【SS】ルパパト「バレンタイン」

ニッカリズムの昨夜から今朝にかけての「やることやったからバレンタインもう終わりましたよね」感すごい。いや日常でご縁がないもので。

ということで! ピクブラの菓子ほしさに今年もムリヤリ参戦しました!(正直者)
ビルドは去年やったので今年はルパパトかなって思ったんだけど、あの最終回後にネタなんかないわ……ってかなり苦しみました。
思いつくところからってことで、咲也の叫びから書きはじめたら、ぜんぜんBLに辿りつかないし。なんとかちゅーまでいけてよかったです。
あ、ちなみに魁利と圭一郎ですんで!
今それ以外のものは書けない(笑)。

アルカリは戦兎とマスターでがんばったみたいですよ。
私は下書きの状態で読んでたんですけど、マスターがかっこよすぎたのと戦兎がアレすぎたのとで、3回読み返してやっと数式に気づきました。わかんなかったっていうより気が回ってなかった(笑)。
この前の同人誌で書き下ろしたSSもなんだけど、物理学に太刀打ちできない一般人には高校レベルの数学ネタが精いっぱいなんで、理系の方はふふって笑いながら優しい気持ちで読んでください。

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魁利と圭一郎の再会。
最終回の時系列が一年後の2月10日だとしたら、直後にバレンタインデーなはずってことで。

 

【Valentine’s Day,2020】

 

三人は、デスクの上に築かれたギフトの山を眺めていた。
「今年は去年より多いんじゃないですか?」
咲也がつかさのほうを見ながら呟く。
「まさか。このご時世、減っていると考えるのが妥当だろう」
「いやいやいやなに言ってるんですか……」
義理チョコやそれに準ずるやりとりの慣習は、返礼も含めて表向き撤廃されているが、国際警察内でも花形のパトレンジャーには、義理よりもいくらかは気持ちが込められたプレゼントが集まる。
中でも明神つかさの女性人気はすさまじいものがあり、「日頃の感謝」から「ファンです」まで、直接的にも間接的にもかなりの女性たちから「好意」を贈られていた。
「おまえだって、そこそこもらってるじゃないか」
「それはそうですけど……」
圧倒的落差の前に、数がどうのと張り合う気はない。そんなことより。
「本命からもらえなきゃ意味がないんですよ!」
「おまえ……」
「ムチャ言うな……」
力いっぱいの叫びに、先輩二人が同時にため息をつく。
咲也の「本命」は未だ指名手配犯で、二人が手を取ることがあるとしたら、それは手錠をかける瞬間と言っていい。その切なさを理解はしているからそれ以上は二人とも言わないが。
「まあまあ、しばらくは皆さんもお茶請けのバリエーションが増えていいじゃないですか」
ジムが横からなだめるように口をはさむ。
彼らの上司は大の和菓子好きで、常に饅頭や最中が置いてあるが、この時期だけは「いただきものの消化」ということで、洋菓子が優先される。圭一郎はともかく、餡と米菓に飽きている咲也にはそれなりに楽しい季節だ。
そういうわけで三人それぞれに渡されたプレゼントもあっけなくまとめられ、ジムに預けられるのだった。
「生ものとアルコール、食品以外の雑貨は、各自持って帰ってくださいね」
ジムのかけ声に、三人は改めて包みを開けたり覗いたりして中身を確かめる。
「俺は……このワインくらいかな」
圭一郎は、細い紙袋に入った小ぶりのワインボトルを取り上げた。他は置いていっても問題なさそうだ。
「じゃあ、お先に」
そう言ってワインの紙袋と通勤鞄を提げオフィスを後にする。
バレンタインデーなど職場を出た時点で終わるイベント……圭一郎にとっては、毎年その程度の認識だった。

