バクテン!!感想[2021.9.17]
※2022年追記:
そういえば現在絶賛上映中の『すずめの戸締まり』、「実は」東日本大震災の話なのだと聞いて、予告からは全くわからなかったので宣伝が不誠実のような気がしました。
同時にこのアニメを思い出したのです。センシティブな題材の扱い方って、結局誠意だよね。
宮城×男子新体操。
仙台でたまたまポスターを見かけて気になっていたアニメ『バクテン!!』。
アマプラに入ってたんでじりじりと観てました。
久々にちゃんとTVアニメ観た気がするけどおもしろかったです。
全部見終わったんで感想。
配慮はするけどいくらかネタバレはしてるのでそのつもりで。
男子新体操のこと
こういう専門的な内容の作品ってとくに、クレジットで協力のとこを眺めるのが好きなんですけど。
何話目かで、見覚えのある高校名が目に留まりました。私の母校の男子新体操部でした。へえ~~。
以下わりと個人的な話なので、アニメについては次のラインまでスクロールしてください。
えっと、20世紀末の遠い記憶を引っぱってきてるんで混乱とか勘違いとかあるかもしれないんですけど。
男子新体操部ができたのは、私が在学中のことでした。
新しい体育の先生が来て早々、男子新体操部を立ち上げて入部を呼びかけたんですよ。売り文句が「入部即レギュラー、即全国!」でした。県内には他に新体操部がない、競技人口も少ないので県大会も地区大会もなくいきなり全国行けるぞと。
ただ、もともとお勉強よりスポーツのほうが盛んな学校で、できる人はみんな運動部入ってて。それでもどういう経緯かわかんないんですが、部員が一人だけ入り、個人部門で先生の言葉どおり全国行ったんですよね。たしか順位も一桁台だった気が……何人参加したかもわからないけど。地元の新聞にも載ったの覚えてる。
顧問自ら部を立ち上げ→見たことも聞いたこともない競技→部員一名→即全国大会出場、というセンセーショナルな展開で、運動部全般興味なくて校舎の「祝○○部××大会何位入賞」の垂れ幕をいっさい認識してなかった私にも、かなり印象の強い部でした。
ちなみに私はといえば、華やかな運動部の裏で弱小文化部連合やってました。
幽霊部員が多い・部員が少ない一部の文化部は、大会やコンクールの時だけよその部から助っ人を呼び合うという互助関係が慣習になってまして……合唱同好会なんて9割助っ人の外人部隊編成だった。
5人未満だと同好会に格下げされるので、男子新体操部もそのうち同好会になるだろうなあと思ってたんですけどね……もしかして文化部だけだったのかな……
あれから鹿児島実業高校がバズって、ドラマや舞台のタンブリング!が人気になって、そのたびに思い出さないこともなかったんですが。
気になって2021年の今はどうなっているのかと検索してみたら、ちゃんと部として続いてて部員もちゃんと団体+補欠ぶんの人数がいて、しかも全国でも上位で、今はあのときの先生の教え子が指導しているそうです。へえ~~。
県内で他に見つけられなかったから、まだ「即全国」なのかもしれないけど、団体3位はすごい。
思わぬご縁にびっくりしました、という話。
スポーツアニメとして
……という個人的な記憶があって、「未経験の主人公が入部即レギュラー、即県大会出場」という流れにほとんど違和感がなかったのです。時代も状況も違うはずなんだけど、私の男子新体操のイメージがそこでスタートしてるから。
アオ高も、元選手の先生が学校に掛け合って部を立ち上げて、そこに最初の3人が入ってくるという図式でしたね。まず指導者がいないと成立しない部活なので、これも突飛な話とは思わなかった。
モーションキャプチャは青森山田が受けてたみたいなので、他に名前のある高校は部活動としての取材をしたんでしょうね。もしかしたら、うちの高校の部設立ストーリーも組み込まれているのかも、などと妄想しました。
宮城県大会は6校、各県上位2校が地区大会に出場して12校。実際はそんなにないでしょうけどね。アオ高が全国に行く流れとしては無理のない数だと思う。
元々レジェンドの志田が作った部で、入学前から指導を受けてた3人がいて、4人で高得点取れるレベルで、中学エースの美里が入って、スポーツ経験者の双葉が挑戦、というのはすごく納得できるお膳立てでした。
まずアニメがすごくよかったです。
演出がなんかもう、すごくいい(語彙)
「翔ぶ」瞬間に舞い散る羽根や、希望や決意とともに飛んでいく鳥のイメージ(オナガだそうです)、心象風景として広がる青空、そういう要素のインサートが絶妙で。
いや、前に深夜帯でなんかのスポーツアニメを見たときは、顔と声だけでスポーツ自体へのリスペクトも感じられなかったんで、自治体巻き込んだプロジェクトとはいえこんなにクオリティ高いアニメできるんだ……と妙な感動がありまして。
直近で観てたのはハイキュー!!だけど、IGだからな……別格だからな……
