キラメイ文まとめ
ワードパレット《at parting》10【憧れで終わる】「初恋は叶わない」「偶然」「ありがとう」
初々しい両思い。
キラリュウ後だけどあんまり関係ないです。ヨドンナは見てないです。
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たぶんそれは、憧れをこじらせた独占欲に近いのだと思う。
才能ある人間は世の中にはたくさんいて、手助けしてやりたくなる若手も少なくない。だからといって完全な「縁の下」に回るには、自分自身にまだ野心がありすぎる。
それなのになぜ、彼にだけはこの才能を「自分が」どうにかしてやらなくてはと思ってしまうのか。
「なんか逆に悩ませちまったみたいで、ごめんな」
「ううん、タメくんがオレのこと気にしてくれてるのうれしかったよ。うれしすぎて空回っちゃったみたい」
晴れ晴れとそう言う彼の笑顔が眩しい。
充瑠は結局、為朝が紹介したコンテストには参加しなかった。今はまだ、楽しく描いていたいという理由で。
「でも進路とか考えるきっかけになったし。ほんとにほんとに、ありがとう」
改めて礼を言われるとなんだか気恥ずかしくもあり、つい顔を背けてしまった。
「今回のは……オレの下心込みだから」
彼を自分の手で広い世界へ引っぱり出したいという下心。この才能を世に知らしめたのは自分だと、胸を張りたいだけなのかもしれない。ただ偶然居合わせただけなのに。
それを聞いた充瑠が気まずそうにうつむいて、さすがに照れ隠しが過ぎたかとあわてる。
「いや、下心ってのはさ……」
「下心なら! オレも、あります!」
思いつめた様子で、口調までおかしくなった相手を、為朝は呆然と見つめた。自分はともかく、充瑠には似つかわしくない。
「ど、どんな?」
「それはその……あんまり大きな声じゃ……」
もそもそと口ごもった末に、充瑠は為朝の耳に口を寄せる。
私服でいっしょに街を歩きたい。
買い物や食事をして、手を繋いで。
「オレがタメくんと同じくらい有名になれば、だれも変に思わないよねって……」
「……うぉい!」
中学生だってもう少しいかがわしいことを考えられるだろうが、とつっこみたくなると同時に、もっと「先」を想像してしまった自分にも容赦ないツッコミをだれか入れてくれと思う。
「それくらい、今だって普通にできるわ」
彼の手を取って歩き出した。
「ちょっと、タメくん!?」
「今からデート用の服を買いにいくんだよ」
「デート……」
わずかに戸惑った充瑠は、すぐに追いついて為朝の腕にしがみついてきた。くすくすと笑っているので、何事かと尋ねれば思いがけない人物の名前が飛び出す。
「柿崎さんがね、変なこと言ってたの思い出してさ。迷信みたいなやつ」
「はぁ?」
「初恋は叶わないまま終わるって。でも、叶ってるよね?」
屈託なく言われて、返す言葉に詰まった。
「迷信とは、ちょっとちがうと思うけどな……」
明確に充瑠のほうから「恋」という単語が出たことはなくて、それを意識させたのは「デート」という為朝の言葉だったのかもしれない。同時に、彼にとってはこれが初めての恋なのか、という奇妙なプレッシャーも感じた。
「終わって次を意識するから『初恋』になるんだぜ。だから『叶わない』のはあたりまえ」
屁理屈だが、充瑠は素直になるほどとうなずいている。こっち方面こそ「自分が」どうにかしてやらなくては。
「タメくん、オトナ~!」
「なんでも聞けよ」
充瑠を高みへ羽ばたかせたいというエゴはひとまず引っ込めておいて。今は彼自身を独占できる幸せに浸っていよう。
服を買って、人目を憚らずに歩いて、食事をして、それから……。
それこそが、どうしようもないエゴなのだけれど。
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タメは充瑠の何なの? 重めの彼女なの?