チャールズ/エリック

2004_X-MEN,[!],[R18]

X-MEN:チャールズ・エグゼビア/エリック・レーンシャー R18 

※エリック×チャールズ、暴力

この身を縛る鋼の意思は

いつもと変わらないその一日は、いつもと同じように終わろうとしていた。
だれの手も借りずに入浴してベッドへ。長年の経験によって、それは少しも不自由を伴うことではなくなっている。
下の階では、まだ寝つけない子どもたちがもぞもぞと動いていた。子どもたちの世話を任せてある若者たちは、こっそり持ち込んだビールで酒盛りをしている。いつもと変わらない、にぎやかで静かな夜。
満たされた笑みを浮かべて手元の本を閉じ、サイドテーブルのライトを消そうと手を伸ばしたとき……
「!」
ふいに、強い意志を感じてはっとした。今の今までどこにも感じられなかった存在だ。
両腕で身体を起こし、バルコニーへとつづく大きな窓を見やる。窓はかたかたと震えていた。息をのんで見つめる目の前で、窓の鍵がひとりでにはずれ、そして大きく開いた。カーテンが風で煽られて舞い上がる。
カーテンの向こうの闇から、細い影が姿を現した。

『エリック……』
声を発したつもりが、それは彼の脳内へ直接送られていた。彼はにっこりと微笑み、マントを翻して優雅にお辞儀をした。
「こんばんは、愛しのチャールズ」
彼の思念を防護していたヘルメットが、音もなく彼の足下へと落とされる。これがあったから、彼の存在を知覚することができなかったのだ。
「ようこそ、歓迎するよ……と言いたいところだがね」
どういう態度でこの闖入者を迎え入れたものか迷いながら、あらためてベッドの上で身体を起こした。
「歓迎してくれないのか?」
悠然と歩み寄ってくる彼は、まさに帝王の貫禄を備えている。その足取りにはためらいもとまどいもない。
「この学園の責任者としてはね。皆、きみを快く思っていないのは知っているだろう?」
彼は、目下の敵である。幾度となく自分と自分の仲間たちを裏切ってきた。本来ならば、ここへ入ることもできないはずだった。だが現実として彼は今目の前にいる。それはあってはならない事態ではあるが、その一方で心が浮き立つのを抑えることができない。
「おまえ自身はどうなのだ、チャールズ」
さっとマントの裾をさばき、彼はベッドの端に腰かける。手を伸ばせば、彼に触れることができる距離だった。
「心配するな、私はおまえに会いに来ただけだ。彼らに危害を加えるつもりはない」
「……では、なんのために? なぜ私の睡眠を妨げようとする?」
「急に会いたくなったから……では不足かな?」
毛布の上に出していた手を取られ、そのまま口づけられる。まるで女王に忠誠を誓う騎士のようにうやうやしくその接吻をやってのけた彼は、そのまま手を引き寄せようとした。
思わず、その手を払う。
「チャールズ?」
会いたかったのは、触れたかったのは、こちらも同じだ。だが互いの立場がそれを許さない。それなのに、彼はいともたやすくこの学園へ侵入し、優しく微笑み手を取り、二人が昔と変わらぬかのような錯覚を起こさせる。その目は冷たく暗い光を放っているというのに。
「エリック、今でも私を想っていてくれるのなら、なぜ……」
その問いはしかし、彼の指先によって遮られた。細い指を唇に突きつけられ、それ以上言葉をつづけることができない。
「政治の話をしにきたのではない」
『では、なにをしにきた』
テレパスで返すと、彼は肩をすくめて指を下げた。
「わかっているだろう?」
あえて心を探るまでもなく、相手から意図的に伝えられるイメージはこちらを赤面させる。
ただでさえ、ベッドの中にいる自分は下着しか身につけていない。スタンドカラーの襟元から靴の先まで一分の隙もなく装っている彼よりは「準備のいい」状態なのだ。
「……だめだ。私たちは、もう……」
恋人ではないのだから。
口にするのが憚られ、そっと彼の心に挟み込んだその言葉は、自身にもつらい響きを持っていた。だが彼はその事実に感慨を覚えたようすはない。
「私が牢にいたときでさえ、おまえは友として接してくれた。私こそ聞きたい。なぜ恋人にはもどれないのだ」
「……それこそ、わかっているはずだ」
テレパスが他人と身体を重ねるということは、肉体だけではなく心までも裸になるということだ。無論、自制はできる。しかし、かつてすべてを見せ合った彼を相手に、その制御が可能だとは思えなかった。もしそうなった場合、自分の保護下にあるすべての同胞を危機に陥れかねない。
「私を拒むというのか」
「……私のエリックならば、わかってくれると思っている」
願うような気持ちで彼の瞳を見つめる。
「そうか」
返事の穏やかな響きに、つかの間安心しかけた。