弱ペダとかは、悪くないけど原作の迫力はやっぱ出せないのかなってちょっと残念だったから。
モーションキャプチャでの演技はよかった。
普通にやったら試合映像の再現になっちゃうけど、ダイナミックなアングルとか選手目線とか、アニメだからできる演出って感じで。
劇伴もいい。もともと男子新体操の選手で、ドラマのタンブリング!の曲やってた人なんですね。アニメだと私が知ってるのあまりないんだけど、ハイキュー!!とかプリキュアとか。新体操のための曲を作れる人がいるって、あたりまえだけどいいですね。
怪我のくだりは、賛否両論だと思いますが……
物語の善し悪しを終わり方で判断するタイプの人からすると、わりとアウトなんじゃないかな。
スポーツモノ、とくに部活モノの難しいところだよね。ハイキュー!!はそういうとこがやっぱり特殊なんだと思う。もうみんなの意識が変わってるから、スポ根といえども怪我を押して出るというのはこれからどんどんやりにくくなるはず。
ただ贔屓目に見るなら、「未来を夢見ることができない生徒」と「すでに未来を閉ざされた監督」によって、物語後半はかなり「今しかできない自己実現」に特化していた感じはありました。
最後に何度もいろんな人に頭を下げてるし、これが正解だとは作品中では言われてない。
こう、「スポーツよりは部活寄り」だなと思うのは、一期だけのオリジナルアニメってのもあるんだけど、この6人+2人でしか成立しないってことです。
3年生が卒業して、亘理がキャプテンになって、1年生を3人も獲得できる「一年後」は想像しにくい。さらに栗駒も卒業しちゃって双葉と美里だけになったらやっていける気がしない。
突き抜けて明るいんだけど、後述する理由で「どこか刹那的」な雰囲気があるのです。
ローカル要素満載
「アニメツーリズム(聖地巡礼)」目的で作られたアニメなので、基本的に高校名以外の店舗や商品などは実名です。遠慮なくがんがん出てきます。むしろ強引なくらいに推してきます。
キャプテンの「七ヶ浜政宗」という名前が宮城全開すぎて、しかも笹かま屋の息子っていうね。襲い来る仙台宮城の強風ですよ。
3年生3人は幼なじみなんだけど、地名を推さねばならないので全員名字呼びです。仕方ないのです。
シロ高キャプテンも「親がそれぞれマグロ漁師とりんご農家」っていう青森の煮こごりみたいな設定でね。手土産に持ってきた「ラグノオ気になるリンゴ」はもちろん実在の商品です。美味しいよ。
シロ高は(おそらく青森山田高校をモデルとするスポーツ強豪校なので)県外からのメンバーも多いんだけど。
名取に住んでたこともあるマシロが、七ヶ浜キャプテンの笹かまで笹かまデビューしちゃったこと自体は謎なんですが、そのあとずっと笹かま食ってるキャラなので、青森だけど彼も宮城メンバーに入れてもいいと思います。
とにかく背景がめちゃくちゃ美しい。
岩沼は仙台空港があるからか、空に流れる飛行機雲も印象的で。
飛行機雲も、鳥の羽根と同じく「飛び立った」象徴なんですよね。岩沼というロケーションありきで、ここまでテーマに合わせるのすごい。
そんな岩沼の美しい田園風景を描きたかったのはとてもよくわかるんですが、現実に「歩いて帰る」距離じゃないので、志田先生は車出して……って思ってました。せめてみんなチャリだよ。
キャラクター
最近のアニメあんまり観てないから、高校生の部活モノってこういうテンションなんだろうな、と思いながら観てました。
キャラ色が明確に分かれててグッズ展開しやすい感じっていうか……
全員多少ウザめなのは、少ない話数で印象づけるため濃くしてるのかなとは思いましたけど。
石川界人は、聞けばすぐわかるの逆にすごいな……全部石川界人のままだもんな……このままだと杉田智和になってしまうので気をつけてほしい。でも杉田よりは感情表現の幅が広がってると思う(何様)。
それに対して、村瀬歩は本当にすごいです。どっから声出てんの。次世代石田彰なの。
櫻井孝宏が、櫻井キャラ全部盛り(イケメンもかわいいのも嘘っぽいのもクズも)という豪華展開だったので櫻井ファンにはオススメです。いや友人に即オススメしました。というかコレ「櫻井をフル活用していこう」って前提だったんじゃないか。
ってくらい志田監督のキャラが盛り盛りだった。監督の話で1話とってるからね。もうチームメンバーだよ。しかも「私をインターハイに連れてって」系ヒロインだよ。
あの、馬淵先輩はどうして志田にそんなに甘いんですか。志田がクズだったころから全く関係変わってないって逆にどういうご関係なんですか。
志田監督はあちこちで他人の人生狂わせてるので(七ヶ浜も美里も栗駒も)、これからもアオ高には部員がそれなりに入ってくるんじゃないかと思います。
マジメな話をすると、監督が裏主人公みたいな流れはありました。全員の原点で、過去の過ちも今の試行錯誤もあって、人間関係のハブになってて。……緋村剣心みたいなポジション?
