キラメイ文まとめ

ワードパレット《花》16.蒲公英「笑顔」「強か」「ふわふわ」

 *

制服姿で道端にうずくまっているのを見かけたから、なにも考えずに声をかける。
「えっ、うわっ、タメくん!」
スケッチブックを抱えたままのけ反った勢いで、充瑠は地面に転がった。為朝はあわてて、強かに打ちつけた背中をさすってやりながら助け起こす。
「なに描いてたんだ……」
問いながら、二人のあいだをふわふわと漂う綿毛に目をとめた。足下には黄色い花。絵を描くのが趣味とはいえ、花の写生とは珍しい。
「たんぽぽか」
「ええっと……たんぽぽっていうか……」
「見せてくれよ」
充瑠はスケッチブックを抱きしめて困ったように身を揺らしていたが、やがておそるおそる絵を差し出してきた。画面は確かに黄色だけれど。
「あれ、ヒト……?」
というよりは。
「タメくん、です……」
それもばっちりポーズつきで。
たんぽぽを見ながら、為朝の絵を描く……さすが、発想力が常人とはちがう。
「接点、黄色だけじゃねえかよ」
安直というべきか、それだけ今の彼に印象強いのが仲間ということなのか。おかしさとうれしさでこみ上げてくる笑いをこらえつつ相手を小突く。
「でも、たんぽぽって強いんだよ! ずーっと下まで根を張ってさ、アスファルトの隙間でもこうやってキレイに咲いてさ、種になったら風に乗ってどこまでも飛んでいくんだから……」
ペンを握りしめて切々と「たんぽぽのすごさ」を語る充瑠を前に、為朝はついに笑顔を隠しきれなくなった。
「黄色くて、強いって?」
この際、どういう連想ゲームかは重要ではない。だれよりも「強い」彼に、そこまで認められていることがなんだか誇らしかった。
「あのなあ、そんな微妙な褒め方じゃなんも出ねえぞ……なんかおごってやろうか?」
「え……」
どこかおどおどしていた充瑠が、ぱっと笑顔を咲かせた。
「じゃあ、タメくんといっしょに駅前のカフェ入ってみたい」
ハンバーガーとかケーキとかもっとカロリー重視のオーダーを予想していたから驚いたが、内気な高校生では一人で注文もおぼつかないのだろう。憧れの店に足を踏み入れるのに、まだ「保護者」が必要なのだ。
「安上がりなヤツだな……」
苦笑しながらも承諾すると、充瑠は上気した顔で為朝の手を握る。
「早く行こうよ」
絵一枚でこの自分をその気にさせるとは……意外にしたたかなのかもしれない。
はしゃぐ充瑠に目を細め、為朝はおとなしく手を引かれていった。