【SS】ルパパト「約束」
16話後の赤青。ほぼ速報。
こういう「みんなやるだろうけど自分でやっておきたい話」がいちばん行き所がないですよね。
自分的な落としどころとして「恋愛じゃないけどちょっと甘い感じの関係」と思ってたら、本編に甘さを吹き飛ばされました。ありがとう、ありがとう荒川さん(瀕死)。
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「約束」
背中を横切るよれた包帯が、やけに痛々しく感じられる。
魁利は思わず目を逸らした。
これまでも生傷が絶えなかった自分たちはいつもどこかに包帯や絆創膏を隠していたが、さすがに今度の傷は深い。
「手伝え」
ベッドに腰かけ自分で傷口の手当てをしようとしている透真が、肩越しに声をかけてくる。
「……お、悪ぃ悪ぃ、気づかなかった」
一人じゃできねえもんな、と笑って手を伸ばした。
最初は包帯をただ巻くのも一苦労だったが、今は三人とも慣れたものだ。生々しい傷痕を目にしても動じることはない。それが、自分のつけた傷でなければの話だが。
ごめんな、という言葉を飲み込んで、薬瓶をとった。
透真は礼も詫びも口にしない。死を覚悟していた男にとって、これくらいは軽傷なのだろう。だから魁利も、いつもと同じように振る舞う。だれのせいでもない、戦いの中で負った傷には変わりない。
「……痛むか」
らしくない言葉に、一瞬手が止まった。魁利の左手にも、さっき初美花が直してくれた包帯が巻かれている。
「そりゃもう、すっげ痛ぇよ。カップもトレイも持てねえわ。買い出しもキツイなあコレ……」
指を動かすたびに激痛が走るのは事実だった。しかしその状態を正直に訴えても意味がない。大げさにおどけて、ごまかすのがいちばん楽だ。
「サボりの口実にはならないぞ」
笑いながら言う透真の様子に少し安堵して、新しい包帯を手にした。
「透真こそ、料理するときヤバくない?」
「重い中華鍋を振るわけじゃない。それに俺がなにもしなかったら永遠に臨時休業だ」
「ま、そうだけど」
正面から腕を回して、包帯を巻いていく。日に焼けていない白い肌に手をすべらせ、そしてふと傷の下……裸の胸に手を当てた。
「魁利?」
確かな熱と鼓動を感じる。これが本当に止まってしまったとしても、自分と初美花は前に進みつづけられるだろうか。
「まだ……脱落はさせねえよ」
誰か一人でも残れば、とはじめは誓った。だが、誰か一人でも欠ければ、きっと残された者の願いも叶わない。今はそんな気がする。
「……ああ」
透真は心得たようにうなずく。それから魁利の左手をとり、包帯の上から掌に口づけた。
「おまえもな」
「……!」
こちらを見据えたその目のせいで、頭に血が上る。
魁利は透真の体をベッドに押し倒した。端正な顔が痛みに歪むのが見えたが意識の外へ追いやる。こっちだって穴の空いた手が死ぬほど痛い。
鼻がぶつかるのもかまわず、荒々しく唇を重ねた。相手の出方を見ながらなどという悠長な気分ではない。ただ衝動に突き動かされて、その唇を貪った。あまりに必死で、透真が拒むどころか応えていることにもすぐには気づかなかった。
肩で息をしながら、相手の目を覗き込む。
「……オレは、死ぬ気ねえから」
だから、おまえも。
「わかってる」
一方的に押さえつけていたはずの手は、いつのまにか互いに握り合っていて。
「くそ、痛ぇ……」
「こっちのセリフだ」
変えたばかりの包帯には、血が滲んでいた。
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ラストシーン、魁利の左手がうまく隠れて見えなかったの、包帯巻いたら生々しすぎてアウトだったのかなと思いました。パトに肩触られていちいち呻く透真もムダにリアルだったし。ルパンレッドが流血してる時点でわりとガチなんですけども。