シン・ウルトラマン文まとめ1
火樹銀花「きらめく」「瞳の中」「手を引く」
ゼットン後。リップクリームというアイテムリクエストをいただきました。
*
クリスマスが終わって新年の準備が始まる、空白だがひどく慌ただしい一週間。
だがきらめくイルミネーションの下を歩く男二人には、年末年始もない。
夜の繁華街でも、二人の男はだれにぶつかることもなく、存在さえ認識されず、ビルの隙間に入り込んだ。
暗がりから見える街明かりに、つい目を細めて呟く。
「火樹銀花……」
「なんか言ったか?」
怪訝そうな加賀美の言葉に、苦笑しながら自分の頭をつついてみせた。
「『彼』の置き土産だ。人間を理解するため、途方もない知識を途方もない速度で詰め込まれた。普通に警察官やってたら一生知らずに済むことばかりだ。全部覚えてるわけじゃないが、たまにふと顔を出す」
「……迷惑な話だな」
確かに想像もつかないだろう。神永としては「それ」がこぼれ落ちてくる瞬間に世界の見え方が変わるのが、少し楽しいのだけれど。
「で、そのカジュなんとかってのは?」
「七世紀ごろの中国で、正月の華やかな夜をそう言い表した詩人がいた……概要としてはそんなところだ」
「浮かれ方に、時代も場所も関係ないってことか」
街のざわめきへ目をやる、彼の横顔を見つめた。互いに浮かれているところなど見たことがない。年中行事をともにする相手など自分にはいないし、彼が持っているとも考えにくい……。
「なんだ」
視線の意味を問われ、一瞬返答に詰まった。意味などないからだ。
「……唇が荒れている」
咄嗟に出た言葉に、彼は不審の色を濃くして見返してきた。さっきまでイルミネーションを映していた瞳の中にはもう、なんの光も見えない。
「冬だからな」
どう答えていいかわからなかったのだろう、加賀美はぞんざいに自分の唇を舐める。
「唾液は乾燥を助長させる。ひび割れて血が出る前にケアしたほうがいい」
「それも、『やつ』の置き土産か?」
答えず口元だけで微笑み、手を入れていたコートのポケットから、スティックのリップクリームを取り出した。
「準備がいいな」
小さく噴き出す加賀美の顔を上向かせ、かさついた唇をそれでゆっくりなぞっていく。合わない目線を辿ると、彼は神永の唇を眺めていた。自然と意識がそこへ向くのだろう。
「これはおまえにやるよ」
塗り終えたリップクリームを、彼のポケットへすべり込ませる。
「お節介め……」
眉を寄せた加賀美は、「べたつく」と唇を拭おうとした。その手を引いて、ついでに体ごと腕の中に抱き込む。
「……血が混じると、キスが不味くなる」
自分の唇で彼のリップクリームを広げ、ならしていく。白い息は混じり合い、熱となって二人のあいだで消えていった。
「……………」
静かに息をついて、体を離す。さっきまではそれほど感じなかった寒さがとたんに襲ってきた。
「こっちのほうが不味い」
加賀美が不満そうに唇を舐めて答え、肩をすくめてポケットへ手を突っ込んだ。
「それなら、別の味に変えるよ」
まばゆい街の灯りは男たちの輪郭だけを細く描いて、残りは闇の奥へと沈めてくれる。
そこにあったやりとりも、二人の存在さえ、だれにも認識されることはなかった。
*
マツ*ヨに行って、ハチミツ味でいいか?とか言ってる二人。
神永はきっちりしてるので一本のリップクリーム(メ*ソレータム)をなくさず使いきれる男だと思う。浅見はコートとバッグ全部のポケットに入ってて使い切らずになくす。