翔太郎/竜
仮面ライダーW:左翔太郎/照井竜
安ホテルのドアがせわしなくノックされた。
苛々と狭い室内を歩きまわっていた左翔太郎は、その勢いのままドアに駆け寄った。しかし訪問者が風都警察署の刑事である照井竜とわかると、露骨に舌打ちして彼から目をそらし、窓際へと足早に歩み寄る。
竜のほうはそんな翔太郎の態度に気分を害した様子もなく、部屋へと入ってきた。
「例の攻撃への対策は見つかったのかよ」
「ああ」
簡潔な返事の後に続く言葉を待ったがなにもない。重ねて問おうとふり返った翔太郎が見たのは、ゆっくりとジャケットを脱ぐ竜の姿だった。
「俺が対策だ」
「!」
火がついたように、体が熱くなる。翔太郎は必死にシャツの胸元を押さえて、自分を押さえ込もうとした。
「なっ、なに言ってんだよ、できるわけねえだろ、そんな……」
かすれがちに声が途切れたのは、ジャケットを脱ぎ捨てた竜がおもむろにシャツをも脱ぎはじめたからだった。細く引き締まった肉体から、目が離せない。
上半身を晒した竜は物怖じすることなく近づいてくる。翔太郎は思わず後ずさったが、その結果自ら部屋の隅へと追い込まれてしまっていた。
「おい、わかってんのか照井、俺はな……」
最後の手段とばかりに、カーテンをつかんでその陰に隠れようとする翔太郎の手を、竜は力強い腕で引き寄せる。それから眉間のしわを深くし、苦しげに囁いた。
「欲しがっているのが、おまえだけだと思うのか?」
「……!!」
目の前の身体に手が伸びかける。相手がいいと言っているのに、耐える必要がどこにある? 自分にそう弁解しかけた翔太郎だが、必死に思いとどまった。
「やっぱ、よくねえって……」
この一線を越えてしまったら、自分たちは……
だが、竜はためらわなかった。
「正直に言え。俺を、どうしたい?」
「俺は……」
不意に、竜のほうへ引き寄せられる。抗うことさえ迷っている翔太郎が踏みとどまりきれるはずもなく、翔太郎はあっさり竜に抱きしめられていた。身をゆだねてしまいたくなるほどに、その腕は優しくも熱い。
「左?」
一度触れてしまった肌から、手を離すことはひどく難しい。翔太郎はおそるおそる顔を上げ、間近にある顔を覗き込む。
「俺は……っ」
答えるかわりに、薄く開いた唇にかぶりつく。
薄暗い室内に、荒い息と濡れた音が響きはじめた。
Lの記憶/彼が彼を愛するとき
その日やってきた依頼人は、「イマドキ」とは一線を隠した様子の高校生だった。
長めのスカートに重々しい黒いロングヘア、さえないメガネといった地味な要素は、いくら女子高生の看板を背負ってはいても、翔太郎のテンションを上げることはできなかった。
草加雅美と名乗った彼女は、少し言いにくそうに声を落として依頼内容を告げる。
「この街のどこかにあるという、本物の『愛の記憶』を探してほしいんです」
いつもにも増して風変わりな依頼に、事務所の中には奇妙な沈黙が流れる。
「……ええと、それは犬の名前かなにかですか?」
それでも伊達に奇妙な事件をこなしてきたわけではない。自称所長の鳴海亜樹子が、懸命に話をつなげようと声を張り上げた。
しかし雅美のほうは、きょとんとした顔で一同を見返す。そこには近ごろ隠れ家にこもることが少なくなったフィリップ、用もないのにやってきては勝手にコーヒーを淹れて勝手に一服している照井竜も含まれていた。
「ご存知ありませんか? ラブメモリって……」
「ラブ、メモリ?」
亜樹子は両手でハートの形を作って胸の前で振りながら首をかしげている。あとの三人も声には出さないが「なんだそれ」という表情だ。
彼女はバッグの中から携帯電話を出すと、ストラップについているメモリスティックのようなものを示してみせた。大きく「L」と飾り文字が入っているのを見て、全員が一瞬息をのむ。
