士/音也

2009_仮面ライダーディケイド,[!],[R18]

仮面ライダーディケイド:門矢士/紅音也

※暴力注意


夢の交点 #3

薔薇の芳香に意識を呼び覚まされて、目を開ける。
次の瞬間、士は飛び起きていた。
「!?」
床に敷き詰められた薔薇の花びらで手をすべらせたかと思うと、首がなにかの重みに引っぱられる。鎖骨に当たる冷たい金属が不愉快だった。それが、頑丈な鎖つきの首輪だとわかったあとはなおさら。
時代がかったゴシック装飾の部屋を見まわし、ふり返ったところで士は思わず鎖を鳴らした。
「おまえは……!」
玉座とおぼしき豪奢な椅子に、男が一人。歳は士とそう離れていないように見えるが、こちらを見下ろす冷酷な表情には、年齢を超越した凄みがある。
「紅……音也……」
あのときおどけた口調で告げられた名は今、得体の知れない恐怖と不快感を伴って士の前に突きつけられていた。
音也は肘掛けに頬杖をついたまま、床に座り込んでいる士を見下ろす。士は警戒しながら上体を起こした。
「これは、なんのまねだ」
「保護さ」
間髪を入れずに答えたあと、音也はふっと笑った。
「当然の措置だろう……迷子の迷子の小犬ちゃん?」
嘲りを隠そうともしない声と表情は、ただでさえ穏やかではいられない士の心を逆撫でする。
「あいにく迷子はデフォルトだ。帰り道は自分で探す」
睨みつけながら返したせいいっぱいの言葉は、しかし鼻で笑われただけだった。
長い指を絡めるように組み合わせ、音也はすっと目を細める。
「よその世界に土足で踏み入っておいて、よく言えたもんだ。しつけがなってないな。飼い主の顔が見てみたい……」
声がかすれて消えた。笑いをこらえるように。
「ああ、野良犬か」
「……っ」
士は拳を握りしめながら、自分の鎖の先がどこにあるかを盗み見る。鎖は玉座と反対側のほうに伸び、不作法にも床に直接打ち込まれた杭に繋がっていた。まさに犬だ。
屈辱と怒りを抑え込み、士は笑みを作った。
「そうだ、俺はだれにも飼われていない。どっちかっていうと猫だな。……わかったらさっさと解放しろ。今なら噛みつかずに出ていってやる」
この距離ならば、床を蹴るだけで玉座の懐へ飛び込むことはできる、ように見える。だがギリギリで鎖が士の首を絞めるだろう。そして床に転がる士を見て、彼は楽しむのだ。
「猫か……残念だな、俺は犬のほうが好きだ」
音也はゆっくりと玉座から立ち上がり、気どった足どりでこちらへと下りてくる。至近距離で嬲ろうというのか。好都合だ、と士は自分を戒める鎖をひそかに掴んだ。
薔薇の花びらが音也の足下でふわりと舞い上がる。彼は花の絨毯にひざをつき、士の頬に繊細な音楽家の手を添えた。
「だから、おまえはここでは犬になるんだ」
「犬は嫌いでね……!」
士は自分を拘束している鎖を引き寄せ、すばやく音也の首に巻きつけようとした。だが、信じられないほどの素早さと怪力でその手を払われる。手から離れた鎖が重い音を立てて床を叩き、その鎖に引かれて士の身体も床の上に投げ出された。
「ぐぁ……」
したたかに背中を打って呻く士を、音也は愉快そうな笑みを浮かべて見下ろす。
「門矢士……この世界でのおまえの役割を教えてやろうか。そう、犬だよ。主人を楽しませるのが、ここでの務めだ。それを果たさなければ永遠に逃れられないぞ?」
言葉とともに首の鎖を引かれ、引きずり起こされる。その荒々しさとは対照的に、もう片手はタクトを振るように優雅な動きを見せていた。
この男は人間ではない。それは明確だった。ではなんだ? 世界の数だけ化け物がいる。これはどの世界の敵だ? ここはどんな世界だというのだ?
混乱する頭を力なく振って、士は自分を支配している相手を見上げた。
「……それで? 三回まわってわんとでも言えばいいのか……?」
「それもおもしろいな」
音也は若々しく快活な笑い声を上げ、手にしていた鎖を放り出す。当然、士の長身も床に叩きつけられる。
長い手足が薔薇の海でもがくのを満足げに眺めながら、主人は奴隷のあごを掴んだ。砕けそうなほどに強く。
「が……っ」
「犬は、舐めるのが好きだろう?」
そう囁いた唇を、赤い舌がちろりと舐めた。

