キングオSS…総長SS?

ギラとヤンマ、ひとつのベッドで寝る話。健全。
ここまで念入りに赤と青の組み合わせを強調されるの初めてで、正直戸惑っています。


【シェルター】

執務を切り上げ、城の内部にあるプライベートルームに戻る。
王とはいえ、召使いが控えているわけでも着替えが用意してあるわけでもない。一般市民の集合住宅並み……あるいはそれより狭いかもしれない。しかしヤンマにはそれで充分だった。
「ヤンマ……おかえり」
「お……」
照明はつけず、音も立てないようにして部屋に入ったつもりだったが。
起きてしまったものは仕方がないから、部屋の照度を眩しくない程度に上げて、ベッドから出ようとしている彼に歩み寄った。
「おかえりじゃねえよ、俺の部屋だっつーの。おとなしく寝てろタコメンチ」
だが床に下りたギラは、そそくさと毛布を直している。部屋の主に寝所を返すつもりらしい。
「こんな遅くまで、仕事?」
「やること増えちまったからな、どっかの誰かさんのおかげで」
ギラは気まずそうに笑う。
「ぼくがいるから、ヤンマがここに帰れないのかと思った」
「うぬぼれんな」
上着やアクセサリを壁に引っかけ、居候をもう一度ふり返る。
「ベッドは勝手に使えって言ったよな? 俺はいつもそこのソファで寝てっからって」
だがギラは、部屋の隅のスツールに所在なく腰かけていた。体を大きく見せるマントもなく、肩をすくめていると、ひどく小さく見える。
「ぼくも、椅子で寝るの慣れてるんだ。寝つけない子や、病気の子についててあげることが多くて……座ったまま熟睡もできるよ」
座って熟睡できるのなら、なぜヤンマの気配だけで目を覚ますのか。
「俺は病気でも不眠でもねえよ。てめえのほうが、寝つけねえガキじゃねえか」
そう返してやると、ギラは驚いたように目を見開いた。
「ホントだ……」
「自覚なしかよ」
眠れないとぐずっているより始末が悪い。
「園のみんなを守らなきゃって思うのかな、物音や灯りですぐ起きちゃうんだよね」
訥々と語られる内心に、嫌というほど覚えがあった。
家という家もなく、ましてや守ってくれる家族もなく。たった一人、治安の悪い町で生きていくためには、無防備に眠るなど考えられなかった。風雨や嵐に苛まれ、少しの物音でも飛び起き、危険が迫ればすぐ逃げられるように、常に気を張って生きていた。
今は大人二人でも余裕で寝られるベッドが、何重にもロックされた部屋に鎮座していて、緊急連絡以外にヤンマの眠りを妨げる者はいない。どこよりも心安らげる空間にいるというのに。
苛々と髪をかきまわし、ヤンマはギラの手を掴む。
「ったく、手ぇかかるヤツだぜ……来い」
「え、えっ?」
あっけにとられているギラをベッドに引きずり込み、頭から毛布を掛ける。
「二人ともベッドで寝るなら問題ねえだろ」
「ヤンマ……」
まっすぐな視線に怯みそうになりながら、彼の頭に手を置く。
「ここは、この城でいっちばん安全な場所なんだよ。天気も外敵も関係ねえ、俺だけのシェルターだ。そんで隣に俺がいる。だから安心して爆睡しやがれタコメンチ」
「……うん」
ギラはやっと笑顔を取り戻し、布団の中にもぐり込んだ。
自分から言い出した以上、ヤンマも仕方なくそのまま寝ることにする。アラームは朝になれば勝手になるから、照明を落とすだけでいい。
「……あのさ」
「あ?」
控えめな呼びかけのあと、少しの沈黙があった。
「手……握っていい?」
「あぁ?」
予想もしない言葉に、つい語気が荒くなる。気圧されたらしいギラは、あわてて「むりにとは言わないけど」とつけ足し、小さな声で呟いた。
「そうすると、みんなよく寝てくれるから。ぼくも眠れると思うんだ」
「……好きにしろ」
投げ出した手に、ギラはそっと自分の手を重ねる。
「おやすみ、ヤンマ。ありがとう」
「……うっせぇ」
静寂の中、手に感じる僅かな重みと熱の意味を考えないではいられなかった。
心細いからと言われればまだ納得もできる。甘えるなと一蹴することも。
だがこれは、自分が眠るためではなく相手を寝かしつけるための手段なのだ。ここにいるから、大丈夫、安心して、ゆっくり眠っていいよとなだめるための。
今のギラをなだめられるのはヤンマだけ、と思っていいのだろうか。それともギラは、ヤンマをも寝かしつける気でいるのだろうか。
慣れない虚勢を張って、下手くそな芝居を打って、「みんな」を守ろうとする彼の行く先にあるのは……。
「……………」
喉まで出かけた愚痴も嘆息も飲み込んで、ヤンマは目を閉じる。
眠りの浅い青年を、再び起こしてしまわないように。


でもシオカラはいつでも出入り自由なので、勝手に入って掃除とかしてます。