士/月影
仮面ライダーディケイド:門矢士(大首領)/月影ノブヒコ
人形遊び
椅子の上に、人形が一体座っている。
ひょろりと長い手足から伸びる糸を握っているのは、この自分だ。
玉座の前に跪き、その人形にうやうやしく頭を下げる。
人形が傲然とした表情でこちらを見下ろす、その滑稽さに噴き出さないように。
「月影」
人形に名を呼ばれ、男は心得たように微笑んでみせた。
その人形……大首領という名札を首から提げられた青年は、玉座の肘掛けに頬杖をついて、もの憂げに見下ろしている。
「……ひまだ」
投げつけるように一言吐き出し、それからいかにも大儀そうに玉座から立ち上がる。ほっそりとした長身がゆらりと揺れ、しかし迷いのない足どりでまっすぐ階段を下りてきた。尖った靴が階段を叩く。
かつ……と音を立てて最後の段を下りきったとき、彼は男の前に立っていた。
背丈はほとんど変わらないはずなのに、青年は常にこちらを見下ろす。糸で吊られた操り人形は床に足がついていないからだ、と男は思っていた。
「月影……」
いかにも人形らしい、細く長い指が、男の頬に触れる。慈しむように肌をなぞる指の動きに震えかけ、くだらない陶酔だと自分に言い含めた。こんなことで表情を崩してはならない。
覗き込むように近づいてくる顔がなにを望むのか察し、目を閉じる。視界が完全に閉ざされる直前、人形にしては肉感的な唇が笑みを作るのが見えた。
その唇が、優しく重ねられる。ゆっくりと押し広げようとする厚い唇に逆らわず、かすかに口を開ければ、冷たい舌がすべり込んでくる。
「んぅ……」
後ろに回したままの両手を、固く組んでいた。片手を頬に置かれているだけで、互いに体重をあずけてはいない。自分自身の足で立ち、ただ青年の口づけを受けつづける。青年は顔の角度を変えながら、執拗に男の口腔を犯していた。
「は……っ」
やがて、息がつづかなくなる。だが拒絶は許されない。今、自分は人形遣いではなく、人形の忠実な下僕という役回りだからだ。こちらの意のままに動かすために、人形自身が人形であることを悟らせてはならない。
「……ふ……ぅっ」
眩暈で身体が揺れた。どういうわけか、人間でないこの自分よりも、ただの人間であるはずの彼のほうが息が長かった。それを知っていて、青年はこの奉仕を強要する。そして、下僕が立っていられなくなったときには決まって……
青年の唇が離れるのと、右頬に衝撃と痛みを感じたのは、ほぼ同時だった。
「……っ!!」
頬を張られ、眩暈も手伝って踏みとどまれずに冷たい床へと倒れ込む。
「やめていいと……言ったか?」
絶対零度の視線が上から注がれていた。
「申しわけ……ありません……」
霞む目で、遥か上にある顔を見上げる。飲み込みきれなかった唾液があごを伝っていくのが不快だが、拭おうものならまた不興を買うのだ。この幼稚な傀儡の。
「さあ、どうやって詫びる?」
青年は首をかたむけ、楽しそうに目を細めた。男は荒い息を静めようと肩を上下させながら、決まりきった返事を口にする。
「……我が身で」
人形が、喉の奥で笑うのが聞こえた。
階段に腰かけた青年が大きくひざを広げ、その足のあいだに男がうずくまっている。正確には、四つん這いにさせられている。
「ずいぶん……巧くなったな……」
恍惚を帯びた賛辞が、頭上から降ってくる。だがそれで気分がよくなるわけではない。苛立ちが増すだけだ。
息苦しさをなんとかしようと、首元のボタンを外した。とたんに、背中へ硬いかかとが振り下ろされる。
「ぅぐ……」
「手は使うなと言っただろう」
弁解をしようにも、口は使えない。男の口は青年の一物を奥まで突っ込まれ、言葉どころかうめき声すら封じられていた。彼がいいと言うまでこの行為は終わらない。ならばさっさと満足させて解放されるのが唯一の道だ。
「あぁ……そうだ、それでいい……」
うっとりと洩れるやわらかな声とは裏腹に、口の中の欲望は硬く大きく育ち、男の喉を突き上げていた。背中に乗せられたままの足が背骨に当たっている。気が散って仕方がないが、どうすることもできない。
「ん……もう、いいぞ」
ようやく足が下ろされたかと思うと、優しげな声とともに髪を乱暴につかまれ、むりやり頭を押しやられる。自分の口から引いた糸が床に落ちるのが見えたが、取り繕う気も起きなかった。
「上はもう飽きただろう? 次は下でくわえさせてやる」
ジャケットのファスナーを下ろしながら、青年は傲然と要求した。拒否権はない。
