コウ/カナロ
【愛の燃え残り】「視線の先」「一番近くで」「消えた」
*
炎の中で身をくねらせる紙片を、ぼんやり眺める。
愛の言葉を綴った手紙は、結局渡せずにその役目を失った。今度の恋は慎重にと思ったのだが、慎重すぎるのも機を逃すらしい。
深くため息をついて顔を上げる。
視線の先に、賑やかな音と火花が散っていた。
「カナロもいっしょにやろうよ!」
コウが両手に花火を持って声をかけてくる。
大の大人が10人近く集まって……と人間たちの目には映るだろう。ういが配信用に買い込んだ花火のバラエティパックを、どういうわけか仲間全員で消化することになってこの有様だ。
オトは空中に光の絵を描きはしゃいでいるし、ナダはネズミ花火が気に入ったようでバンバの足元へ投げている。メルトはいくつか入っていた打ち上げ花火の設置中。赤、青、緑、ピンク、黄、白紫……弾けて瞬くランダムな光の洪水が、街灯もない広場を照らす。騎士竜たちが木陰から羨むように見守っていた。
人が失恋したというのに、能天気な連中だ。
「……今行く」
ラブレターの燃え殻を防火バケツの中に放り込んで、腰を上げた。
「ほらほら、サンダーフラッシュ! カナロっぽい!」
はしゃぐコウから火がついた花火を押しつけられ、派手に噴出する白い光を見つめた。電撃とは言いがたいが、気分が昂揚するのは否めない。
しばらく噴き出しつづけるのだろうと思ったところで、火は途切れ消えていった。あとにはみすぼらしい残骸だけが手の中に残る。
「まるで恋だな……」
肩を落として呟くカナロから燃え殻を取り上げ、コウは放射状に火花を散らすタイプを握らせてきた。
「また火をつければいいんだよ!」
そう言って肩をすくめたとびきりの笑顔が眩しくて、つい目を細める。
胸が大きく高鳴った気がしたが、きっと花火が熱くて眩しかったからだろう。新しい恋に再び火をつける時を思いながら、やけくそ気味に花火を振り回した。
線香花火の赤い玉が小さくなり、地面に落ちて消えた。
「これで終わりかぁ」
コウが名残惜しそうに呟いて立ち上がる。人里離れて街灯もなく、月明かりが二人の足元に影を作っていた。
もうあの夏のメンバーが集まることはない。永遠に去った者も、はるか遠くへ旅立った者も、新しい人生を歩む者も、それぞれがあのときとは異なる場所に立っている。
今、一番近くで佇んでいるのがコウというのも、奇妙な話だ。花嫁探しが目的の王子と、対立していた種族の未熟者。最も遠いところにいたはずなのに。
「帰ろうか」
そう言いながら、コウは夜空を見上げて動く気配もない。
手持ちの花火は全て燃え尽きた。なのにこの時間を終わらせがたいのだ。ただただ楽しかったあの日の思い出が、未練を強くする。
しかし未練があるかぎり歩み出すことはできない。その思いが白く灰になって冷えてしまうまで。
「まるで恋だ」
彼の横顔を見つめながら、つい声に出していた。
コウは驚いた顔でカナロを見返し、それからにっと笑ってみせる。
「ちょっと違うかな」
ためらいなく差し出された手を握ると、そのまま腕を引かれ抱き寄せられた。夜風で冷えた身に人の体温が心地よい。
カナロの肩に顔を乗せたコウは、自分に言い聞かせるようにもそもそと呟いた。
「いつか燃え尽きるのが恋なら、おれの気持ちは恋じゃないよ。だってずっと消えないもん」
消えたらまた火をつければいい、ではなく。
今の彼はそう言うのか。新鮮な想いで抱き返す。
「そうだな……これは恋じゃない」
電撃が走るわけでも、周りが見えなくなるわけでもない。勢いよく燃え上がって一瞬だけ心を奪われる存在ではないのだ。
髪を撫でられ、懐いた獣のように頭をすり寄せてきたコウは、カナロの耳元に再び囁く。
「帰ろうか」
「ああ」
決して消えないこの感情は、もう恋ではない。
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