士/ユウスケ

2009_仮面ライダーディケイド,[PG]

仮面ライダーディケイド:門矢士/小野寺ユウスケ


夢の交点 #2

ここは夢の中なのだという。
だが夢だとわかっていても目覚めることができない。どんなに苦しくても、出口は見つからない。
「ぅわ……っ」
士の周りの建物が、爆音とともに崩れていく。世界は士を拒んでいる。だから滅びゆくその身に士を飲み込もうとする。
戦おうにも逃げようにも、ベルトもバイクもない。士は、落ちてくる空や吹き飛ぶ地面から走って逃げるしかなかった。
「!!」
ふわっと宙に浮く感覚に、背筋が寒くなる。地面が崩れる速度に追いつかれたのだ。身体が後ろに倒れていくのを止められない。恐怖と絶望で真っ暗になりかけた目の前に、首にかけていたカメラの原色が飛び込んできたとき。
「士っ!!」
聞き覚えのある声とともに、手を掴まれた。
「ユウスケ!?」
その名を叫んだとたん、鼓膜を破るほどに響いていた周囲の音が、ふっと消える。頭から降りそそいでいた瓦礫も、灰色の廃墟も、士を追いつめていた崩壊そのものが、テレビの電源を切るように消えた。
「……………」
あとに残ったなにもない空間の中で、仰向けに倒れた士はストラップの切れたカメラを片手に掴み、目の前の顔を呆然と見つめていた。
倒れた士の上体を抱きかかえ、ユウスケがこちらを覗き込んでいる。
「おまえ……」
なんでここに、と言いかけてやめた。
これは夢だ。すべてのライダーの夢が混じり合う空間。ならば、ユウスケがいてもおかしくはない。存在の理由を問うても意味がない。
「士?」
「……………」
いつもなら、憎まれ口のひとつでも叩いてやるところだ。だが声すら出すこともできずに、ただ心配そうに覗き込む顔を見上げているだけだった。
その顔に、ふわっと笑みが広がる。ユウスケは士の手を握る手に力を込めた。
「ちょっと、くすぐったいぞ?」
覚えのあるセリフを少しはにかみながら口にして、ユウスケの顔が近づいた。その顔がぼやけて見えなくなったと思った瞬間、唇にやわらかいものが触れる。
「……!」
重なった唇はすぐに離れ、士の視界にまたユウスケの顔が像を結んだ。
「だいじょうぶ、オレがついてる。オレが士を守るよ」
「……っ」
目の前が再びぼやける。自分が撮る写真のように、ピントがずれて焦点が定まらない。相手の顔が二重にも三重にも見えはじめる。曖昧な視界を振り払うように士はもがきながら腕を動かし、ユウスケの頭を引き寄せた。
「わっ、士……」
たった今、そっと触れられた唇を、今度は強引に押しつける。あわてて離れようとする顔を押さえつけて、舌を割り込ませた。逃げる舌を追って絡めていると、息苦しさも手伝って頭の芯が痺れてくる。
「んんっ……んんん……っは!!」
それはユウスケも同じだったらしい。解放されたときには、真っ赤な顔で目を潤ませていた。
「な、にするんだよ、いきなり……」
「……キスってのは、これくらいするもんだぜ」
あわてふためくユウスケの姿に、少しだけだが平時の感覚を取りもどしたような気がした。大きく息をついて、士はようやく身を起こす。それでもなおまとわりついてくるユウスケの腕を振り払い、その手首を逆に掴んだ。
「士!?」
大きく見開かれた目は、次になにをされるのか怯えているのだろうか。その期待に応えてやろうと、士はユウスケの腕を引いて感触のない地面に押し倒した。それから、さらに彼を困らせそうな脅し文句を探して口を開く。
だが、出てきたのはちがう言葉だった。
「おまえを守るのは俺だ。どんなことをしてでも、俺はおまえの笑顔を守る」
世界の一つや二つ、壊れてもかまわない。だがユウスケが笑顔でいられるのなら、九つや十の世界だって守り抜いてみせる。
挑むような口調でぶつけられた唐突な告白に、ユウスケは口を開けて士を眺めていたが、やがて不満げに眉を寄せた。
「……じゃあ、士の笑顔は、だれが守るんだよ」
「そんなのは……どうでもいいだろ」
虚をつかれて口ごもった士を見上げ、ユウスケはふふっと笑う。
「ほら、やっぱりオレしかいないじゃないか」
「……涎こぼしながらえらそうなこと言うな」
負け惜しみにそう吐き捨て、士はユウスケの濡れた口元に唇を押しつけて舌を這わせた。あごを伝った唾液を舐め取り、首筋に噛みつく。
ユウスケは小さく呻いて、だが自身に押しつけるように士の頭を抱きしめた。
「オレがついてるから……士……」
「うるさ、い……っ」
なぜか震えている自分の声に苛立ちを感じながら、ユウスケのパーカーを剥ぎ取る。
「俺は、そんなに弱くない……」
触れたくてたまらなかった身体が自分の下にあって、なのに貪る勇気はなくて、声と同じくらい震える指でその肌をなぞった。小柄な身体がびくっと跳ねる。
今さらながらこれは夢なのだと思ってみても、震えは止まらない。ここにいる自分が自分自身であるように、目の前のユウスケが本物のユウスケであることもまた事実なのだ。
「俺は、おまえを守りたい、のに……」
それなのに、今は壊そうとしている。この世界と同じく。破壊を恐れる世界は、士を拒む。いつかは、ユウスケも……
「だいじょうぶだって」
士の心を読んだかのように、ユウスケは明るい声を出した。
「だいじょうぶだよ。オレも、士も」
根拠はない。意味も通らない。だが、士にとってそれはなによりも重い、赦しの言葉に聞こえた。
目が覚めたら、二人ともこの夢の中でのことはすべて忘れてしまう。
それでも、わずかな感情の切れ端でもいいから、残ってくれないかと強く願って。
士はユウスケの肌に痕をつけた。この想いの、決意の証を。

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