アオ高メンバーは最初からわかりやすく色がついてて、それを最後まで引っぱっていくんだけど。
クールキャラで出てきた美里くんが個人的にはすごかったです。
前半ただの石川界人だと思って見てたら、寮に入ってきてからのキャラづけというか、距離感の変動というか、12話でこんなダイナミックなキャラになるんだ……となんか感動しましたね。
背負い込んじゃう苦労性なのかなと思ってたけど違うわコレ、世話好き通り越してだれかの面倒見てないと死んじゃうやつだわ。世話を焼く相手に依存してしまうタイプだわ。
「双葉」呼びがいつのまにか「翔太郎」になっていることに気づかなくて、回を遡っていつ変わったか確認してしまいました。クソ重い話を始めたタイミングだったので、翔太郎自身もきっと気づいてないか「あっ」って思ったのすぐ忘れたと思う。そういう大事なイベントはまぎれさせないで……
なんかフツーに美里の幸せを願ってしまうようになります。インハイ勝って、最終的には馬淵監督のとこに行って。幸せにしてくれると思うから。
シロ高は、マシロ以外はアオ高と対になるようキャラを作ってある感じ。
なんかキャプテンが相似すぎて、七ヶ浜がランニングシャツだと高瀬もそうなんだろうなって思うし、七ヶ浜が笹かま食ってるとき高瀬もリンゴを食ってるのであろう、って七ヶ浜と同時に青森の高瀬が見えるようになってたからね、ワイプで。
陸奥はね、市丸ギン。標準語しゃべってるのが違和感なくらい市丸ギン。声はリュウタロスだけど中身はウラタロス。異論はないと思う。
東日本大震災のこと
「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」
アニメツーリズムを推進するプロジェクトで、 東日本大震災で特に大きな被害を受けた岩手県、宮城県、福島県をそれぞれ舞台とする作品を制作します。
(プロジェクト公式サイトより)
岩手と福島は単独の映画で、宮城がこのテレビ放映+映画ってことらしいです。
県外者にとっては、主要登場人物の名字がいずれも津波被害や原発避難などの具体的なイメージを想起させる土地の名前だったりもするんですけど。
彼らのキャラクターが、地名に対するネガティブな印象を上書きしてくれたらいいなと強く思ったのは、私がまだそういうイメージを持ってしまっているからなんでしょうね。
そして語られた彼の過去。
一言も地震や津波の話は出ないし10年前とかそういう言葉すらないんだけど、美しい海と花の映像だけで、彼の両親が震災で亡くなったことを示唆する。と同時に、扶養家族に対して学費を負担させられないから進学はしない、という震災孤児の生々しさが本人から明かされる。そのエピソードが、最終的に「怪我をしていても『今』みんなで翔びたい」というチームの動きにも繋がっていく感じがして、あの選択を責めきれない。
あの日のことは一度も話題に出ないけど、実際の商店に貼ってある「がんばろう宮城」とかがさりげなくフォーカスされて、あの日から地続きになってる世界だということに気づく。
宮城から出たことのない高校生の彼らは、当時小学生だったという当然の事実にも思い至るわけで。直接ではないけど10年後の高校生の進路にまで影響してる、というメッセージはすごく大きいと思います。
声高に復興とか謳ってないけど、間違いなく震災後の東北をテーマにした作品でした。
舞台が宮城なのもあり、ハイキュー!!に比べると……という意見はよく聞きます。
ただ、「部活の先」を目指したハイキュー!!とは比べられない気がする。
層の厚い控えが何人もいた烏野高校と、補欠さえなく一人欠けても成立しないアオ高。
顧問である前に生徒を守る教育者だった武ちゃんと、顧問であると同時に彼の選択の結果を身を以て知っている志田。
なにより、「あたりまえに部活ができる震災前の宮城」と「部活できること自体が幸せな震災後の宮城」なんですよ。
ハイキュー!!は、311もコロナもない、東京五輪が開催された世界です。夢と希望に満ち満ちている。それと比べてしまうのは、本質を見誤う危険があるんじゃないか。
双葉と美里が立っている景色は、日向と影山が見ている景色とは全く違います。
コロナで「アニメツーリズム」としてはかなり難しくなってしまったのが残念ですが。
そのあまりにも控えめすぎる被災地のメッセージが、県外の方にも届くことを願っています。