映司/信吾
※ご注意※
時系列はとくにありません。というか、どこにもつながりません。
アンクは腕だけで映司にくっついて戦ってて、信吾さんは刑事やってて、バースはコンビで変身して戦ってる、そんな世界です。
「……わっ!」
足元で植木鉢が砕け、間一髪で飛び退いた泉信吾は当然の反応として頭上を仰ぐ。
そこには、赤い腕のようなものが浮かんでいた。
「アンク!?」
「ちっ……失敗したか」
赤い腕は指を蠢かせてまっすぐ信吾に向かってくる。頭をつかまれそうになり、爪が食い込む寸前でなんとか押さえつけた。
「なにするんだ!」
「その身体が今すぐ必要なんだよ!」
表情のわかる顔はなくても、声だけで必死さは伝わってくる。だがそう安易に貸せるものでもない。アンクが信吾を「借りて」いるとき、信吾は存在していないも同じなのだから。
「そうならそうと言えばいいだろう。むりやり気絶させなくたって、事情しだいでは協力するよ」
アンクはしぶしぶといった様子で力を抜き、手だけで信吾に向きなおった。
「映司が……」
「映司くんがどうかしたのか!?」
言われてみれば、この怪人があわてるほどのことなど彼の大事しか考えられない。なんでも一人で解決してきた彼の窮地となると、並大抵のことではないだろう。
「とにかく面倒なことになってるんだよ……」
苦々しげな口調に引っかかりを覚え、信吾は赤い手首を掴んで説明を要求した。
【アンクと信吾と映司の性欲】
使われなくなった倉庫に、青年の苦しげな喘ぎが響く。
「やっ……伊達さん、もういいですってば……」
身をよじって逃げようとする映司を、伊達はあぐらの中に抱き込むようにして押さえつけていた。相手も同じくらいに長身だから、思いのほか骨が折れる。
「よくねえよ、まだこんなじゃねえか」
「でもっ……」
映司と伊達のあいだには、映司の中心が真上を向いてそそり立っている。伊達がその屹立を握ってしごき上げるたび、映司は頑丈な手を伊達の肩に食い込ませて呻く。
「や、もう……ぁああっ!!」
勢いよく噴き出した白濁が、伊達の手と二人の衣服を汚した。だが、それだけだった。
「……まだダメか」
見下ろした伊達は、何度目かのため息をついた。
全身で息をついている映司の欲望は、少しも熱を失っていなかった。何度かやっているが、ずっとこの調子だ。
「だから……もういいですって……」
映司は潤んだ目をこするが、それが涙なのか汗なのかもわからない。真っ赤な顏だけでなく全身から汗を流して、さらに精液まで吐き出しつづけていては、そのうち脱水症状を起こすだろう。
「たしかに、このままつづけても火野が干からびちまうだけだな」
伊達は自分のシャツで手についた白濁を拭う。すでに汚れていたからもう気にもならない。
「後藤ちゃん、水持ってきて……」
言い終わらないうちに、真横から水を浴びせられた。
二人が呆然と見やると、空のバケツを持った後藤が立っている。
「いいけど……なんで俺まで……」
呻く伊達に、後藤は冷たい視線を投げつけてきびすを返した。
「このほうが手っとり早いでしょう」
状況がよくないのはわかるが、そこまで不機嫌になっても仕方がないのに、と伊達が思っていると、映司がよろめきながら身を離す。
「すいません、伊達さんまでぐちゃぐちゃになっちゃって……あとは自分でなんとかしますんで……」
「なんとかってどうする気だよ」
言いながら、伊達は水浸しになったシャツを脱いで絞る。バケツ一杯で落ちる汚れでもなさそうだ、と苦笑してワークパンツを見下ろした瞬間、また頭から水が降ってきた。
「後藤ちゃん! 水が必要なのは火野!!」
さらに眉間の皺を濃くしている後藤は、もう伊達には返事もせずに映司の傍らに大きなペットボトルを置く。
「あ、ありがとうございます……」
伊達と同じく上を脱いだ映司は、濡れたままのそれを腰の上に掛けて、危なっかしい手つきでペットボトルを掴む。一気に2リットルを空にした映司を横目に、伊達は不機嫌そのものの後藤に声をかけた。
「ヤミーのほうはどうよ」
「探してますが……まだ反応はありません。いちおう、火野と同じ状態になった人々はこちらで保護してあります。会長がそれなりの手配をしてくれるとか……」
