健/ジョー
帰宅すると、ソファに細長いものが横たわっていた。
「なんだって?」
ジョーはソファの腕に頭をあずけたまま、第一声で訊ねる。
「当分は待機だそうだ。向こうの出方を待つ」
「悠長な話だぜ」
身分を偽り、一般社会に潜伏して偵察任務を遂行している二人は、そろって外出することもめったにない。本部へ出向くのもたいていは健一人だった。
それでも生活を共にすることを選んだのは、奔放な彼の監視も兼ねている……と、南部博士には伝えてある。
ジャケットを脱ぎながらふと目を落とし、思わずため息がこぼれた。
「おまえ、また俺のシャツ……」
サイズが同じ健の服を、ジョーは部屋着代わりに勝手に使う。洗ったばかりのカッターシャツを、アイロンをかける前にしわくちゃにされたのも今日が初めてではない。
ソファに座ろうとして場所を空けるように目で要求したが、相手も断る代わりに目を閉じて、思いきり手脚を伸ばしてみせた。
面倒な報告会で少しばかり疲れていた健は、彼の幼稚さを受け流せるだけの余裕を持っていなかった。脱いだジャケットを放り出し、ソファに身をかがめる。
影を感じたジョーが目を開ける。
だがそのときには、押さえつけて唇を重ねていた。
「んぅ……」
ジョーがもがく。そぶりではなく、彼はその接触を嫌がる。ならば子供じみたいやがらせなどしなければいいのに。苛立ちもこもって、健の接吻はより乱暴になる。
歯が何度か舌に食い込んだ。それでもジョーは健の舌を食いちぎることはできない。本気を出せば引き剥がすことも不可能ではないはずなのに。彼の躊躇いにつけ込み、自分の息が続かなくなるまで健はジョーを貪った。
「っは!……はぁっ……」
怯えた目がこちらを睨みつける。健ではない、この行為自体に怯えているのだ。だが彼のプライドが、逃げることを拒む。
じゃまな髪をかき上げて、顔を覗き込んだ。
濡れた目が誘っている、ように見える。色こそ正常だったが、その目つきが健をおかしくさせる。
衝動的に、健はジョーのだらしなく開いた胸元を掴み、力任せに広げた。当然の結果として、ボタンがはじけ飛ぶ。どこかの縫い目が切れた音も聞こえた。
「バカ、おまえのだぞ……」
「だから好きにしていいんだ」
恐れと戸惑いを怒りに隠した視線は、なおも健を煽る。
視線から逃れたくて、相手の身体をひっくり返し、後ろ手にひねり上げるようにしてソファへ押しつけた。
「健……っ」
彼がねじられた腕の痛みに呻くのもかまわず、肩からシャツを引きずり下ろして腕を縛り上げる。また糸が切れた音がした。
いつのまにか、ジョーは観念したように抵抗をやめていた。
「おまえは、いつもそうだ……」
ソファに頬を押しつけ、呆れとも哀れみともつかない調子で呟く。
「!」
一瞬、自分の行為におののいた健は、しかしわずかに戻りかけた理性をむりやり意識の外に追いやった。
きっかけはどうあれ、火がついた身体はもう鎮められない。今さら許しを乞うたところで、気まずくなるだけだ。彼の言うとおり、「いつもそう」なのだった。
裸の肩に噛みつきながら、ジーンズに手をかける。
「俺も、おまえの、か……」
ジョーが喘ぎながら囁いた。
「なに?」
「好きにするんだろ」
そう言った彼は、逃げたがっているのか、誘い込んでいるのか。表情が見えないとなにもわからない。
健はなにも答えられなかった。ジョーが健の所有物だというなら、健もジョーに支配されている。このシャツのように、ジョーは健を好きに使うことができる。
それが悔しいのか、うれしいのか。どちらの感情で今、彼を抱こうとしているのか。わからないまま、健は彼のジーンズを下着ごと引きずり下ろし、後ろへ指を這わせた。
「んん……っ!」
細い腰が揺れる。後ろに縛られた腕をよじり、ジョーは歯を食いしばって声を殺した。だが健の細く長い指は奥まで入り込み、ジョーの快感を探り出す。
「ぁあ、んっ!」
嬌声とともに、指が締めつけられる。
健は荒い息を吐きながらジョーの首筋に顔をうずめ、指ではなく自らの熱をあてがった。
「……っ!」
深く、一息に突き込む。
声もなく、空を切るブレスが聞こえた。全身を突き抜ける快感に息を止めたのは、健も同じ。
もう一度。もう一度。逃げる腰を押さえつけ、何度も彼を貫く。
「ん、はぁっ、健……っ」
切なげに名を呼ばれ、止まらなくなる。彼の背に汗を散らし、腰を打ちつけてさらに声を上げさせようとする。彼自身の快楽など頭になかった。
「ジョー、ぁあっ、ジョー……!」
