨場感はたっぷりだった。
いちばん驚いたのは、遥か後ろから聞こえてきた男と女の悲鳴だ。この世のものとは思えなくて、自分も悲鳴を上げて源太にしがみついてしまった。とくに説明はなかったが、きっと不義を責められた夫の断末魔と呪いをかけた妻の高笑いにちがいない。
「落ちついたかい、お姫さま」
大きなクレープをあっという間に平らげてしまった源太が、顔を覗き込んでくる。
お化け屋敷から出てきて呆然としていた薫に「嫌いなもんあるか?」と声をかけながらクレープを買ってきてくれたのは源太だ。しがみついたときにも、彼はよろめいたりしなかった。やはり男は頼れるほうがいい。
「私はだいじょうぶだ。それより……」
ベンチの端に、仲のよさそうな男女が寄り添っている。事情を知らなければ、厳格な家で育った薫は「はしたない」と眉をひそめただろう。
「茉子……さっきは悪かった……悪かったから離せ……」
「ううんいいの、むりしないで。しがみつくなり後ろに隠れるなり好きにしてくれていいのよ、護ってあげるから!」
「あああ……」
男のほうが死にそうな声で呻いているのに、女のほうは心底愛おしげな目を向けて彼を抱きしめている。
「殿ー! お気をたしかにー!」
流ノ介が横で絶叫しているが、茉子のホールドに手を出すことはできないらしい。
茉子を押しのけ、あるいはその抱擁を辞退する、などという元気は今の丈瑠にはないようだった。ぐったりと茉子のなすがままになっている丈瑠を、千明がソフトクリームを舐めながらにやにやと眺めている。
薫は首をかしげ、茉子に尋ねてみた。
「茉子は、そんなに丈瑠が好きなのか?」
「え……」
少し驚いた顔をこちらに向けた茉子は、すぐに笑顔になって丈瑠を抱きしめた。と同時に苦しげな呻きが上がる。
「今は、好き」
「今は?」
「いつもはそうでもないかな。しゃんとして、きりっとして、隙がない感じだし。でもこんな風に弱ってると、かまってあげたくなっちゃうの。丈瑠じゃなくてもね」
丈瑠じゃなくても。
ということは、侍としてではないということだろう。彼らは志葉家当主という器ではなく、志葉丈瑠自身を主として選んだのだ。だが女としてというなら、わざわざ情けない状態を選ぶというのは理解しがたい。
余計にわからなくなり、薫はクレープの生クリームを舐めた。
「……変わっているな」
「そう? だってかわいいじゃない。こんな丈瑠なら大好きよ……」
満面の笑顔でそう言った彼女は、なにかに気づいたように長い髪を揺らした。薫も髪は長いが、茉子のストレートはとても美しい。まさに大和撫子といった風情で、だから現状とのギャップがよりすさまじい。
「ふふ……好きって言うの、なんか気持ちいいな。好き好き、大好きー!」
「おおーっ、ねえさん大胆ー!」
楽しそうに歓声を上げる千明と、合わせて野次を飛ばす源太、茉子に首を絞められて「ぐうう」と呻く丈瑠、そして「私も愛しておりますぞ殿ー!!」と声を張り上げる流ノ介。やかましいことこの上ない。
薫よりも年上の、立派に成人した戦士のはずなのに、まるで子どものようだ。
「なんなのだ、おまえたちは」
「仲良しですやろ?」
横からはんなりとした京都弁が聞こえる。ふり向くと、飲み物を買いに行っていたらしいことはが立っていた。
「いつもこうなのか。これが普通なのか」
さあ、といちばん歳の近い彼女は笑顔のまま肩をすくめる。
「うちも、京都の山奥で育ったんです。だから普通とかそういうの、わからんくて。でもうちの普通はこれでええんやって思います」
「そうか……」
薫も「普通」とは縁遠い。存在そのものを隠すため、屋敷から出ることもままならない日々だった。それを不幸と思ったことはないが、彼らを目にすると自分の日常がいかに無彩色だったかを実感する。
「あっ、でも、殿さまはいつももっとちゃんとかっこいいです! あんなんちゃいますよ!」
意気込んで言ったことはは、自分の言葉に照れたのか笑いながらストローをくわえ、そこで思い出したように五人に向かって叫んだ。
「なあなあ、あっちにプリクラあってん!」
真っ先に反応したのは千明だ。
「お、いいね! お姫さまぁ、プリクラ撮りにいこうぜ!」
「ぷりくら……?」
聞いたことのない単語だった。固有名詞だろうか。取る、というからには景品がもらえる遊びなのだろうか。どう反応していいかわからずに固まる薫を、茉子が覗き込む。
「プリクラ、知らないの?」
「あ、ああ」
その事実は茉子のなにかを刺激したらしい。丈瑠から興味を失わせるほどの。
「じゃあ今すぐ行きましょう!」
いきなり立ち上がったおかげで、茉子に上体をあずけていた丈瑠はベンチの上に投げ出される。