冬の風に身をすくめ、帰宅途中の自販機で缶コーヒーを買う。
身をかがめて取り出し口に手を伸ばしたとき。
「おーまわーりさん」
聞き慣れた声に、はっと体を起こしてあたりを見わたす。
道の反対側、外灯をスポットライトにして、明るい髪色の青年が立っていた。
「魁利く……」
彼は薄く笑みを浮かべた唇に指を当て、ゆっくり圭一郎に歩み寄ってきた。目立つタキシードではない。ハットやキャップすらかぶっていない。普段着で、圭一郎がよく知っている素顔を隠してもいない。
しかし……
「わかってるのか……快盗に戻ったからには、俺はきみを逮捕しなければならない」
喉に引っかかる言葉をむりやり絞り出すと、彼は思ってもみなかったといった顔で肩をすくめた。だれよりも自分の立場は理解しているくせに。
「今日は盗りにきたんじゃねえよ」
そう言いながら、彼は手のひらに小箱を載せて差し出す。シックなリボンのかかった、上品なギフトボックス。
「なんだこれは」
「チョッコレート」
こともなげに言って、にっと笑ってみせる。久しぶりに間近で見る、小生意気な笑顔。
「今日がなんの日か知らないなんて言うなよ、その手に持ってんのもそうだろ?」
指さされ、自分が提げている袋の存在を思い出した。確かに今日はバレンタインデーだが……
「このために、わざわざ俺の前に出てきたわけじゃないだろう」
「なんで? ああ、味は保証するぜ、透真が作ったやつだから……」
「悪ふざけもいいかげんにしろ!」
思わず怒鳴っていた。箱を受け取る代わりに、その手首を掴む。
魁利の顔から笑みが消え、そしてごく自然に身がまえたのを見てとった。どんなにただの若者に見えても、彼は「世間を騒がせた快盗」なのだ。こんなに細い腕で、圭一郎の前から何度もコレクションをかっさらっていった。そして、自らの意思で永遠に出られない戦場へと消えていった……
「……っ」
細い手首に指を食い込ませる。
あのとき、自分がこの腕をしっかり掴んでいたら。
「……俺は、きみを救えなかった……」
あふれる思いの中で、言葉になって出てきたのはそれだけだった。
彼が生きて帰ってきたのも、また自分の前に現れたのも、不謹慎なほどにうれしくてたまらなかった。だが、自分の力では彼の命も心も闇から救い出すことができなかった。彼に必要なのはおせっかいな友人などではなく、大切な仲間や家族だったのだ。
魁利の体から、ふっと力が抜ける。
「そうでもねえよ」
真剣な声で囁いた魁利は、うつむきかけていた圭一郎の頬に触れて顔を上げさせる。
鼻がぶつかりそうな距離にある彼の顔が、さらに近づいてくるのを圭一郎はただ見つめていた。彼がなにをしようとしているのか見当がつかないわけではないのに。
互い唇が静かに触れた。
接触は予想していた。だがその感触までは予想できなかった。ほとんど息だけの、静かな囁きも。
「会いたかったんだ」
手から紙袋がすべり落ちる。足下でガラスが割れる音がした。
「あ……」
いっしょに見下ろした魁利は、平気な顔で肩をすくめる。
「あーあ、割れちった。大事なプレゼントだったんじゃねえの?」
「……義理だ」
ワインの瓶を割ってしまったことも、たった今の口づけも、気まずくてつい顔を背ける。
力の抜けた圭一郎の手をたやすく振りほどいた魁利は、ついでのようにチョコレートの箱を渡してきた。それから身軽に離れて自販機の取り出し口に手を突っ込み、さっき圭一郎が買った缶コーヒーを掴み出す。
「あー、あったけえ……」
冷え切った指先を温めるように両手で缶を包み込んでいる。こちらに背を向けたその表情は見えない。
ほんとうに、圭一郎に会いに来ただけだというのか。あらゆる危険を冒して、くだらない季節行事にかこつけたプレゼントまで用意して。
「魁利くん、今なら……」
こちらをふり返った彼は、現れたときと同じように唇へ指を当てた。
その感触が蘇り、息を止める。
「またね、圭ちゃん」
それから数秒後、圭一郎は一人で自販機の前に立っていた。冷たい風が顔に吹きつけ、思わず身をすくめる。
飲みそこねたホットコーヒーのボタンにちらりと目を走らせ、それから中身の割れた細長い紙袋を拾い上げて、寒風の中帰路を急いだ。
片手に、快盗からの贈り物を抱えて。

 

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友チョコ交換に全力を注ぐ初美花としほちん
二人で作って二人で食べる透真と彩さん
お兄ちゃんが職場からもらってきて山分けする夜野兄弟
日本伝統の「ギリチョコ」をみんなからもらってご満悦のノエル
とか想像するだけで甘い気持ちになります。

ノエルがおかしい。