【SS】飛羽真と賢人(セイバー)

◆カンテラ「照らし出す」「おそるおそる」「ぼんやり」

最終回後のかみやま。お客さんがいるので過剰にいちゃついてはいません。健全です。

   *

暗い室内を照らし出すのは小さな光だけで、子供たちは自然と語りに引き込まれていく。
恐ろしいドラゴンにたった一人で立ち向かう王子の物語に。
だがそこに強い騎士が現れる。
二人の青年は協力してドラゴンに立ち向かい…。
飛羽真と賢人による読み聞かせは、書店かみやまのちょっとした名物になっていた。
物語は無事に終わり、飛羽真は手元に置いていた燭台の灯りを消す。安全性の問題で、LEDなのは少し趣に欠けるけれど。
「さあ、火が消えたね。これで物語はおしまいだ」
賢人がカーテンを開けて明かりをつけると、子供たちはここが昼間の本屋だったことを思い出す。
まだぼんやりと座り込んでいる子、楽しげに去っていく子。
再び騒がしくなった店内で、ひとりの少女が飛羽真におそるおそる話しかけた。
「ドラゴンは、どうなったの」
縄で捕らえられ動けなくなったところで、悪者のドラゴンは物語から退場する。しかし彼女はその後の処遇が気になったようだった。
「うーん……」
飛羽真はふとあたりを見渡し、ポケットからワンダーライドブックを一冊取り出す。
「もしかしたらだけどね」
手のひらサイズの本が開くと、その中から小さなドラゴンが飛び出し、くるりと身を翻して少女を見上げる。そしてまた素早く本の中に消えていった。
「今もいっしょ、かもしれないよ」
「え……」
大きく開かれた少女の目に、飛羽真はかつての親友の面影を見る。
「王子とドラゴンが友だちになったっていいじゃないか、ってことさ」
「……うん!」
少女は煌めくような笑顔を見せ、今の本を買ってもらいに親の元へ駆けていった。
「また結末を変えたのか」
賢人が肩をすくめて覗き込む。
「変えてないよ」
笑いながら飛羽真は手にした絵本を開いてみせた。
「ドラゴンは捕まっただけ。可能性はゼロじゃないと思う。だってこの王子は……」
賢人が飛羽真の肩を抱く。
「花嫁探しに出かけて、ともに戦った騎士と結婚するんだもんな」
ページをめくると、国民に祝福される二人の青年が寄り添っている。力を合わせてドラゴンを倒した二人はだれよりも強い絆で結ばれたのだ。
「だからさ、きっとドラゴンだって」
冠を……いや帽子を直した王子は、運命の騎士の手を握った。

   *

※ダニエル・ハーク/スティーヴィー・ルイス『王子と騎士』より

ひどいネタバレですが、王子と騎士が結婚する話です。