セイバー文まとめ

飛羽真と賢人。
と剣士たち。自分に課した字数制限がなかったら、全員しゃべって動いていたかもしれないので危なかった。

ワードパレット【夏の思い出】「大輪」「喧騒」「ないしょ」

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「見ましたか、今のは大きかったですよ!」
倫太郎が手すりから乗り出さんばかりのテンションではしゃいでいるのを眺めながら、ドリンクのボトルを開けた。
「おもしろいな、光と音のズレが実におもしろい」
ユーリが妙なところで感心したようにうなずいているが、マイペースなのはいつものことだから気にしない。
「ここが特等席って、なんで今まで教えてくれなかったの」
芽衣の文句を笑って聞き流し、グラスを賢人に渡す。彼は置いてあるベンチにもたれて空を眺めていた。
昼の熱気はまだ下がりきっていないけれど、屋上を吹き抜ける夜風はそこそこ心地よい。飛羽真も彼の横に腰を下ろす。
大輪の花火が次々と夜空に咲き乱れ、少し遅れてばらばらと破裂音が聞こえてくる。打ち上げの会場から距離はあるが、それでも高く上がった花火を遮るものはなにもない。屋上の面々は時に歓声を上げながら、花火大会を楽しんでいた。
「……昔、いっしょに花火を見にいったよな」
賢人の呟きに飛羽真は笑みを洩らし、グラスに口をつける。
「大人の頭越しにしか見えなかった」
待ち合わせたいつもの公園は大勢の客でごった返していて、仲良し三人組は途方に暮れた。それでも花火大会の空気に浮かれるのに時間はかからなかった。
「飛羽真が夢中になりすぎてはぐれてさ。必死に探してやっと見つけて……」
「そうだった」
喧騒の中、どうしようもなく心細くて半泣きだったことを思い出す。いや、二人と再会したときにはもう泣いていたかもしれない。
「もうぜったい離れないように、しっかり手をつないでてねって」
「言った言った」
笑いながら伸べてくる賢人の手を、苦笑とともにあらためて握る。お互いに大きくなった手は、戸惑いながらも落ちつくかたちを探り合い、最後には長い指を絡めて「しっかり」繋がれた。
あの夜は小さな手を痛いほど握りしめて、飛羽真を真ん中にして三人で横並びになって。
そして空いっぱいの大きな大きな、光の花を見たのだ。
安堵と高揚が見せた幻だったのかもしれない。だが飛羽真の心には夜空を覆いつくすあの花が、今も焼きついている。
「それ、暑くない?」
飲み物を取りにきた芽衣が、二人の手を見て呆れ顔で尋ねてきた。飛羽真はあわてて手を引こうとしたが、賢人はベンチへと押さえつけて離そうとしない。
「まあ……なんていうか、話の流れで」
仕方なく片手を彼にあずけたままもそもそ答えると、横から倫太郎も愉快そうに入ってくる。
「どんな話をしていたんですか」
「ないしょ」
賢人がグラスを口元に運びながら答え、飛羽真も彼に合わせて曖昧な笑顔で済ませることにした。
「おい、もう終わりか」
一人で暗い空を見つめているユーリが声を上げる。いつのまにか光も音もやんでいて、代わりに階下から笑いの混じった話し声と足音が聞こえてきた。
「お待ちかねの酒とつまみだぞー!」
買い出しに行っていた尾上たちが荷物を抱えて現れた。花火大会は終わってなどいない。剣士の宴もまだまだこれから。
「それじゃあ、乾杯しますか!」
飛羽真の声とともにぱっと散った光の球が、離すタイミングを失った二人の手を照らした。

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最初4人だったけど結局全員になりました。神代兄妹とソフィアさまもいる。蓮もいる。