【SS】カウントダウン2
わわわ、日付変わってしまう!
もう実質あと1日ですが、「あと2日」のカウントダウン更新しました。夜更新したらほぼ1日ズレてるも同然だよねって初日に気づいたけどもういい。
透真風邪っぴき話の後編です。前編は前の記事です。
アルカリがお忙しいところ表紙イラストを描いてくれたんですが、焦り感いっぱいのラクガキがかわいかったので最後に載せちゃう。
ピクブラのほうには表紙のみのため、ここでしか見られません。ラクガキだけど。
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体が重い。頭が痛い。階下から騒々しい音や声が聞こえてくるが、怒鳴る気力もない。
初美花からもらった風邪なのだとは想像がつく。しかし彼女を責めても意味のないことだし、三人同時に全滅よりはよほどいいと思う。とはいえ、よりによって自分かという気持ちはあった。
「透真ぁ、おなかすいたでしょ、おかゆだよ~」
昼過ぎごろ、初美花が魁利といっしょにトレイを運んできた。
あれだけ大騒ぎしてエプロンもやたら汚れているのに、出てきたのはレトルトに生卵を落としただけの料理ともいえないものだった。おまけに卵の殻が入っていて、いったいどちらの仕業かと考える。
それでも二人が真剣な顔で窺ってくるから、「ありがとう」とだけ言った。ただ、自分のせいだからと張りついて看病したがる初美花を相手にする元気はなく、魁利に目くばせして出ていかせる。
よけたはずがまぎれ込んでいた卵の殻を噛み砕きながら、温め方にムラがあるレトルト粥を口に運ぶ。
これはこれで病人食らしいかもしれないと思い、知らず笑みが浮かんでいた。
頭痛と高熱に呻いていると、魁利がやってきた。看病をするためというよりは逃げてきただけだろうと想像はつく。
なにかの拍子に触れた手は冷たく乾いていて、その心地よさに思わず握っていた。彼は驚いたようではあったが、少しばかり呆れたように笑ってベッドに腰を下ろした。
「ほっといてほしいの、かまってほしいの、どっち?」
そんな難題を病人に訊くのか。
「……黙ってそこにいればいい」
とりあえず言い渡しただけなのに、彼は律儀に黙り込んで動かなくなった。きっと外に避難でもするつもりだっただろうに、不運なことだ……
そんなことを考えながら冷たい手を握りしめていたら、本格的に世界が回りはじめて。意識がどんどん遠のいていく。
少しは初美花を手伝ってやれ、こんなところにいても感染の危険があるだけだ。そんなことを言ったつもりだったが口にできていたかどうか。
ただ、彼がどこにもいかずここにいるということに、妙な安心感があった。
夜が明けるころには、熱もだいたい下がっていた。まだ少しだるいが、起きられないほどではない。
元より、薬を飲んで寝ていれば一晩で快復するという自信はあったから、二人ほど心配はしていなかった。初美花よりは体力があったということだろう。
薄暗い部屋の反対側のベッドで魁利が熟睡しているのを横目に、店へ下りていった。
冷蔵庫を開けると、レトルト粥が数食ぶん入っている。治るまで延々食べさせる気だったのだろうか。ならば次はせめて自分でレンジに入れさせてほしい、と思いながら厨房を見渡す。
多少の配置が変わっているのは目をつぶることにして、恐れていたほど荒らされてはいないことに胸をなで下ろした。隠すように置いてある、焦げついたミルクパンを発見したときには頭痛がぶり返しそうになったが。
店は明日から開けようか。せっかくだから、もう一日休んでやつらに掃除と買い出しを手伝わせようか。そんなことを考えつつ、冷蔵庫から出した水のボトルを手に部屋へ戻る。
音を立てずにドアを開けたつもりだったが、魁利がもそりとベッドの上で身を起こした。大あくびをして、重いまぶたを押し上げようとしている。
「おはよ……もう、いいのかよ?」
「ああ」
「ふーん……」
起きたばかりの魁利は、目をこすりながらもう一方の手で手招きをした。なにかと思い近寄っていくと、無言で手にしていた水を指さされる。手渡せば遠慮せずに半分以上一気飲みし、またぞんざいに返された。
受け取ろうと手を伸ばしたところで、その手を掴まれてベッドに引き倒される。
「おい……っ」
せっかく汗も引いたところなのに、魁利の熱がこもっている布団へ引きずり込まれ、しかも魁利自身が抱き枕にでも抱きつくかのように手足を絡めてきた。
暑い、離せと文句を言う前に。
「もうさ、なんで一人で風邪ひくんだよ……」
「はぁ?」
脈絡のない言葉に返す言葉もなく彼の顔を見ようとすると、胸元にぐいぐいと顔をこすりつけてきた。
「オレ昨日ずっと初美花に、バカは風邪ひかないって言われてて……違ぇし、丈夫なだけだし……」
まだ半分寝ぼけているのか、不明瞭な口調で理不尽な苦情をもそもそと呟いている。たしかに、彼だって初美花の部屋に出入りしていたし、透真とは必要以上の接触もあった。それなのに魁利だけが一人平然としている。
今も、完治したわけではない透真に抱きついて離そうとしない。それだけならまだしも。
「……当たってる」
「朝だから」
下腹部に彼の昂ぶりを感じ、思わずため息が出る。おそらく、途中から「それ」も目的になったのだろう。
「うつるぞ」
「うつんねえよ、バカだもん」
ふてくされた声で呟いて、魁利は顔を上げた。まだ眠そうな表情だが、しまりなく笑う顔は共犯者を求めている。
「もし熱出しても看病してやらないからな」
そう言い渡してから唇を重ねる。開きかけた目をまた閉じた魁利はぼんやりと、しかし荒っぽく口づけに応えた。それから透真をベッドに押しつけ、自分が上になって腰をすり寄せてくる。
そんな元気はないと思っていたが、魁利の荒い息が肌に当たり、彼の熱に直接触れたせいか、自分もじわじわと煽られているのを自覚した。
「だいたいバカだからひかないとか意味わかんね……」
ごそごそ動きながらも、まだ何か言っている。
「なんだ、羨ましいのか」
からかうつもりでそう問うと、彼は熱い息を吐きながらこちらの肩にあごを乗せる。
「オレばっか心配してんの、不公平だし……」
耳元でぼそりと囁かれた言葉に、この男でも他人の心配などするのか、と少し驚いてその横顔を見つめてしまった。
カーテンの隙間から朝日が射し込んできて、魁利も心なしか目が覚めてきたようだ。吐息と喘ぎを交わらせながら、二人は夜のあいだにたまった熱を吐き出すことに専念していた。
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透真はこのあとまたちょっとぐったりしますが、魁利はぴんぴんしてます。病気がよけて通るタイプ。
そういえば圭一郎は風邪ひいたことなさそうだよね。ひいても気づいてなさそうだよね。保菌はするのでつかさ先輩が倒れます。
新刊は、透真と魁利がこんな感じになるまでのお話です。
合わせて読んでいただければうれしいです。
<今回の表紙の裏で>