「今、すごく流行ってるんですよ。ラブメモリって『愛の記憶』が入ったメモリのことで、持ってると好きな人と結ばれるっていう御守りなんです」
よく見れば、Lのあとに小さく「ove」と小文字でつづいている。色もピンクでラインストーンなどが散りばめられていて、ガイアメモリとは関係ないようだ。
翔太郎は半笑いで雅美の顔を覗き込んだ。いくら高校生とはいっても、恋の御守りを本気で信じているわけではないだろう。
「今持ってるそれは、ちがうんですか?」
「これもラブメモリですけど……1万本に1本だけ、ほんとうに100%恋が叶う本物のメモリがあるそうなんです。それを探してほしいんです」
どうやら、そこまでして結ばれたい相手がいるようだ。
「あー……雅美さん、それはご自分で相手にアクションを起こしたほうが確率高いんじゃないかと……」
「だから本物のラブメモリを本気で探してるんです!」
どう考えてもまともな依頼ではない。ため息をついて天井を仰ぐ翔太郎を、フィリップと竜が哀れみのこもった目で眺める。助け船を出す気はないようだが。
「そうですね……でもうちは高いですよ? 女子高生のお小遣いじゃあとても……」
「お小遣いならいっぱいもらってます」
財布を開け、彼女は金色のカードを印籠のように探偵たちの鼻先に突きつける。
ふらふらと引き寄せられた亜樹子は、カードの名前を見て「あ!」と叫んだ。
「もしかして、草加興業のお嬢さん!?」
「祖父は会長です」
こともなげに言ってカードをしまう財布も、よく見ればブランドものだ。翔太郎がイヤな予感に亜樹子を見やったときにはすでに時遅く。
「わかりました! 鳴海探偵事務所の総力を挙げて、あなたの恋を応援します!!」
「おい亜樹子……」
「うちの優秀な探偵が、まゆげコアラでも金のエンゼルでもなんでも見つけてきますから!!」
「ちがうだろそれ……」
金と権力に目がくらんだ所長が一時のテンションで安請け合いしたその仕事は、翔太郎たちにも新しい「愛の記憶」を刻み込むことになる。
地球(ほし)の本棚から出てきたフィリップは、少しばかりうんざりした顔でソファに腰を下ろした。
「いちおう検索してみたけど、ラブなんてガイアメモリはない。ラブメモリという商品自体もただのおもちゃだ。ガイアメモリの流通ラインとはかすりもしないよ。ドーパントが関わっているとは思えないね」
「そっかあ、よかった!」
亜樹子はにこにこと電卓を叩いている。
「うれしそうだね、亜樹ちゃん?」
「だってドーパント絡みなら、ただ働きになっちゃう可能性がおっきいもん。これで心おきなく仕事に専念できるってこと……」
「それはどうかな」
「竜くん!」
ドアが開いて、竜が入ってきた。後ろから翔太郎もついてくる。帰ってきたところで出くわしたのだと、翔太郎はだれに訊かれたわけでもないのに説明した。
竜はテーブルに亜樹子が淹れたコーヒーがあるのを見ると、なにも言わずキッチンへ向かう。そのあいだに、翔太郎が調査結果を留守番の二人に披露した。
「ラブメモリっておまじない商品が流行ってるのは事実だ。クイーンとエリザベスも持ってた。1万本に1本の噂も有名だそうだ。ただし最近になって、噂に新しい要素が加わったらしい」
風都の高校生事情なら知らないことはないとまで言われている若き情報屋コンビは、たしかにフィリップの検索よりも確実だった。
「新しい要素?」
「メモリのおかげで恋が成就すると、嫉妬深い怪物がそのメモリを奪いにくる……ってな」
亜樹子がはっと息をのむ。風都に現れる怪物といえば、ドーパントだ。
「ただ噂に尾ひれがついただけじゃないのかい?」
フィリップがもっともな疑問を口にしたとき、コーヒーを淹れた竜がトレイを手に戻ってくる。