「殿!」
「丈ちゃん!」
流ノ介と源太があわてて駆け寄るが、茉子はすでに薫の手を引いていて、丈瑠には目もくれない。
薫はあわててクレープの残りを小さな口に押し込む。むせたところにことはがジュースを差し出してくれた。
「さ、殿も参りましょう!」
「いや、俺は……」
「丈ちゃんがいねえでどうすんだよ!」
丈瑠を抱き起こした流ノ介がその手を握ったまま目を輝かせ、源太もぐいぐいと腕を引く。丈瑠は半ば引きずられて女子たちのあとを追うことになった。
茉子とことはに挟まれ、薫は戸惑いながらあたりを見渡す。
同年代に見える少女も、彼女たちの母親か祖母にあたるであろう年配の女性たちも、だれも和服など着ていない。わかっていたことではあったが、実際に黒子も丹波もいないところで自分だけが着物姿というのは、ひどく決まりが悪いものだった。
「……茉子、ことは」
「はい?」
「なんですか?」
二人に両側から覗き込まれて、少し恥ずかしくなる。
「……私も洋服がほしい。今度、選ぶのを手伝ってくれぬか」
持っていないわけではないが、黒子たちが買ってくるのは年齢など関係ないスタンダードな色とデザインの服で、両側の二人や、目の前を行き来する女の子たちとはまるでちがう。山奥の屋敷では気にもしないが、華やかな街中ではやはり気になる。
桜色の袖を引いてみた。春の外出着の中ではいちばん気に入っている柄だったが。
「ここでは、少し場違いなようだ」
「お着物も似合ってはりますよ。お人形さんみたい」
「でも、いいかも。プリ撮ったらさっそく買いに行きましょ!」
茉子が指さしたショッピングモールは、薫も気になってはいた。あそこを歩けると思うだけで胸が高鳴る。
「姫、お待ちを!」
流ノ介の大声が、意外に近くから背中を押してくる。なんとなく覚えがあると思ったら、丹波と気性が似ているようだ。しかし丹波に彼のようなさわやかさは微塵もない。丹波ではなく流ノ介が仕えている丈瑠がとても贅沢に思え、薫はふり向いてわざとらしく眉を寄せた。
「見損なったぞ、丈瑠」
「でしょうね……」
否定する気もないらしく、丈瑠は困った顔で笑っている。
侍たちにかこまれて、二人は自然と肩を並べた。先導していた千明も「早く!」と急かしながらもどってきて、結局源太の肩によりかかっている。
薫は顔を上げ、高い位置にある丈瑠の顔を見た。
「いい侍を持っているな。……羨ましい」
薫に侍の家臣はいない。しいていうなら丹波くらいだが、歳の差は祖父と孫だ。当主に仕えることになっている同年代の「仲間」とは無縁だった。
本来ならば、と思わないこともない。だがこの信頼関係は丈瑠が自分の力で築き上げたものだと、薫はあの数日で思い知らされていた。志葉家十八代当主の影ではなく、志葉丈瑠として。
ふと、丈瑠が身をかがめた。目が合うと彼はにっこり笑ってみせる。
「俺もこいつらも、姫の侍ですよ」
「私の……」
その言葉を後押しするように、流ノ介と源太が言葉をつないだ。
「志葉家にお仕えするのが我らの務めですから!」
「姫は総大将ってやつだな!」
総大将。
悪くない響きだ。まだ戦えそうな感じがする。
実際にはまだ怪我も治っておらず、自らの全権は丈瑠へ譲り渡した。志葉家当主としては用済みのはずなのに。
「……そうか、私が総大将か」
哀しくはないのに、胸が苦しくなってくるのはなぜだろう。
出会いはあわただしすぎて、かなりすれちがってしまった。その結果、薫が彼らの和を崩すことになってしまった。丹波のせいにする気はない。志葉家当主たる薫が自分の意志で動いた結果だ。
だが、侍たちは最終的に薫を受け入れてくれた。心を捧げた主も、自分の心も裏切ることなく。
薫は唇を噛みしめて、涙をこらえた。泣くのはみっともない。侍として、母として、志葉の者として。今はまだ名ばかりだが、早く大人になって彼らに心から敬われる存在にならなければ。
気持ちを切り替えようと、丈瑠を見上げる。
「ところで、ぷりくらとはなんなのだ?」
丈瑠が苦笑混じりにショドウフォンを取り出し、くるりと器用に開いてみせた。その手つきに感心しかけたところへ、長い指が端のほうを指す。
「これです」
見れば小さな写真が貼ってある。目を丸くする薫の前に、次々とショドウフォンが差し出された。めいめいが好きな場所に、六人の集合写真を貼っている。
「姫も、貼りますか?」
「……!」
大人びていた少女の顔が年相応に輝くのを、六人の侍は微笑ましく眺めた。
(by NICKEL, Feb, 2010)
殿のショドウフォンには千明が勝手に貼りました。