現時点では最善の対処だろう。まだ二次被害は出ていないことにほっと息をつく。
「すいません、おれがまともに戦えなかったばっかりに……」
映司がかすれた声で呟いた。
「言っても仕方ねえだろ。だれだって苦手なもんくらいあるさ」
映司がヘビ嫌いとは知らなかったし、嫌いな生き物がいるというのも想像していなかった。
だから恐れ知らずのオーズがヘビヤミーに身をすくませるなどとは思ってもいなくて、バース側も援護が遅れた。メデューサのような無数の頭から吐き出された粘液をよけきれなかったのも、その粘液がこんな事態を引き起こすのも、全てが想定の範疇外だった。
だがいちばん予想外だったのは、映司に性欲があったということだろうか。荒い息でうずくまる映司を見下ろして、伊達は思う。
いや、これも性欲といえるかどうか怪しいものだ。彼にとっては単なる生理的反応かもしれない。そう割りきってしまえば処理もしやすいのだが。
「なあ火野、おまえも会長におねーちゃん用意してもらったほうが……」
「イヤですっ!」
やたらとはっきりした拒絶が返ってきた。
「そんな性欲処理みたいなの、おれ……わかるでしょ!? 男なら、好きな人とロマンチックに初めてを迎えたいって気持ち……それまで純潔は守り通したいんです!! 知らない人と一回限りの、なんてゼッタイにイヤですからねっ!!」
「純潔って……」
伊達は眩暈を起こしそうになった。
恋愛関係に疎いのは知っていたから、当然といえば当然なのだが、今この状況下においては苛立ちの種でしかない。
「童貞なんてそんないいもんじゃねえよ、いい機会だからさっさと捨てちまえ!」
「イヤです! 後藤さんはわかってくれますよね!?」
「なっ、なんで俺に振る!!」
後藤が真っ赤になって叫ぶ。
だれが童貞でも伊達にとってはどうでもよかった。今重要なのは映司の健康状態で、ロマンだのなんだのにかまっている場合ではない。
「俺のケツでよけりゃいくらでも貸すんだがなあ……」
「なに言ってるんですか!!」
伊達の軽口に、驚くほどの大声で怒鳴ったのは後藤だった。
「ご、後藤ちゃん?」
見ると後藤も自分の怒声に戸惑ったのか、視線を泳がせたあげく身体ごと伊達から目を背ける。
「……つまらない冗談ばっかり言ってると、バースバスターの的にしますよ」
目が本気だ。きまじめな彼に下ネタはNGだった、と今さらながら思い出した。
「……はい、すいません」
伊達は肩をすくめて、それからふと倉庫の中を見わたす。
「そーいやあいつは?」
「アンクですか? そういえば……」
映司がヤミーの攻撃で変身を解除するまでは、たしか近くにいたはずだ。とりあえずここに映司を引っぱり込んだときも、悪態をついていた気がする。だが伊達と後藤が映司の介抱にかかり切りになっているあいだに、姿を消してしまった。
「グリードだからなんか事情わかるかと思ったんだが、こんなときにどこ行ったんだ……くそっ、アンコのウンコ!」
幼稚な罵声を吐いた伊達に、後藤が呆れた目を向ける。
映司がかすかに失笑を洩らしたのと同じタイミングで、倉庫の重い扉が耳障りな音を立てて開いた。
「アンクだ! 次それ言ったら殺すぞ!!」
逆光に目を細める伊達の横で、後藤がはっと息をのむ。
「その身体は……」
堅苦しいネクタイをゆるめながら、スーツ姿に似合わない金髪が肩で風を切って歩いてきた。しばらく見ていない、人間としての姿。だがそれがなぜここにあるのか。
全員の疑問を無視して、彼は傲然と言い放つ。
「おい映司、おまえの欲しがってるカラダ、持ってきてやったぜ」
伊達はこんな状況なのに噴き出しそうになるのを、なんとかこらえた。相棒の彼が映司をいちばんよく知っていると思っていたが、この的外れな行動はなんだ。
「アンコ……おまえが自分の顔に自信持ってるのはわかるけどな、火野は今ジョークが通じる状態じゃ……」
だがそれでも映司はきっと苦笑しているのだろう、と思いながらふり返った伊達は、言葉を失う。
映司は敵に向かうときの決然とした表情で、アンクを睨みつけていた。
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