ドンブラ文まとめ。

◆火酒(かしゅ)「くらくら」「酔う」「燃えるよう」

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法事で余った一升瓶を抱えて帰る。年寄りが増えて消費しきれなくなったからだ。その他にも仏花だの菓子だのあったが、タロウが興味を示したのは酒だった。というより、他のものと違ってどう処理していいかわからないようだ。
「陣が全部飲むのか」
「いや……最近あまり飲んでないからなあ……」
弱くなっているだろうという自覚はある。そしてふと思い出した。
「タロウ、飲んでみるか」
彼は先月二十歳を迎えた。正しい生年月日でないとはいえ、それほど実際とのズレはないだろう。
「美味いのか」
「人それぞれだ。舌に合わなかったり、体質に合わなかったり」
コップを二つ持ってきて、栓を開けた。
「陣はどう酔うんだ?」
「そうだな……若いころは、飲むのが目的というより手段だったからな。人に絡んだり道で吐いたり電車乗り過ごしたり……ろくなもんじゃなかったことは確かだ」
想像できない、といったタロウの顔に苦笑する。
「おまえがうちに来てからは、酔ってる暇なんかないって気づいたよ。飲む回数が減って、却って味がわかるようになったかもしれない」
「そうなのか」
グラスというにはあまりに日常遣いのコップに注がれる透明の液体をタロウはじっと見る。
「成人にかな……乾杯」
「乾杯」
少し口に含んでみる。味はすっきりしているが、燃えるような感覚が一瞬喉を灼く。
「意外に強いな。無理はするなよ……」
ところがタロウは最初の一口で味見をするような仕草をしてから、くいと一息に飲んだ。
「おい……」
コップを置いたタロウは、思わず中腰になった陣にいつもどおりの笑みを向けた。
「……美味い水、といったところだ」
「生粋の酒飲みの発言だな。でも今日はこのへんでやめておこう」
なにしろ初めてだ、あとから酔いが回ることもある。それに今後、二人で晩酌ができるようになるのも悪くない。
「……陣と同じ、味がする」
「は?」
酔うにはさすがに早すぎないかと彼を凝視したが、なにも変化は見られなかった。
「陣を味わっているときと同じ気分だ」
「……!」
数秒考え、意味を理解して思わず床に手をつく。
「どうした、具合が悪くなったのか。布団を敷くか?」
テーブル越しに訊いてくるタロウの声は普段どおりで、ただの日常だ。しかしここに存在しているのは、人の営みではない。
くらくらする頭を押さえ、自分のコップもタロウに差し出した。
「飲んでいい。俺には強すぎた」
「……そうか」
神に供えられるのが酒ならば、彼にとってはたしかに「美味い水」に過ぎない。そして、酒と同じ味わいがするというのなら……。
「タロウ」
喪服を脱いで肌を晒していくと、言葉もなく彼がにじり寄ってくる。
「好きなだけ、味わえ」
酒とともに捧げられた供物は、神の腕に身をゆだねた。