シン・ゴジラ文まとめ

ゴジラ前。
本番はないけど矢口攻め寄り。

 *

「異性にはあまり興味がないんです」
話の流れとはいえなんの感慨もなく、彼はそう言ったのだった。
派手なスキャンダルを飛ばした同輩の話題を、酒の肴にしていたときだったと思う。端正な見てくれからすると大層意外で、しかし彼の性格を考えると妙に納得できる言葉でもあった。嫌悪も皮肉もなく、ただの事実として彼はそれを告白した。
「同性には?」
ついそんなことを訊ねてしまったのは、酒の勢いか、それとも意識の外でずっと気にかかっていたからなのか。
めずらしく驚いた顔をした彼は「試したことがないので」と真顔で答えた。
矢口蘭堂との奇妙な関係は、その夜から始まった。

興味がないというのは、淡白という意味ではない。
シャツを脱ぐ余裕すら与えずに、矢口は赤坂をベッドに押しつけた。
「うっ……ん……っ」
赤坂は羽根布団に顔をうずめて声を飲み込ませる。下着の中に入り込んだ無遠慮な手は、一方的に赤坂だけを追い詰めようとしていた。やり返そうにも後ろから抱きすくめられていては、されるがままでいるしかない。
だが赤坂も、むりやりつき合わされているわけではない。体の下で自らシャツのボタンを外し、矢口に先を促した。
勘のいい男は気づいてすぐ、シャツに手をかけてくる。布地が肩から引きはがされると同時に、肩甲骨へ矢口の歯が当たるのを感じた。彼は赤坂の背や肩に噛みつき、口づけ、そして吸い痕を残す。
「待て、矢口っ……」
「人前で服を脱ぐ機会でもあるんですか」
上ずった、だが妙に冷静な問いかけが背後から投げかけられた。
「いや……」
とっさに嘘がつけなかったことを後悔する。
後ろからの拘束を解放された、と思った次の瞬間、仰向けに転がされた。息の乱れた矢口と目が合う。赤坂の両手をベッドに押さえつけた彼は、薄く笑ってみせた。それがある種の照れ隠しに近いものだと、知ってはいたけれど。
「では遠慮なく」
言葉どおり、胸の突起をきつく吸い上げられ、赤坂は声もなく喘ぐ。
服の上から押しつけられる腰はすでに熱を集めていて、それに貫かれる想像をしてしまった赤坂も、芯が熱くなるのを止めることはできなかった。

矢口はテレビを横目に着替えている。
早朝のニュースでは、先日組閣されたばかりの大河内新内閣についての話題がメインだが、矢口が見ているのはきっと時刻と天気だけだろう。東京は36℃。もう二週間も25℃を下回っていない。
「おまえ、俺が他に肌を見せる相手がいるとは思わなかったのか」
バスルームから出てきた赤坂を一瞥し、矢口は少しばかり目を泳がせた。さすがに明るい場所で自分がやらかした悪行を目にすると、反省の念もわくらしい。赤坂の肩から胸にかけて、自分では見えないが背中にも、矢口がやりすぎた痕跡が散らばっている。
「……そういう相手がいるなら事前に言ってください。遠慮しますから」
謝罪ではなく弁明に近い言葉に、苛立ちも込めてため息を返す。
「いないよ」
「でしょうね」
あっさり肯定されると余計に腹が立つ。
「自惚れか」
「いえ、他にいるなら私を相手にする必要はないでしょうから」
矢口流の論理展開だ。一人いれば事足りる。リスキーな秘密を共有する相手は少ないほうがいい。一見正しいように聞こえるが、それが真実ならこの世にスキャンダルは存在しない。
「おまえこそ、どうなんだ」
「言ったでしょう。興味がないって……」
「女にはなくても、男にはあるんだろ」
でなければ二人は今こうなっていない。いかにも政治的な密談と見せかけてホテルで肌を重ねるなどと。
しかし矢口は否定も肯定もせず、肩をすくめただけだった。
「それこそ必要ない」
「俺がいるからか……」
賢明な判断ではある。
そして矢口自身が「賢明な判断」と思っていることこそ、赤坂の目には危うさや脆さと映るのだった。
「……………」
シャツを着た矢口の腕を引き、首を抱き寄せて口づける。不意打ちに驚きながらも応えてくる矢口の襟元に手をすべらせ、閉めたばかりのボタンを上二つほど外した。
「なんですか……」
耳を甘く噛まれた彼はくすぐったそうに笑う。赤坂はくつろげた襟のあいだの白い首筋を、強めに吸い上げた。
「あ……」
痕をつけられたことに気づいた矢口は、引きつった顔でバスルームに駆け込んでいく。
やがて盛大にため息をつきながら出てきた。シャツの襟で隠れるギリギリの場所で、ボタンを一つでも外せば見えてしまう。悪戯の成功に赤坂は顔がにやけるのを止められなかった。
「……クールビズ推進中の人がやることじゃありませんよ、というか大人げないです」
矢口だけには大人げないなどと言われたくない。
「涼しい顔は得意じゃないか」
赤坂は自分もシャツを羽織りながら笑った。
ぐったりした矢口の顔を思い浮かべるだけで、今日の暑さも乗り切れそうだ。

 *

とりあえず駆けつけ一杯的な感じで書きました。
特撮ファン的にも大満足。