土方/山南

2004_新選組!,[R18]

新選組!:土方歳三/山南敬助・斎藤一


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身体が熱い。
燃えるように熱い。正体不明の炎が、身体の中で暴れ狂っている。
不安だが同時に快くもある。この炎が消えてしまうのがもったいないくらいだ。

そんな、夜である。

人斬りの夜

ふと気がつくと、手が震えていた。
そんな自分に気づいて、舌を打ちながら拳を握りしめる。
「だいじょうぶ、ですか」
肩越しに囁かれる声がひどく優しくて、こんな夜には不釣り合いすぎる、と思った。雷雨の中、人を斬って帰る途中の男たちには。
「……なにがだい。見ての通り、俺ぁ無傷だぜ」
強がってそう笑ったつもりが、ふり向きざまに頬が引きつるのを感じた。雷光に浮かび上がる、自分の惨めな笑みと、相手の真剣な横顔。いや、これほどこんな夜に似合うものもない。それはまさに、人を斬った者の顔である。

屯所にもどり、手短に報告をすませる。暗殺は成功したこと。偽装工作も万全であること。
だれがだれを斬った、という話はなかった。この仕事に褒賞はない。だれの手柄にもなりえず、ねぎらいすらない仕事である。
だれもが、この暗澹たる夜が明けるのを待ち望んでいた。

身体が熱い。
雨に濡れて着替えていないせいもあるだろう。久々の実戦ということもあるだろう。だがそれ以上に、気分が高揚していた。今なら、あと数人は斬れる。
横にいる彼と目が合う。彼は終始硬い表情で、こちらを見ていた。

自ら荒事を終えた副長二人は、常のように無言で部屋へともどった。とくに今夜は語ることなどなにもないように思えた。すべては夜が明けてから。そんな了解が暗黙のうちになされていた。
先に入り、刀を置いてからふり返る。すべての所作がむだなく静かな彼は、時として背後にいるかどうかすら不安になることがあるのだ。
果たして彼は、今も音を立てずに礼儀正しく障子を閉めていた。
二人の目が合った。
いつもならこんなとき、とろけるような笑みを浮かべるはずの彼が、今夜はわずかも口の端を動かさない。じっと、こちらを見ている。
なにか非難がましいことでも言うのかと思い、文句を言おうと口を開きかけた瞬間、彼がふっと目を伏せた。
憂いを含んだ睫毛、引き結んだ唇。濡れてほつれた鬢……
先刻からずっと身体の中で燃えつづけているなにかが、その勢いを増した。というよりはむしろ、爆発したのだろうか。
彼の腕をつかんで、乱暴に抱きよせた。よろめいて腕の中に倒れこんできた身体は、予想以上に無抵抗だった。
「疲れたのかい、あんたともあろうお人が」
冗談めかして言ってやると、相手も息だけで笑った。
「ええ、まあ」
身体が熱い。苦しいくらいに熱い。

