土方/山南

2004_新選組!,[R18]

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視線

「く……ぅっ!」
「いたっ」
二人が呻き声を上げたのは同時だった。血走った目が、一瞬だけ視線を絡ませた。

肩に歯を立てられ、意趣返しとばかりに片手で彼の口をふさいで腰を進める。しかし、もとはといえば貫かれる刺激に耐えきれなかったために噛みついてきたのだから、今度もおとなしく口をふさがれているはずがない。
「んん……っ、殺す気かこのバカ!」
なんとか腕を引き剥がした彼は、大きく息をつくと同時に罵声も吐き出す。
「苦しかったですか」
気遣うでもなく、恥じ入るでもなく、淡々とした口調。発せられるのは普段と同じ声だが、上ずるのを抑えることはできない。息は乱れて額には汗が滲んでいる。その男を知っていればいるほど、そのさまを想像することはむずかしいだろう。
「だいたいあんた、もっとやさし……くっ、あっ」
突き上げられたほうは、必死に相手の胸にすがりついた。総髪もほどける寸前で、泣く子も黙らせる目を潤ませながら喘いでいる。罵詈雑言とも哀願ともつかない言葉を、嬌声の合間に相手にぶつけながら。やはり彼を知る者ならば、腰を抜かしそうな光景である。
「あなたが、優しくしてくれるなら、私も考えますが?」
切れ長の瞳を細め、男はその目だけで笑った。

部屋の足りないこの屋敷で、一人部屋を使えるのは局長の三名だけである。以下は二人、三人、五人……と適当に割り振られていく。その作業をしたのはもちろんこの二人で、自分たちの部屋も事務的な理由で決めた、ように見えた。少なくとも端からは。
「山南さんは俺と相部屋でいいな」
「ええ。そのほうが話もしやすいでしょう」
間取り図を見ながらそっけなく言い放つ彼に、目を細めてうなずく。もとより異論はない。
大部屋から二人部屋へ。副長ならば当然とだれもが思い、反対も抗議もなかった。ただ、彼らをよく知る何人かが、性格の不一致による諍いを危惧した程度である。
衝突がなかったわけではない。なにしろ正反対の性分で、部屋の使い方から寝相までなにもかもがちがうのだから。
だがそれが、どういうわけかこんな間柄になって今に至る。

夜着に袖を通しかけた男は、顔をしかめたかと思うとすぐに肩から払い落とした。
「いたた……」
肩を押さえて背を丸める男にさっきまで抱かれていた彼は、倒した枕の端に頭を乗せてぼんやりと相手を眺める。布団の中にいる彼は夜着も身につけていない。
「自業自得だっつんだよ」
「それは……あんまりじゃありませんか……?」
恨めしげに彼を見やった。
肩口の歯形だけではない。腕にも噛み痕が残り、背中や首には凶暴な爪痕が筋を引いている。朝になればいくつかの痣も浮き出てくるだろう。暴れ馬を御した代償である。
「あー、薬いるか?」
「石田散薬ですか……遠慮します。自分の塗り薬がありますので……」
効くと評判の薬だが、どうも信用ならない気がする。その印象を彼も知っているから、腹立たしげにはしているが強引に勧めたりはしない。
のろのろと文机に這い寄ろうとすると、彼が大儀そうに起き上がった。
「なんだよ、そんなにひどくしたつもりはないぜ」
布団から這い出た彼に、肩をつかまれ引き寄せられた。
「でも痛いですよ」
ついこのまえまで薬屋をやっていた本人のほうは信頼に値するだろう。おとなしく彼の診断に任せる。そこに情事を引きずった色はなく、道場ででも見られそうなやりとりが交わされているだけだった。
「やっぱり大したことねえな。舐めときゃ治る程度だ」
自分がつけた傷だということを棚上げにして、彼は白い背中をばちんと叩く。今度は手形がついただろうか。
肩をすくめてまたしても呻くが、しかしすぐにいつもどおりの姿勢にもどって彼をふり向く。
「だれが舐めてくれるんですか?」
一見すると含みなどなさそうな微笑みに、彼は思わず眉根を寄せた。

はじまりは、と問われれば、もちろんだれにも答えてやる義理などないが、目が合ったから、としか言いようがない。
目が合ったのだ。
その瞬間、小首をかしげ、にっこりと微笑んだ。彼もつられて口の端を上げてしまってから、すぐに憮然とした表情になる。それが合図だった。
言葉はほとんど交わされなかった。どちらかが誘ったわけでも先導したわけでもない。二人はただ互いに手を伸ばし、抱き合った。組み手の稽古のように布団の上で絡み合い、相手を征服し、制覇された。
行為のあとに、今度は彼が挑戦的な笑みを投げかける。
「意外だな」
男も目を細めた。
「はじめからそのつもりで、この部屋割りを決めたのでしょう?」
意識していたにせよ無自覚であったにせよ、おそらくは最初からそのつもりだったのだ。二人とも。
必然性も、切実な想いもない。ただ目が合ったから。
そのころから、二人は言葉を交わさずに会話するようになった。

唇を噛んで吐息を殺す。
折り目正しく背筋を伸ばして正座する男の肌に、彼の熱い息が当たる。
「ん……」
肩から背へ。舌がゆっくりと疵痕を舐っていく。
「……ぁっ」
吐息はやがて艶を含んだ喘ぎに変わる。
布団をつかんでいた手が、やがて肌に添えられた。彼は己の欲するままに、細い身体を後ろから抱きすくめる。
「土方さん……」
わずかに身をよじった。いたずらな指が薄い胸板をすべり、好色な唇が首に押しつけられたのだ。
「そこに傷は……」
「今からつけてやるよ」
首筋を強く吸われ、声もなく悶える。
さらに痕をつけられてはたまらない。努めて平静な声で彼のほうへ顔を向けた。
「……土方さん、明日は公用で出る予定ではありませんでしたか」
「だから?」
彼の手はすでに男の下腹部へと向かっていて、会話よりも行為をはじめたいのが明らかである。だが男は果敢にも説得をつづけようとした。
「あまり……過ぎるのは、支障があるのでは……」
やんわりと彼の腕を押さえるが、返ってきたのは笑みを含んだ声だった。
「もう遅えよ」
腰に、熱いものが押しつけられている。男のそれも再び熱を集めていて、今さら何事もなかったように布団へ入ることはできそうにない。

肩越しに、視線がぶつかった。互いに求めていることを知るのはそれだけで充分だった。
二人はそのまま深く深く口づけ合い、再び行為へと没頭していった。

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