「だが私はもうおまえのエリックではない。おまえ自身がそう言った」
彼は冷然と言い放ち、窓のほうにさっと手を向けた。外から金属のこすれるような音がする。
「エリック、いったいなにを……」
なにかが壊れる音とともに、黒く長い紐のようなものが彼の手元に飛んできた。それが紐でないことは、彼の能力を知り尽くしている身にとってはわかりきっていたのだが。
「ロココ調、というのかねこれは」
バルコニーの手すりの一部が、どんな物理的な圧力よりも強力なエネルギーにより引きちぎられ、たぐり寄せられたのだった。元は美しい曲線の一部だったその金属の棒は、彼の手の中で柔らかい粘土のようにその形を変えていた。彼が望めば、この胸へその鉄塊を突き刺すこともできるのだ。
豹変した態度にとまどい嘆きながら、立ち上がった彼を見上げる。
「……私はここへX―MENを呼ばなければならないのか?」
「呼びたければ、呼ぶがいい。ただし困るのはおまえだ」
彼はひらりと指揮棒を振るように片手を動かした。
それを合図に、金属の紐が蛇のように意志を持って動き、ぐるぐると腕に巻きついてくる。その硬質な縄に抵抗できるはずもなく、両腕は背面にまとめ上げられ完全に自由を奪われた。
「エリック!」
後ろに重心が移り、支えもなく枕に倒れ込む。驚いて彼を見上げると、指揮者のポーズのままこちらを見下ろしていた。
「よく似合うぞ、チャールズ。ギリシャ彫刻もかくやとはこのことだ」
その口調にはあきらかな嘲笑の色が現れており、自らの顔が怒りと羞恥で赤くなるのを感じずにはいられなかった。
「エリック、なぜ……」
瞳を覗きこもうとしたが今度は逸らされ、細く力強い指が肩をつかんだ。そして、無抵抗の身体はうつぶせに転がされた。
「おまえが私を素直に受けいれないからだよ」
息だけで耳元に囁くと、彼は裸の肩に歯を立てる。
「私は、ぁっ……」
あのころのように与えられる愛撫に、抗議の言葉も空しく喘ぎに変わっていった。

「ふ……っ、ぅう……ん」
彼が侵入してくるのに合わせて、心までが無防備に押し広げられているようだった。
なんの屈託もなかったあのころならば、それすらも幸せだった。二人が繋がっていることを全身で感じられたから。だが今は、心を彼に晒すのが恐ろしくてならない。
「…………ッ!」
悲鳴は声にならなかった。心を見せまいと固く閉ざして鍵をかけるが、突き上げられるたびに扉ごと壊れてしまいそうになる。
意志に反して身体は彼を受けいれ、二人をあのころに引き戻そうとしていた。
「ぁ、ああ、エリック……ッ!」
快楽と幸福の記憶は心の扉を強引にこじ開けた。むき出しになった心に、彼の心が触れる。
「!」
それは恐れていたような氷の刃ではなく。驚くほどに優しく、切なく、あたたかい感情。おそらくは彼自身も意図せずに見せた想いの断片だった。ひどくなつかしい感覚に引き寄せられ、自ら彼を求める。その感覚こそは、二人が幸福だったころの……
だが手が届きかけた瞬間、自分が絶頂まで間もないことを感じとる。精を吐き出すのと同時に、彼のそれが流れ込んでくるのも。
快感の極みに押しやられ、すべての感情が手から離れていく。触れそうになった心の核は、もうつかむことができなかった。
「チャールズ……」
いくらか息の上がったような声が聞こえ、ふっと意識が遠くなる。久しく経験していなかった感覚だ。
気づいたのは一瞬の後。
まだ濁ったままの意識の隅で、自分に毛布が掛けられているのを知覚した。そして、彼がベッドサイドに立っていることも。
なにか言わなければ。あの刹那に触れた、彼の心を確かめなくては。
だが身体は重くて動かない。うつぶせのまま、彼を見返ることすらできない。彼の顔を見ることすら、叶わない。

ふと、首の後ろに彼の唇を感じた。
それは噛みつくような激しさではなく、そっと触れる程度の優しいもので。同時に、彼の想いが伝わってきた。苛立ちと、愛おしさと、そして悲痛な無言の叫び……自分へ向けられたあらゆる想いの、かけらだけを拾い上げてしまったような感触。感じとれるのはわずかだが、研ぎ澄まされたその想いは、針のように突き刺さり心を灼いた。
『エリック……』
彼と同様に言葉ではとても表せない想い、その感情を伝えようとしたまさにそのとき、電話の受話器を置いたように彼とのつながりが切れた。
彼は、再びあのヘルメットで心を閉ざしてしまったのだ。
「さようなら、チャールズ。よい夢を」
視界の端でマントが翻り、だがそれはすぐにカーテンのはためきと区別がつかなくなった。室内には風の音以外なにも聞こえなくなった。
「エリック……」
濡れた頬を枕に押しつけ、目を閉じる。
そして闇の中へ消えていった彼を追うように、自身も意識を闇の中へ深く沈めていった。

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Posted by nickel