彼を抱いたまま、敷かれている布団に倒れこんだ。無論、不満など出ようはずがない。彼の目は確かに、求めていたから。
気分のままに、彼の舌を吸う。荒々しく、執拗に。息を継ぎながらも決して唇を離すことなく、舌を絡め歯をなぞった。
「んっ、んんっ、んぅ……」
彼の苦しげな声に気をよくしながら襟元へ突っこんだ手が、その肌の冷たさに一瞬たじろぐ。しかし同じくらい冷たい彼の手がこちらの首筋をかすめ、雨と汗で濡れた背中へと差し入れられる。そのひんやりとした心地よさにうながされ、相手の襟を強引にくつろげた。
あとは悩むこともない。互いに慣れた手つきで相手の着物を脱がせ剥ぎ取り、じかに肌を重ねる。そのころにはもう、どちらの身体も同じくらいに熱くなっていて、冷たさなど感じなかった。
きれいに整えられた二人ぶんの布団は、枕もどこかへ飛び上掛けもずれてひどいありさまである。
その上掛けの上で、彼をうつぶせにして乗りかかった。襲いかかった、というほうが正しいだろうか。二人とも、まるで獣のようだったから。
「ぁ……っ!」
うしろから貫かれた彼が、ひそやかに喘ぐ。日ごろからつつましく折り目正しく生きている彼は、乱れている最中でさえ頭のどこかに貞節などという言葉を掲げているのだろう。それが歯がゆくて、遠慮も呵責もなく責め立てた。
「く、くぅっ……ぁあ!」
懸命に声を殺そうとしながらも、彼は白い背をそらして泣く。布団の上で拳を握って、痛みと悦びに耐えている。
この行いに、男も女もないのだ。男でも泣きよがり、楽しませてくれるのだから。ちがうことといえば……
「山南さん……もっと、泣いていいんだぜ……」
言いながら、彼のものに手を伸ばす。張りつめたそれに触れられて、彼は自分の肩越しに哀願のまなざしを向けてきた。
「ひ、土方さ……」
「ここも、いい具合に、泣いてるじゃねえか……っ」
腰を揺らして締めつけを楽しみながら、手は彼の腰の前で濡れたそれを弄ぶ。前後を同時に責められ、彼は悲鳴に近い嬌声を上げた。
「やめっ、やめてくださ……も、それ以上……あぁっ!」
「ぅあ……っ」
あと少しが堪えきれず、彼の中に己の精を注ぎ込む。その刺激で彼も吐精した。
彼の吐き出したものでどろどろに汚れた自分の手を眺め、なんとなくそれを舐めとる。気づいた彼はあわてて起き上がり、「やめてください!」などと言いながら、脱ぎ散らかした着物のあいだから懐紙を取り出して飛びついてきた。
「もう……どうしてこんな……」
「あんただって、俺のくわえたりしてんだろうがよ。今さら汚いもなにもねえだろ」
ごろん、と横になると、あきれ顔の彼が覗きこんできた。まだ顔が上気している。
「それとこれとはちがいます……」
「へえ?」
役職を離れて、他人の目も気にせずに時を過ごせる、こんな少しだけ甘ったるい空気を、おそらく二人とも楽しんでいた。一人は裸のまま寝転がり、もう一人は着物を肩にかけて正座している、という図は非常に二人らしいのだが。
こちらの乱れた前髪を、彼の指がそっと指で梳く。お返しに腕を伸ばして、ほつれている鬢をなでつけてやった。普段は一分の隙もない彼だからこそ、汗で髪が頬に張りつくさまなどは見とれるほどに艶が出る。
「あなたは……」
「……ぁん?」
独り言のように呟いた彼の言葉に、思わず手を止めた。彼のほうは、あいかわらずこちらの額や頬を指でなでている。
「土方さんは……人を斬るのが好きなのですか」
脈絡のない発言である。彼の聡明な頭は、まれにこちらがついていけない思考の飛躍を展開することがある。今回もそうなのだろうか。
「なんだよ、いきなり」
肘をついて胸から上だけを起こすと、彼も上体を起こして着物の襟を片方だけ寄せる。
「……人を斬った日のあなたは、とても熱いのです……まだ足りないとでもいうかのように、私を……だから……」
一瞬、言葉を失ったのは、それがあまりに的を射ていたからなのか。
見透かされたような所在なさに、自分も脇に脱ぎ捨てられた着物に手を伸ばした。
「べつに、好きでも嫌いでもねえよ」
着物を適当に身体の上に掛けると、彼がわざわざ肩に掛けなおしてくれた。
「……でもまあ、てめぇの刀ぶっさすのと、てめぇのイチモツぶちこむのと、似てるっていや似てるかもしんねえなあ」
こんな下品な表現を、彼が嫌うことはわかっている。だが彼が困惑し、眉をひそめ、あるいは頬を赤らめるのを見るのも、それはそれで楽しいのだ。
「そういうあんたはどうなんだい、山南さん?」
彼は真剣な表情で、こちらを見下ろしていた。
「私も……もしかしたら、人を斬る代わりに、人を抱くのかもしれません」
上体が屈み込み、手が再びこちらへ伸ばされる。今度は、総髪の頭を抱くように。
「人を斬ることは好まないけれど、あなたとこうしていると、同じ高揚感を覚えますよ」
唇が触れた。
「……斬るか、斬られるか」
「抱くか、抱かれるか……」
好まない、と言っておきながら、彼の思いは自分と変わらない。ただ、抑えるか解き放つかの差なのだろう。
「いいぜ。来いよ。斬ってくれよ。俺もまだ熱いんだ……」
「では、お望みどおり」
ひときわ大きな雷鳴がとどろいた。その一瞬前に白く照らし出された彼の顔は、おそろしいほどに美しく、冷酷な笑みを浮かべていた。

この笑顔を斬ったら、この熱は収まるだろうか……?

そんなことを思う、夜であった。

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