ラザロ文まとめ
Road to the West
アクセルとダグ、左右曖昧。
リバ前提だけど本番なし暗転。
「どっちに転んだって、一か月後には他人なんだしさ」
その言葉は誘惑としては甘すぎた。
不安、焦燥、現実逃避……すべてを飲み込む力を持っていた。
*
とくに出動する先もなく、作戦会議ともいえないデータ検証と雑談で一日を使い果たしてしまった日。
空虚な疲れに襲われてベッドに倒れ込んだ瞬間、ドアがノックされた。
「眠れねえ」
無視すればよかったと思いながら一度開けたドアを閉めようとするが、行儀の悪い足が挟まれる。
「部屋で筋トレでもしてろ」
「今日だけで一週間ぶんやったよ……」
アクセルはだるそうに首を回しながら、勝手に部屋に入ってきた。
議論が白熱して出番がなくなるともぞもぞ動き出し、隙を見て外に出ようとするのを見つかって止められる、落ちつきのない小学生同然だった男だ。エネルギーが有り余っているのだろう。
「なあ、しようぜ」
サッカーにでも誘っているかのような口調に、深い深いため息が洩れる。
「貴様と違って俺は頭脳労働をしていたんだが……といっても聞く耳はないな」
「わかってるぅ」
ダグは諦めてドアの鍵をかけた。
一人一部屋、プライバシーは表向き守られていることになっていた。個室や共用の生活スペースに盗聴盗撮などがないことを5人で確認はしたが、自分以外を信用していいと断定できない状況では、希望的観測でしかない。
実際には全て監視されていて、この不健全な関係を証拠つきで指揮官に咎められる可能性も皆無ではないということだ。その場合、どうやってアクセル一人に全責任をなすりつけるかをずっと考えている。
「さて」
アクセルが手品のようにコインを取り出した。キャッシュレス決済が主流の今は、こんなことにしか使わない。
彼が弾いたコインを、ダグが受け止める。
コインは表向き。
「今日は俺かぁ」
アクセルがうれしそうに言うのを苦々しく睨み、眼鏡を外した。
*
手探りで見つけた眼鏡をかけて、天井を見上げる。
さっきまでは疲労感だけで少しも姿を見せなかった睡魔が、すぐ近くまで来ているようだ。
手にした携帯端末にはこれといって通知もない。深夜だから当然といえば当然だが、ついメーラーを開いてしまう。広告、スパム、広告。運命の日以後、アカウントの持ち主が大半死んでしまっても、それは自動的にメールボックスへ溜まっていくのだろう。
今日も甲斐なく一日が過ぎてしまった。タイムリミットが迫ってくる。不安と焦燥だけが募っていく。
「……子守歌でも歌ってやろうか?」
人の枕を抱え込んだ男が、半分閉じた目で囁いてきて、はっと我に返った。
ひとつのベッドに裸の人間が二人、むりやり収まっている。それが自分たちの「今」であり「現実」だ。
「おまえが帰れば、熟睡できるんだが」
「それはむり……」
アクセルはあくびをしながら枕に沈み込んでいく。自室に戻る気は全くないらしい。
ダグも端末と眼鏡をサイドテーブルへ置いて、ライトを消した。横たわったダグの懐へねじ込むように、アクセルが身を寄せてくる。
「独り寝がさびしいか」
揶揄のつもりだったが、相手は眠そうな声で笑っただけだった。
「そりゃあ……毎日24時間、他人に見守られてたからな。だれかがいたほうがよく眠れるくらいだよ」
物騒な囚人ジョークを飛ばし、アクセルはダグの腕を自分の体に巻きつける。
ぞんざいに振りほどいてしまうにはあまりに温かく、そして力強かった。まるでこの関係に意味があるかのように。
だから言い聞かせなければならなかった。
「……どっちに転んでも、一か月後には他人なんだ」
そういえばタイトルは古いサントラの曲名なので、内容にはほぼ関係ないです。