キュウレンジャー文まとめ1
さみしい子供
廊下の向こうに、彼を見つけた。
「スティンガー!」
船内に仲間の彼がいるのはあたりまえ。だがそれがしばらく「あたりまえ」でなかったから、ラッキーは文字どおり飛び上がるくらいうれしくて、廊下を走っていく。
しかし、スティンガーのほうはぎょっとした顔でこちらを見やり、それからうろたえたようにすぐ近くのエレベーターに逃げ込んでしまった。
「え……」
ラッキーはエレベーターの前で呆然と立ちつくす。
なぜだろう。また逃げられた。もう何度かこんなことがつづいている。
元どおりの日々が戻ってきてうれしいと思うのは、自分だけなのだろうか?
「わかるけどねえ……もうちょっと、やり方ってもんがあるんじゃないの」
ぼんやりと窓の外の星々を眺めていると、後ろからショウがやってくるのが窓に映って見えた。
なんのことだろう。心当たりがありすぎて見当がつかない。困惑を隠さず見返すスティンガーに、総司令はため息まじりで笑いかけた。
「気持ちの整理がつかないのはわかるよ。でも、ラッキーにそれを察しろっていうのは酷じゃないかい?」
「あ……」
そうだ。
仲間たちは何事もなかったかのようにスティンガーを受け入れてくれ、スティンガーも戸惑いながら彼らの友情に応えようとしているところだった。
だが、ラッキーとだけは、どうしても向き合えない。
「……資格がない」
「だから、そういうのはナシって、みんなにも言われたじゃないか」
うんざりした声で言われても、こればかりは気持ちの切り替えでどうにかなるものでもない。
今、仲間たち一人一人の大切さをはっきりと噛みしめられるようになった今だから、これまでどおりに無自覚ではいられない。
自分の欲望の正体に。
「スコルピオとなにがあったとしても、ラッキーは気にしないと思うけど?」
スティンガーはぎくりとしてショウの横顔を凝視した。
「司令、知って……」
だれにも明かしたことはない。
蠍の仲間でも禁忌とされている、肉親との交わり。兄との再会で、自分の執着を嫌というほど思い知らされた。美しい兄弟愛とはいいがたい。それを……
「なんのことかな」
肩をすくめたショウは、言葉を探すように星を仰いだ。
「ラッキーはねえ……本人は自覚がなかったみたいだけど、きみたちがいないあいだ、少し調子がおかしかったよ」
「え……」
「ヘタに立ち入って、寝た子を起こしても面倒だからね、見ないふりはしていたが。なにかが足りていない、でもそれがなにかわからない、そんな顔をしていたな」
天真爛漫といえば聞こえはいいが、なにも考えずその場の勢いで動いているような男……でないことはスティンガーも知っている。ただ楽天的に幸運だけを信じて生きているわけではないことも。
そしてまた、肌を重ねることでしか知りえないこともあった。
「……ラッキーの中には、さみしい子供がいる」
「うん?」
明るく元気な少年ではない。いつまでも不安を捨てきれないまま夜に怯える幼子が。ショウの言うとおり、自覚はないのだろうが。
その相手をしているとき、自分のほうが大人で、彼を守ってやっている気がしていた。
「だが子供は俺も同じだった。俺たちはただ慰め合っていただけだ」
ラッキーを守っているつもりで、守られたかったのは自分自身だった。兄と対峙するまで気づきもしなかった。
「いいじゃないか。支え合いもたれ合うのが仲間だ。私はきみたちの関係を不毛だとは思わないよ」
いつもの軽口ではなく、淡々と返される言葉が心からのものであることは理解している。
「でも……!」
「思慮深いのはきみの長所だが、考えすぎはよくない。ここは考えるより……」
ショウが言葉を切ったのは、赤いジャケットがラウンジに現れたからだった。
「いた! スティンガー!」
息を切らせた大音量が耳を刺す。
「ラッキー……」
まだだ、まだ彼と向き合うことはできない。そう思いながら見返した彼は、ひどく真剣な顔でこちらを睨みつけていた。
「その顔! なんでそんな顔で俺のこと見るんだよ!」
「顔……」
想像はつく。怯えて、怖がって、逃げ出したいと語ってしまっている表情。
耐えられないのだ。彼に真実を告げることも、彼を欺いて傍らにいることも。彼から永遠に離れてしまうことも。
こんなときにかぎって、さっきまで説教じみたことを言っていた総司令はなにも口を差し挟まず、知らぬ顔で星を数えている。
長い脚で大股に歩み寄ってきたラッキーは、迷わずスティンガーの腕を掴んだ。
「……!」
「来いよ、話があるんだ」
ラッキーはショウを見やり、視線で了承をとる。ショウは肩をすくめて了解を伝えただけだった。もともと会話なんかしていなかった、という顔で。
ショウの横からむりやりスティンガーを引っぱりながら、ラッキーは自分が進む前に向かって言い放った。
「言っとくけど、俺はおまえのこといらないって思ったことないからな! おまえが俺をいらないって言うなら、理由を教えろ!」
スティンガーはつい口を開けて彼の後頭部を見つめてしまった。
ラッキーなりに考えた結論がそれか。
「いらない理由なんか……ない」
脈絡もなく、涙がにじんでくる。このところ、涙腺がおかしくなっているようだ。
「じゃあなんでだよ!」
こっちを見ない彼は、どうやら本気で機嫌を損ねて怒っている。だから力加減など望むべくもない。
「おい……っ」
腕が痛い。
絶対に逃すまいと食い込んだ指も、人のペースなどおかまいなしにぐいぐいと引っぱっていく腕も。子供のように
「待て、ラッキー……っ」
スティンガーは空いた手で頬をこすり、置いていかれまいと彼の歩幅に合わせた。
「これでほんとうの一件落着……にしてほしいね」
横目で廊下の向こうに消えていく二人を見やり、総司令は再び星々に目を向ける。
引きずられているはずの腕が、しっかりと手を握り返しているのを確かめたあとで。
イメージ:
紫「ラッキー!スティンガーとケンカしちゃダメでしょ」
赤「だって!スティンガーがもうおれと遊ばないって!」
橙「……(ぷいっ)」
紫「どうしたのスティンガー、黙ってちゃわからないじゃない」
赤「わーん、スティンガーはおれのこと嫌いなんだー!」
橙「…そんなことゆってない」
紫「ほら、スティンガーもラッキーのこと大大大好きだって!仲直りしてあっちで遊んでおいで!
…ああちょっとナーガ!そこ登っちゃダメって言ったでしょ、バランスも止めなさい!…え、ハミィはキュアパルフェのリボンがほしいの?この前ポッピーピポパポの帽子買ってあげたじゃないか…」
黄「みんな~ごはんできたよ~チャンプとガルはちゃぶ台出して、ラプターと小太郎はお茶碗持っていって!」
紫「いつもすまないねえ…母さんさえ生きていれば…」
幼稚園というよりは昭和の大家族です。
昭和のオリオン号大家族内訳。
★ダディ:ショウ・ロンポー
★子供たち:スパーダ(しっかり長男)>ラプター(夢見がち長女)>バランス(マイペース次男)>ナーガ(不思議っ子三男)>スティンガー(人見知り四男)>ラッキー(無鉄砲五男)>ハミィ(おしゃまな次女)>小太郎(ちゃっかり末っ子)
★居候のおじさん:チャンプ(スティンガーがなついてる)、ガル(ラッキーになついてる)、ツルギ(自称親戚)
この感じでいくと、お母さんはビッグベア総司令だろうなと…