「今月、怪物に襲われた中高生は6組。いずれも『ラブメモリ』を所持していたが、怪物に奪われている。偶然にしては数が多いし、金品が無事なのも不審だ。ほぼまちがいなく、ドーパントの仕業だろう」
「でも、なんのために?」
「ドーパントも『本物』を探しているんじゃないかって、ウォッチャマンは言ってたぜ」
「うえー、ウォッチャマンも知ってるのにあたしたちだけ知らなかったのー? 時代に乗り遅れすぎでしょココ……」
亜樹子が妙なところでショックを受けて頭を抱えているが、三人は無視してコーヒーをすすった。
「それと、もうひとつ……ドーパント絡みと思われる別の事件が起こっている。ラブメモリを奪われた被害者も何組か関わっているのが気になるんだが。何人かは怪物を目撃したとも証言している」
説明する代わりに、竜は極秘のはずの事件ファイルを取り出した。翔太郎とフィリップは頭を寄せ合ってファイルを覗き込み、竜が口頭で説明しようとしなかった理由を知る。亜樹子も覗こうとしたが、翔太郎が「おまえには早い」と押しやった。
あっという間に資料に目を通したフィリップが、顔を上げる。
「つまり、明らかに不自然なセックス依存が急増しているということだね」
不穏当な単語に、当人以外の全員がぎょっとした表情を浮かべた。
「なにそれ!? どんな事件よ!?」
亜樹子が必死に手を伸ばすが、翔太郎はフィリップごとファイルを部屋の隅へ追いやった。
「日常生活に異常をきたすほど、性行為に執着する……それが恋人同士ならまだわかるが、ただの同僚や通りすがり同士までが突然に求め合うようになる……たしかにおかしい」
「風都はそんなに乱れた街じゃなかったはずだぜ」
翔太郎の言葉に、竜も重々しくうなずく。
「最初は浮気だ不倫だでもめる程度だったが、公然猥褻罪で捕まる者も出る始末だ。かといって乱交というわけじゃない。欲望を感じる相手は一人だけと決まっている。一度そうなると、恋人や配偶者がいても興味を持てなくなってしまうらしい。自分の意志とは無関係に惹かれてしまうのだと言っていた」
「悲劇か喜劇かわかんねえな」
「そのうち惨劇になるぞ。愉快犯の線が強いと俺は思うが……」
「わかった。ラブメモリのついでに調べてみる」
翔太郎はもういいとばかりに手を振ったが、フィリップはなおも資料を何度も読み返していた。
「ラブのメモリに、セックス依存か……興味深い」
ラブに、セックス……
フィリップの声が中途半端に頭の中でくり返される。いつもと同じ、妙な事件に巻き込まれた程度の認識だったのに。
今や自分自身の立場が悲劇か喜劇かわからない。
「ほんとに、いいのかよ」
自ら誘っておきながら、ベッドに放り出された竜はどこか戸惑っているようだった。
「そのためにここに来たんだからな」
そのくせ、不遜な態度は変わらない。
彼の腰の上にまたがった翔太郎は、おそるおそるその頬に指を触れさせた。びくりとわずかだが肩をすくめる様子が妙に色気を感じさせる。
「くそっ、なんでよりによっておまえなんか……」
「真倉のほうがよかったか?」
「ふざけんな……」
叫んだ勢いのまま、彼の口に噛みつく。ただ口をふさぐためだった行為は、すぐに性行為の導入へと移行する。
どこか遠慮がちに背中へ回されていた竜の手が、シャツの上から背中に爪を立ててきた。逃げようとする竜の舌を追いかけて、翔太郎は彼の口腔内を隅々まで犯していく。苦しそうに上がる声さえ、甘さを含んで聞こえる。
「んぅ……ん……」
背中に食い込む指と爪が痛いくらいに感じられる。翔太郎はもどかしさに身をよじりながら、自分のシャツのボタンを外した。口づけだけはやめずに。
裸の胸と胸とが触れ合う、それが着火の合図だった。
翔太郎の熱に竜の身体は戦き、その震えを感じ取った翔太郎は竜の肌へ触れずにはいられなかった。