青年は深紅の絨毯に横たわり、天井を仰いだままでくすくすと笑う。
「ん……なかなか巧いぞ……」
細く長い指が、士の髪の毛をゆったりとかきまわしている。催促するかのように。頭を押さえられた士は、ただ彼の要求に応えるしかない。
「……っ」
喉を突く勢いで口に押し込まれているのは、音也の雄。士はあいかわらず床に這いつくばったまま、むせ返る芳香の中で敵に奉仕していた。薔薇とは、これほど香りの強い花だっただろうか。あまりになじみのない香りで、鼻だけではなく頭までおかしくなってしまいそうだった。
現にこの青年は、とっくに正常な感覚というものを捨ててしまったように見える。
「ぁあ……そうだ、わかってるじゃないか……んっ」
舌先で裏の筋をなぞり、喉の奥を先端に押しつければ、彼は素直すぎるくらい素直に歓喜の声を上げる。恐れることなく急所を晒しながら、無防備に甘く誘う喘ぎが、士を苛立たせていた。
だが逆らうことはできない。己の首から伸びている鎖が、何度も引っぱられるのを士は感じていた。その鎖は音也が握っているのだ。士が音也の性器を食いちぎる前に、音也は士の首をへし折るだろう。
「ん……はっ!」
さすがに息がつづかずに口を離した士を、音也は慈悲深い瞳で見やった。その目つきに、士は背筋が寒くなるのを感じる。
頭を撫でていた手が、無造作に士の髪を掴んだ。
「痛っ……」
音也が上体を起こすと同時に、士は髪を掴まれたまま頭を押しやられていた。髪をむしられるどころか、頭皮ごと剥がされそうな力で。
一気に鼻先が触れるほど顔が近づき、息を止める。
「舌の使い方は悪くない。だが堪え性がないのは問題だな……」
痛みに顔をしかめたままの士を冷淡に覗き込んでいた音也だったが、不意に相好を崩した。
「冗談だ。おまえは素直でかわいい小犬だよ」
音也の手から力が抜け、髪を引っぱる代わりにその頭を優しく撫でる。それどころか、ペットをかわいがるように肉感的な唇を士の頬に押しつけさえした。
だが一方の手は鎖を握りしめたままだ。士は混乱と動揺を隠すため、ただ身体をこわばらせて相手の挙動すべてに警戒しつづけているしかなかった。
「ようし、おとなしくしているな。いい子だ、ご褒美をやろう」
特別だぞ、と言わんばかりに小声で囁いた音也は、自分のネクタイをわずかにゆるめ、シャツのボタンを外した。
「……わかるな?」
甘美な言葉を紡ぎ出す唇から目が離せないまま、士はなんとか声を絞り出す。
「俺が、男の色仕掛けに乗ると思ってるのか。自意識過剰も大概にしろ」
露骨な挑発と拒絶を口にする以上、相手の激昂も覚悟していたが、音也は嫣然と微笑んだだけだった。
「自意識過剰はどっちかな。俺が本気で薄汚い野良犬に欲情したと思っているのか? 俺を満足させる前に息が上がる情けない男が、どんなみっともない姿で腰を振るのか見たいだけなんだが。そうだ、うっかり叫ぶかもしれない雌犬の名前にも興味がある……」
「…………!!」
結局、頭に血が上ったのは士のほうだった。
花びらが舞い散るのもかまわず、音也を床に押し倒す。首の鎖を引かれた気がしたが、多少の不自由にはもう慣れた。
それよりも、熱くなった身体を締めつけるシャツとベストのほうが耐えられずに、自ら胸元をかきむしる。ボタンがいくつか飛んだところで気にしてはいられない。
「悪いが、ちょっとくすぐったい程度じゃ済まないぞ。みっともなく泣いてよがるのはどっちか、教えてやる」
「ほう、それは楽しみだ……」
音也が言い終わる前に、士はその首筋に噛みついた。うめき声すらも余裕を残しているのが腹立たしい。ネクタイもシャツも、ふざけた色柄のスーツも。引き裂く勢いで剥ぎ取りながら、士は音也の肌に荒々しい牙の痕をつけた。
手荒にすればするほど、音也は愉快そうに笑い声を上げる。士が猛った自身を強引に押し込んだときでさえ、意趣返しのように士の背に爪を立てながら、けらけらと笑った。
「情けない姿だな……世界を、滅ぼす悪魔が……」
途切れ途切れの言葉は、笑いたいのか泣きたいのか判断がつかない。彼が泣きわめいて許しを請えば、すぐに楽にさせてやるものを……士は絡みついてくる脚を押しやって広げながら、最奥を一気に穿つ。
「ぁあう……っ」
声をかすれさせて喘ぐ音也は、逃げも拒みもせず、ひざで士を挟み込む。内壁さえもが士を包み込むように縋りついてきて、抜くことも許さない様子だった。
「ぅ……んっ」
士は音也の肌に爪を立て、射精感をなんとかやり過ごすと、再び彼の両足を広げさせて深く突き入れる。艶めかしい嬌声、誘う身体、そして快楽を拒んではいないのにどこか挑戦的な流し目に射られるたび、士は自尊心も自制心も崩れていきそうな恐怖と焦燥に襲われるのだった。
「なぜだ!? なぜ俺を……」
士は苛立ちを隠そうともせずに、言葉と行為で音也を詰問する。動くたび鎖が擦れる音も気にならなくなっていた。
「ぁん……もう、そろそろ……か……」
士の肩に縋りついたまま、音也はぼんやりと呟く。それから、両手で士の顔を挟み込み、唇に触れるだけのキスをした。
「なんだ……?」
「夢から醒める時間だ、かわいい小犬ちゃん……」
その言葉どおり、形のいい指先が犬をなだめるような仕草で士の喉をくすぐる。
「夢……?」
一瞬動きを止めた士に、音也は熱い息を吐きながら微笑みかけた。
「忘れるな、侵入者は常におまえだ。どこへ行っても、野良犬と同じ、叩き出される運命なんだよ……」
そう囁きながらぎりぎりと締めつけてくる音也の攻撃に耐えきれず、士はついに彼の中へ欲望を吐き出していた。
「ぁ……あああっ!!」
全身を痺れさせる快感に息が止まり、そのまま時さえ凍りついたような気がした。
「あ……」
全身から力が抜け、士は薔薇の絨毯に倒れ込む。
その身体を受け止めたのは冷たく硬い床ではなく。重い鎖が首に食い込む感触も、床を打つ耳障りな音もない。

白くなる意識の向こうで、音也の朗らかな笑い声が響いていた。

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