ラザロ文まとめ
Give and Take
R18。前半がアクセル×ダグ、後半がダグ×アクセル。
本当にいたしているだけ。
たぶん、自分では気づいていないのだと思う。
アクセルはダグの汗を舐めながら、広い手が優しく髪を撫でるのを感じていた。
自分で誘っておいて言うことでもないが、つくづく体だけの関係に向かない男だ。
長い指はアクセルの背骨をひとつずつなぞり下ろしていく。本人は触れている意識さえあるかどうか。だが意図のあるなしに関わらず、その愛撫はアクセルの体を震わせる。
「……っ」
そんなところが感じるなんて、自分でも知らなかった。
衝動に急かされて、長い脚を抱え奥を突き上げると、ダグは噛みしめていた唇から上擦った呻きを洩らす。我慢していいことなどひとつもないのに、いつも限界まで声を殺そうとする。
それならそれで、声を上げるまで責め立てればいいだけの話だが。
「ぁ……あっ!」
態度以上にわかりやすい体の反応は、シンプルに心地いい。痛がるよりは、よがっている相手のほうがいいに決まっている。
「慣れてきたじゃねえか」
「ぅるさ……っ」
深い意図も打算もなく、ただ遊び相手として選んだだけだった。上手い下手とか相性とか、そんなのはよっぽど悪くないかぎりはどうにかなる。刑務所の食事と同じ気の持ちようで、高望みしなければいい。向こうもそれを承知して、ひと月限定のセックスフレンドを確保した、ただそれだけのはずだった。
「ん……っ!」
力強い腕に抱きしめられる。腰を抱き返し、密着している体が強ばるのを全身で味わった。余計な肉がついていないから筋肉の動きがダイレクトに感じられる。その気になれば、お互いただでは済まない格闘もできるだろう。
「なあ、ダグ、いくぜ……」
「勝手に、しろ……っ」
口調はどんなに刺々しくても、腰に、首筋に触れる手つきは変わらない。どうしても手荒になってしまうアクセルを包み込むように、ダグはその身でただ受け止める。
「ダグ……ぁ、うああっ……!」
爪を立てたり噛みついたり、髪を掴んだり引っぱったり、張り手や拳を食らわせたり……あたりまえのオプションが、このベッドにはなかった。戯れに小突き合うことはあっても、この部屋に暴力はなかった。
ダグにとって、セックスとはそういう行為なのだ。相手が気に食わない男であろうと、どんな経緯でこの関係に至ろうと、その腕はいつも優しい。
「……抜け」
息を切らしながらそう呟いて、ダグはアクセルの髪を襟足からかき上げた。
ただ不器用なだけ、だれにでも真摯でだれにでも尽くす。
この時間だって、ほんとうは取引ではなく施しに過ぎないのかもしれない。相手がそのつもりならこちらも潔く他へ乗り換えられた。逆に、一発殴ってから犯すような相手だったらこちらも遠慮なく殴り返して始められただろう。
「キスしてくれたら」
「貴様……」
それでも、眉を寄せながら唇を重ねてくるのが律儀ではある。
「ん……」
まるで本物の恋人のような甘く優しい口づけに、なぜだか無性に切なくなった。
おそらく、本人は無自覚なのだろう。
ダグは目を細めてアクセルの顔を見上げる。
彼を取り巻く環境がそれを許さなかったとは予想がつくものの、体だけの関係には向いていない男だ。
「ダグ、ぁっ、ダグッ」
しつこいくらいに名を呼んで、淫らに腰を揺らしている姿から目が離せない。
自らのコイントスで女役に決まったアクセルは、それなら騎乗位がいいと半ば強引に乗りかかってきた。なんとしても主導権を握りたかったらしい。
お互いに相手を押さえつけようとした手が組み合って、絡んだ指を離せなくなっている。今は行為に意識を奪われ、繋いだ手の始末は後回しになっていた。
「おまえの……先週より、おっきくなってる……っ」
「そんなわけ、あるか」
アクセルは苦しげに笑い、こちらを見やった。
「俺が、エロいから?」
「黙らせてやろうか……」
空いているほうの手であごを掴むと、アクセルのほうから頭を近づけてくる。
「ああ、黙らせてくれよ」
吐息とともに唇が重なって、舌がもつれ合う。忙しなくて荒っぽくはあるが、決して乱暴ではない。甘えてせがむ子供のようだ。どこか必死に見えるのは、後先など考えていないと知っているからか。
ダグを誘ったのも深い考えがあったわけではないだろう。もし拒まれるどころか強烈なヘイトでも浴びせられていたら、いったいどうするつもりだったのか。常人には想像もつかない。
こちらも正常な選択をしたとは言えない。自暴自棄な気分で苛立っていて、なにか気をまぎらわせる刺激がほしかったといった程度だ。
だから、ここまで浸るはずではなかった。
「ダグ……」
口づけの合間にも名が呼ばれる。まるで恋人でも呼ぶかのような甘ったるい声は、よからぬ錯覚を引き起こす。
そう、錯覚だ。陽炎、蜃気楼。実際には存在しない。
普段の彼と同じ。だれにでも人懐っこくて、とびきりの笑顔を振りまいて、自分に好意があると勘違いさせる。
その場その場では本気の顔をして、実のところはだれにも懐かない。
今この瞬間、その肢体と眼差しを独り占めしたところで、心は永遠にだれのものにもならない。餌をくれる人間には腹を見せる野良猫と同じで、捕まえようとする者の腕からはすり抜けてどこかへ行ってしまう。
さんざん楽しんだあとで、アクセルは組んだ指をやっと離した。
ダグはいちおう下着を身につけ、諸々の始末……プライバシーに関わるごみの密閉など……をしてから、アクセルが転がっているベッドを見下ろす。自分の部屋でもないのに、服を着る様子もない。
「……ここで寝ていい?」
「ダメと言ったら出ていくのか」
「行かねえけど」
へへ、とアクセルは笑ってシーツの上でうずくまる。勝手な野良猫だ。
ダグは深々とため息をつき、アクセルを押しのけてむりやり自分のスペースを確保した。毛布をかぶって目を閉じる。
掴まれていた手がまだ強ばっていて、そして彼の熱を覚えている。
たとえ明日世界が終わるとしても、彼がダグの元にとどまることはない。ならば、こちらもその選択肢は最初からなかったことにしよう。
諦めるのも口を閉ざすのも、もう慣れきってしまったから。
アクセルの「俺に告んのか?」に、ダグが怒りもせず冷静に返してたので、その手のジョークにはもう慣れちゃったんだろうなと思いました。