唾液の糸を引きながら、名残を惜しむ舌を離した翔太郎は、潤んだ目でこちらを睨みつけてくる竜をまっすぐ見据える。
「照井……抱いていいか」
彼は答えず、ただ口元に優しげな笑みを浮かべた。
汗に濡れた肌が、暖色の間接照明に照らされて淫猥な色を帯びている。見慣れているはずの人間が、全く別人に見えた。汗で髪が張りついた顔を、翔太郎は恍惚とした気分で見下ろす。そこには見たこともない表情で喘ぐ竜がいた。
柔らかさなどまるでない、筋肉で構成されたその胸を、翔太郎は執拗にまさぐっていた。そのたびに竜は鼻にかかった声を洩らす。
「ぁあっ、あ…んっ……」
正確には、翔太郎が動くたびにつながった局部が竜の奥を深く穿っているせいだった。猛った男根を根本まで飲み込んで、竜の内壁は震えるようにひくついている。
最初こそ歯を食いしばって耐えていた竜だが、一度決壊すると抑えがきかなくなるらしい。何度も声を殺そうと耐えては、そのたびに失敗して嬌声を上げる。翔太郎の肩をつかむ手も、押しやりたいのか引き寄せたいのかわからない。
翔太郎は汗ばんだ首筋にかじりつきながら、再び最奥へと侵入する。
「や……っ、ぁは、んん……っ」
上がる声が苦痛を訴えるそれでない証拠に、竜自身が翔太郎の腹を突いていた。翔太郎だけではない、竜もこの行為に快感を見出している。その事実がさらに翔太郎を昂揚させる。
「男に、ヤられんの……そんなにイイのかよ……?」
竜は顔を隠すように両腕で目を覆い、いつもの文句をぶつけてきた。
「俺に……質問、するな……っ」
しかし上ずった声で喘ぎながらでは迫力もなにもない。翔太郎は竜の両腕をつかんで彼の頭上にどかせた。
「ムリすんなよ……もうガチガチだぜ? ヌいてやろうか? それとも俺が見てる前で自分でヤるか?」
「……!」
頬にさっと朱が差し、彼の怒りを感じ取る。
すぐに後悔したがどうにもならない。ほんとうなら、ただでさえ屈辱を強いている彼を、さらに辱めたくはなかった。それなのに一方では、プライドの高い彼にひどい言葉をぶつけて貶めてやりたいという歪んだ欲望が頭をもたげている。だれに対しても、こんな気持ちになったのは初めてだ。
自分も混乱したまま、翔太郎は彼の屹立へ力を込めて指をすべらせた。竜がびくりと全身を震わせ、その拍子につながった部分もきつく締まる。
「くぅあ……っ」
翔太郎が身をのけ反らせると、角度が変わって竜も喘ぐ。手の中で硬さが増すのを感じながら、翔太郎はその部分を愛撫した。
「照井……もっとエロい顔見せろよ……」
竜が嫌がる言葉をわざわざ選ぶ自分にも嫌気がさすが、それを上回る快楽への欲求が翔太郎を衝き動かしていた。
「黙れ……ぁああっ!」
こちらを睨みつけようとした竜が、翔太郎の手で果てる。裸の胸を自身の精で汚して。限界に近かった翔太郎も、彼の中に欲望を吐き出した。狭い部屋に熱っぽい余韻と荒い息が立ちこめる。
「照井……!」
思わず、犯したばかりの身体を抱きしめていた。矛盾しているとはわかっていても、なんの罪もない彼を傷つけていることに耐えられない。
「ごめんな……こんなこと……ほんとごめんな、照井……」
「……左?」
かすれた声が小さく問いかけてきた。
「名前で、呼んでくれよ……」
いつもと同じ呼び方では味気ない。きっとそこに義務を感じるからだ。
「今だけでいいから……」
翔太郎を救うためにここへ来たのではなく、翔太郎と同じようにこの行為のために、ここにいるのだと思いたい。
竜は少しのあいだためらっていたがやがて口を開く。
「っ、翔太郎……」
乱れる息のあいだから洩れた声に、ぞくりとした。
「もう一回」
すがるような懇願に応えて、濡れた唇がゆっくりと動く。
「翔太郎……」
ただ名前を呼ばれているだけなのに、甘えのこもった親しみを勝手に感じてしまう。特別な間柄だと錯覚してしまう。今、このときだけでも。
