義朝/正清

2012_平清盛,[R18]

平清盛:源義朝/鎌田正清


澱んだ甕の水で、手についた血を落とす。
みすぼらしい小屋の表には、野盗の骸が四つほど転がっている。襲いかかってきたのを返り討ちにし、その根城をぶんどったところだった。武者修行の旅をはじめてからは、さしてめずらしくもない出来事だ。
義朝は濡れた手で襟を引いて開く。
息苦しいほどに暑い。まだ春も遠い坂東の地だが、命を懸けた戦いのあとでは寒さなど微塵も感じない。
「……………」
矢の減った箙を背から下ろした正清と、目が合った。
うなずきさえ必要なかった。
義朝は正清の肩を掴んで押し倒し、正清は逆らいもせず土だらけの板間に倒れ込む。
荒々しく唇を重ねれば、舌より先に歯が当たる。無精ひげが顔に刺さるのも毎度のこと。その奇異な感触に笑みすら浮かべながら、義朝は血の味がする正清の舌を吸った。
接吻とも言えぬ噛みつき合いをやめずに、義朝は手探りで籠手を外し、正清は袴の腰元をゆるめる。
脱いでから始める、などという悠長な気分を忘れてかなり経つ。交わるのに作法など気にしていられない。全ての具足を外す前に、二人は袴の下から己の逸物を引っぱり出していた。
「ぉお……っ」
正清に強く握り込まれ、腰を駆け上がった衝撃を、義朝は肩をすくめてやり過ごす。こうなると、勝負も同然だ。加減など頭をよぎることすらない。
腰を押しつけ、まさぐり、互いに相手を挑発して煽る。二人の中心が競うように硬くなっていくのが、わけもなくおかしくて、義朝は思わず笑い出した。義朝が笑えば、正清も笑う。愉しさに理由などいらなかった。
笑いながら、正清のひざを押し広げる。それだけで従者も主の意図を汲み、自ら身体を開く。いくらか受け入れる支度をしようとするが、義朝はそれすら待っていられない。
正清の手を払いのけ、下帯の隙間からむりやりに昂ぶりを押し込んだ。
「ぁっ、くぅ……っ」
正清が痛みに呻いて身をよじらせる。
義朝も楽ではなかったが、かまわずに腰を進めた。
「ぐっ……」
苦しげな呻きも意に介さず、ただ己の悦楽のみを貪る。身体中を駆けめぐっていた熱が、一点に集まっていく。
「は……っ!」
大きく息をついた正清の指が、義朝の腕に食い込んだ。ちぎれそうに痛いが、怒る気にはならなかった。それどころではなかったというのもあるが、その痛みはどこか快くさえあった。
義朝は正清を抱き寄せ、さらに深く激しく奥を穿つ。
少しでも早く、頂へ。それだけを目ざして二人は身体をぶつけ合った。
「ぅああっ……」
やがて、獣のうなり声とともに静寂が訪れる。
義朝のあごから滴った汗を首筋に受け、正清の身体がわずかに跳ねた。波が引くまで、二人は動かずに互いの荒い息だけをじっと聴いていた。
義朝が、よろめくように正清の横に転がる。
しかしすぐに起き上がり、ぐるりと小屋の中を見まわした。
「……腹がへったな」
この小屋の持ち主が狩ってきた鳥や獣などは見当たらない。季節柄、野菜や山菜なども蓄えがあるとは思えない。
申し訳程度に衣を整えた正清が、小屋の外へ出ていく。義朝が空きっ腹を抱えてぼんやり座っていると、少しして軒下に吊るしてあった干し柿を見つけてきた。
「夜が明けたら、山鳩でも食えましょう」
仕方なくそれを受け取り、食いちぎる。干し柿の甘さが、安堵の息をつかせた。どんな食いものでもないよりはまし。旅に出てから、それをいやというほど思い知らされた。
正清は、干し柿を見つけたついでに外の様子もたしかめてきたようだ。人も獣も近くにはいないという。
「今はおやすみくだされ」
「うむ……」
言われてようやく、これ以上ないというほどにくたびれている己に気づく。疲れを引きずっては山鳩さえも捕らえられまい。
正清の言葉に従い、黴くさい筵の上に横になった。
なにかあったら、寝ずの番をしている正清が起こしてくれる。義朝が起きたら次は正清がやすむ。口に入れるものは自ら狩り、抑えきれない衝動は互いにぶつけ合って熱を体の外に出す。そうやって二人は獣同然の日々を過ごしていた。
目を閉じる寸前、ふと都にいる男の顔を思い出す。
あの平家の御曹司には思いもよらぬ暮らしであろうな、と考え、噴き出しそうなくらいに愉快な心持ちになった。熊でも仕留めて土産に持って帰ってやろうか。肝を潰した清盛の顔を思い浮かべるだけで、空きっ腹など気にならなくなる。
いっさいの悩みを払い落とした義朝は、土埃の中で目を閉じた。
どれほど深い眠りに落ちても、正清が見守っていてくれることはわかりきっていた。


ゲンジ:
サムライ目モノノフ科。とくにセイワゲンジとも。
近畿地方原産、関東まで広く分布。雑食で非常に繁殖力が強い。
野生の原種は気質が荒く、接触には細心の注意が必要。
つがいで飼うとなにかと揉め事を起こすので、基本的には乳兄弟同士を組ませること。

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Posted by nickel