「……かしこまりました」
息苦しいネクタイを引き抜き、胸元を締めつけていたボタンを外す。それから、ベルトを外した。この屈辱も、相手がただの人形だと思えばどうということはない。自慰のような行為だと割りきってしまえばいいのだ。
無言で見下ろしていた彼が、不意に男の肩をつかんだ。
「!?」
その肩を床へと叩きつけられる。痛みに耐えながら、ああそういうことかと理解した。青年は獣のように下僕を四肢で床に縫い止め、真上から顔を覗き込んで唇を舐める。
「その目だけは、気に入らないな」
「……っ!!」
服を引きずり下ろされたかと思うと、一気に後ろへと突き込まれた。自ら育て上げた凶器が、容赦なく襲いかかってくる。
「ぅ……ああっ!」
身体は異物を押し出そうと抵抗するが、侵入する力のほうが圧倒的で強引に開かされる。惨めな悲鳴が上がるのと、逃げようとする腰が浮くのだけは抑えられなかった。
「そうだ……もっと泣け! 俺に屈しろ!!」
人形がなにかを叫んでいる。勝ち誇ったように。己が人形だと知りもしないで、愚かな傀儡だ……
「……っ!!」
背筋を衝撃が駆け抜ける。痛み以外の感覚が、男の中に入り込んできていた。
それは身体の変化としてだれの目にも明らかになる。青年も気づいたらしく、猛攻を中断して、男の顔を覗き込んだ。
「これだから……おまえが好きなんだ。おまえの身体がな」
蔑みの笑顔を目にした男は、唇を噛んでうつむくしかできない。そして、自分に何度も言い聞かせる。
目の前にある、これはただの人形。そしてこれは、ただの自慰行為……
広間に、荒い息が響く。時折、それは甘さを含んだ喘ぎへと変わる。
「はぁ……んっ」
男はひざに力を込め、ゆっくりと腰を浮かせた。中を、硬い屹立がずるりと擦っていく。
「ぅん……その調子だ、月影……」
先ほどと同じように階段に座って足を広げた青年は、ただし今度はその腰の上に男を乗せて、宣言どおり「下で」くわえさせていた。
「くぅ……ん……」
頭を動かせばよかった先ほどとはちがう。身体すべてを使って動かなければならない。
しかも、またしても手を使うなという彼の意向で、後ろに回された両手首はネクタイで縛り上げられていた。青年の腕は一段上に置かれているだけで、こちらを支えてくれるわけでもない。そうしてただ暢気にこちらを見上げ、汗と唾液が喉を伝っていくのを眺めているだけなのだ。
「ペースが、落ちているぞ? あまり、体重をかけるな……」
「も、うしわけ……ございませ……っ」
平静を保とうとしても、勝手に息は乱れる。腰は少しでも快感を得ようと、青年を貪欲にくわえ込んで内壁を擦りつけようとする。自重を支えきれないひざが少しでも力を抜けば、最奥まで深く彼を受け入れることになる。
「ん……ふぅ……っ」
痛みだけならば、いっそ楽だっただろうに。
「涎を垂らすほどうれしいか……意地汚いやつだ」
「っ!!」
先端を指先でなぞられて、思わず硬直する。零れ出た先走りを塗りたくるように硬い指がそこをいじり、陰茎へと下りていく。
「ぁ……士、さん……」
使えない腕をよじり、身をくねらせ、必死に逃げようとする。だが、それまで支えようともしなかった彼の腕が腰にまわされた。
「こんなところまで、勃起してやがる……」
「!!」
濡れた指が胸の頂をつねるようにつまんだ。鈍い痛みと痺れに怯んだ身体を、下から容赦なく貫かれる。
「ぁふっ……ゃ、やめ……」
つい口から洩れた懇願を、青年は聞き逃さなかった。
「俺に、指図するのか……?」
乳首に爪を食い込ませ、彼は冷たい目で睨みつけてくる。これ以上機嫌を損ねるのは得策ではない。
「い、ぃえ……もっ……と、あなたと、繋がりたい……」
青年の目が笑みに細められる。
子どものように無邪気な、しかし冷酷で残忍な支配欲がその目の中に見えた。
「そうだ、月影……おまえは、俺のものだ……」
目の前に、人形が一体座っている。
操るための糸を握っているのは、この自分だ。その気になれば、いつでも好きに動かせる。糸を切って床に叩きつけることさえ、たやすくできる。
だが、今はまだその時ではない。
その時が来れば、すべてが変わる。人形は床に転がり、動くこともなくなるだろう。
この屈辱も、それまでの刹那に過ぎないのだから。
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