「だめだ……我慢なんて、できねえよ……」
同じ言葉を、最近別のだれかから聞いたばかりのような気がする。しかしその状況を思い出すより先に、翔太郎は再び竜を抱きしめていた。
調査を進めていくうち、翔太郎は二つの事件両方の被害者に行き当たった。
木場勇気という女子高生は最初知らないふりをしていたが、翔太郎と亜樹子が信頼できると判断したのか、ためらいがちに語りはじめる。
「直ちゃんと帰る途中だったんです」
「直ちゃん?」
「海堂直。同じクラスの女の子で、部活もいっしょなんです。その部活の帰り、鳥のお化けみたいなのが突然空から襲ってきて……殺される!って思ったんですけど、バッグにつけてたラブメモリだけ引きちぎって……」
噂どおりだ。翔太郎は思わず身を乗り出す。
「それだけ?」
「いえ……なんか、よくわかんないんですけど、眩しい光がぴかーってなって……目が見えるようになったら、もう怪物はいなかったんです」
害のない攻撃に、翔太郎と亜樹子は顔を見合わせて首をかしげるが、その後の話を聞いて認識を改めた。
「それから、直ちゃんの顔見たら、いきなりすごいエッチな気分になってきて……今まであたしたち、そんなことぜんぜんなかったんですよ! でも直ちゃんもそんな感じだっていうから、あたしたちカラオケボックスに行って……」
彼女は最後まで話さなかったが、上気した顔の表情を見ればだいたいわかる。
「それから毎日、直ちゃんと……するようになって。学校でも直ちゃんの顔見るだけでドキドキしちゃってダメなんです。あたしがホントに好きなのは乾くんなのに……今、考えるだけでもヤバくて……」
もじもじとひざをすりあわせて身をよじらせる彼女からは、明らかに危険な色香がにじみ出ていた。
「だめ、もう我慢できない……!」
彼女はものすごい勢いで携帯電話を開いてメールを打つと、スクールバッグをつかんで飛び出していく。
「うわ……」
「過激……」
女子高生同士の禁じられた遊戯、という刺激的な妄想にトリップしかけた翔太郎を、亜樹子はツッコミ用スリッパで正気に戻す。
「なっ、なんなのよ、近ごろの女子高生って!」
そう憤慨する亜樹子も、家族同然の翔太郎とこんな話をするのは慣れていない。鳴海探偵事務所らしからぬアダルトな事件に、二人とも気まずさと戸惑いを隠せなかった。
「とにかく亜樹子、雅美さんはこの件から引いてもらえ。ヤバいことが多すぎる。彼女、こういう話には疎そうだろ」
「そ……そうね。あたしたちもこういう事件、向いてないみたいだし」
巨額の報酬という夢よりも、安穏とした日々の生活をとってしまう二人である。
雅美に会おうと彼女が通う高校に向かった翔太郎は、仕事中らしい竜とばったり出くわした。竜は迷惑だと言わんばかりの顔で翔太郎を睨みつける。
「なにをしてる」
「こっちのセリフだ。俺は依頼人に会いに来ただけだよ」
「あの子か。こっちはドーパント探しだ。このあたりで目撃例が多くてな……」
ラブメモリを持っているのは中高生だから、学校の近くで目撃されるのは自然だった。しかし竜の話では、セックス依存になってしまった人々もやはりこの近くを通っていたという。
「同じドーパントってことも考えられるな」
「だが目的がちぐはぐだ。高校生の御守りを奪うのと、他人を欲望に溺れさせるのとではベクトルがちがいすぎる」
「別件だとしても、それぞれなんのメリットがあるんだろうな? 愉快犯にしたって犯人像が見えねえぜ」
二人はいつのまにかバイクを並べ、缶コーヒーを片手に事件の話をしていた。端から見れば仲良く世間話に興じているように見えただろう。
「おい、あの子じゃないか?」
校門を出てきた雅美を先に見つけたのは、竜だった。翔太郎は飲みかけのコーヒーを竜に押しつけ、彼女を呼び止める。