絶頂は思ったよりも早かった。あわてて抜こうとしたが間に合わず、彼の中に欲望を吐き出す結果となった。
「バカ……っ」
忌々しげな罵声が力なく洩れる。
やりすぎた、と健は自分への憤りをため息にして吐き出した。
こんなふうに愛したいのではないのに。暴力的に始まった行為は、紳士的には終わらない。
腕の戒めを解いてやっても、ジョーはしばらくうつぶせで動かなかった。不安になってそっと覗き込むと、彼はもそもそと自分の身体をひっくり返す。
「……立てねえ」
「は?」
気怠い目と視線がぶつかった。
「責任とれよ」
寒気がするほどの艶を全身にまとわりつかせた彼は、濡れた唇を舐めながらかすれ声で囁く。
「風呂場まで連れてって、おまえが汚した中洗えって言ってんだよ」
「中……」
なにを言っているのか理解した瞬間、健は耳が熱くなるのを感じた。
長い腕が伸びてきて、健の頭を抱き寄せる。
「自分のものは、ちゃんとキレイにしないとな?」
ダメ押しのように耳元で囁かれ、身体の芯に再び火がつく。屈辱か、苛立ちか、それとも欲望か。どれでもよかった。
確かなのは、彼に逆らえないということだけだ。
「……わかった」
健は口元をぎゅっと引き結び、彼を抱き上げた。
「おい……っ」
ジョーも本気ではなかったのか不意打ちに驚いたのか、あわてて健にしがみついてくる。
浴室の扉を蹴り開けたところで、自分だけ服を脱ぐのを忘れていたことに気づいたが今さらだ。ジョーを正面から抱えなおし、シャワーを全開にする。ジョーは背中で水流を受け、びくりと跳ねた。
「健……」
「洗ってほしいんだろ?」
片腕で腰を抱いたまま、空いた手で始めと同じように後ろへ指を添わせていった。狭い浴室の壁にもたれると、相手も身をあずけてくる。
「んっ……」
先ほど彼の中に放った精を、手探りで掻き出す。実際、どれほどできているのかはよくわからない。ただ内壁に爪を立てないよう注意しながら、指先で内側にくまなく触れていく。
ジョーが縋るようにシャツをつかんできた。
「んんぁっ……」
鼻が触れそうな位置で、彼が目を伏せて喘ぐ。
「ぁは……っ!」
彼の弱い部分はつい先ほど触れたばかりだ。どこをどうすればいいのか、わかっている。健は本来の目的を忘れ、執拗に内側を責め立てた。
「やっ、健……」
嬌声に誘われ、夢中で細い首に噛みついて痕を残す。薄い胸の飾りを舌で嬲る。ジョーは健にしがみつき、身を震わせて甘い声で泣いた。
服越しにも、押しつけられた腰が興奮に猛っているのがわかる。
「おまえも……出せよ」
ジョーの手が、前をもどかしげに開け、再び大きくなりはじめていた健の欲望を乱暴に引っぱり出した。二人のそれがぶつかり合う。
「ぅん……っ、あぁっ!」
健の指がジョーの奥を抉るたび、互いが互いを突き上げる。腰を押しつけ合い、シャワーに打たれる肌をまさぐり合って、二人は相手の全てを感じようと、相手を所有し相手のものになろうと、躍起になった。
やがて、狭い空間に男二人の呻きが響く。
吐き出したばかりの熱が脚を伝って流れていくのを感じながら、健は彼の濡れて重たげな髪をかき上げた。
「……だいじょうぶか?」
健の胸にもたれかかっているジョーは、ほんとうに一人では立っていられないといった様子だった。それでも、半端な労りの言葉に笑みなど見せたりはしない。
「どっちが……」
服を着たままびしょ濡れで、自分の感情にふりまわされている。たしかに、どちらが惨めなのかわかったものではない。
健はため息混じりに悟る。
優しく抱くことなどできない。ジョーも望んではいない。
「……………」
濡れた髪をつかんで仰向かせ、唇を貪った。
愛の言葉を囁く代わりに。
南部博士「というわけで、きみたちには三組に分かれて潜伏してもらう」
ジュン「じゃあ、あたしは健といっしょに…」
ケン「おまえは甚平と行け」
ジュン「なんでよ!」
甚平「オレもやだな…」
ジュン「どういう意味!?」
竜「じゃあ甚平、オレと暮らすか?」
甚平「えっ、いいの? やったー!」
ジュン「ほっほら、甚平は竜が引き取ってくれるって! だから健…」
健「行こうか、ジョー」
ジョー「ああ…」
ジュン「なにこれイジメ!? 前から思ってたけどイジメよねこれ!?」
甚平「俺たちも行こっか、竜」
竜「お、おう…」
ジュン「待ちなさい甚平、あたしより竜のほうがいいってどういうことよ」
甚平「だって竜のほうがお姉ちゃんよりおっぱい大き…」
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