雅美は翔太郎に笑顔であいさつをしたが、依頼の品が見つかっていないとわかると露骨に不機嫌になった。
「雅美さん、『本物』を探すのはやめたほうがいい。いろいろ危険なことが起こってるんだ。きみの手に負えない事態が起きてしまうかもしれない」
「危険って、どんなことですか?」
翔太郎は視線で竜に了承を得てから、彼女にドーパントのことをかいつまんで話した。ラブメモリを奪われた女の子のこと、最近このあたりに出没するという怪物のこと。
だが、雅美は納得した様子はなかった。
「ラブメモリとその怪物が関係あるなんて、わからないじゃないですか」
「いや、でも現に襲われた子が……そうだ、きみの高校の生徒だったよ」
先日出会った木場勇気が、雅美と同じ制服を着ていたことを思い出す。
「その子と友だちは、今でも襲われた後遺症みたいなものに苦しめられている。きみもそうなるかもしれないんだ。悪いことは言わないから……」
「あたしはなにがあったって、そんな汚らわしい欲望には負けません」
「いや、そうじゃなくて……」
それまで黙ってバイクにもたれかかっていた竜が、身体を起こした。
「汚らわしい欲望とは、なんのことだ」
はっと口を押さえた雅美に、竜はゆっくりと歩み寄る。
「いえ……だって今、探偵さんが……」
翔太郎も表情を険しくする。セックス依存の話は、警察で捜査中の極秘案件でもあり、なにより高校生に面と向かって説明できるものでもない。だからあたりまえのように説明からは外していた。
「俺は言ってない……どうして被害者の状態を知ってる?」
「それは……」
口ごもったところへ竜がポケットから出した警察手帳を見て、雅美はいよいよ青ざめる。
「署まで来てもらおうか」
「……!」
返事に窮した雅美を救うかのようなタイミングで、彼女の携帯電話が鳴りはじめた。
「すみません……きっと親からだわ」
ほっとした顔の雅美はスクールバッグの中を探る。あわてて携帯電話を取り出した拍子に、例のラブメモリが落ちた。
親切心から拾おうと手を伸ばした翔太郎は、目を見開く。
「!」
それはピンクのデコレーションが盛られた、愛らしいデザインではなかった。たしかに「L」の文字はあるが、見慣れた者の目には禍々しいとしか感じられない意匠のメモリ。鳴りつづけている携帯電話を見ると、ピンクのラブメモリはたしかにそこにぶら下がっている。
「それ……ガイアメモリじゃないのか!?」
「ちがう! 知らない!」
雅美はLのメモリをすばやく拾い上げると、バッグに突っ込もうとする。竜がその手首をすばやくつかんだ。
「見せろ、それをこっちに渡すんだ」
「離してください、これはちがうんです……」
雅美は長い黒髪を振り乱して竜から逃れようとした。非力な少女を傷つけないように、竜も強くは彼女を抑え込むことができない。
「いいから見せるんだ、それがラブのメモリなんだな?」
「ちがう!」
彼女の声は悲鳴に近かった。
「こんなの、ラブメモリじゃない!」
そう叫ぶなり、彼女は長めのプリーツスカートを遠慮もなくめくり上げる。男たちが反射的に目を逸らそうとしたとき、白い内股の付け根にコネクタが見えた。
「おまえが……」
Lの刻印が入った「本物」を掲げ、彼女はその力を発動させる。
メモリが重々しく自らの能力を告げた。
『ラスト』
次回予告
「フィリップ、俺が相棒と寝ても平気か?」
「今は、ちょっと悔しいと思ってる」
「純粋な愛がほしいのよ、あたしは!」
「早く来いよ……おまえがほしくて、どうにかなりそうだ……」
この番組は
楽しい時を作るかもしれないサイト・ニッカリズムと
ご覧の萌え仲間の提供でお送りしました
「ハートキャッチプリキュア、このあとすぐ!」
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