【SS】リュウソウ「連鎖反応」

久しぶりにSS書いた。一ヶ月以上ホントにお絵かきしかしてなかったので。

コウの凶暴性とかカナロの婚活とかナダと兄弟の関係とかの諸問題について。
特定の組み合わせでも恋愛感情でもないからどう説明していいのかわかんないんだけど、つまりは全員片想い的なことです。私はこういう感じで今年の戦隊を楽しんでるんだと思います。
たぶん「ふーん、それで?」的な話なんですよね……意味とかあんまりない……イラストは意味がなくてもいいのに、テキストは意味がないと成立しないって理不尽じゃないですか(理不尽な発言)

全体的にカップリング未満ですが何かご要望などあればコメントください。お応えできるか保証はありませんが、Rがつく場合は年下攻め推奨です。

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誰かが誰かを想う一夜。矢印は一本とは限らない。
夜だから、みんな明るさから目を背ける。

【青い月の光】
【輝く凪の海】
【黒い岩の陰】
【紫の空の下】

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【青い月の光】

カーテンの隙間から、月が部屋を覗き込んでいる。
窓は閉めたのにカーテンまでは気が回らなかったのだな、と思いながらメルトは寝返りを打って窓に背を向けた。
龍井家の二階、元は資料室という名の物置だったらしい部屋に、メルトとコウは布団を敷いて寝泊りしている。アスナはういの部屋に。
村にいたころはよく三人で雑魚寝をしていたが、さすがに人間の世界の常識に照らし合わせると、ここでも三人いっしょとはいかない。もっとも、寝相の悪い二人には蹴られたり乗られたりとあまり寝やすい環境ではなかったから、メルトとしてはありがたくもある。
もう半年以上、メルトはコウと二人で寝ていた。就寝時間はいっしょ、朝はメルトがコウを起こす。だから隣の布団を見やればいつでも必ずコウが寝ている、はずだった。
今、コウの布団は空っぽだ。一時間以上前から彼がこの家にいないのを、メルトは知っていた。
今夜だけではない。メルトが寝ついたのを見計らって、コウがこっそり起き出し窓からそっと出ていくのを、メルトはいつも気づかないふりをしている。元々眠りが浅いため、そっと窓を開ける音でも聞こえてしまうのだ。

もう一度寝返りを打って、二人の布団のあいだへ手を投げ出した。
修行中、コウは時折激情のままに仲間を傷つけることがたびたびあった。我に返ったあとの彼はその拳を握りしめ、部屋の隅や寝台の上で震えていた。
痛いのかと尋ねれば、痛いのは手ではなく心だと震え声で打ち明ける。自分を押さえ込むことができず、怖くてたまらないのだと。メルトにその痛みや恐怖はわからなかったが、ただコウが苦しんでいることだけは我が事のように感じていた。
「だいじょうぶだよ」
メルトはいつも彼にかけていた言葉を口に出す。月しか聞いていない言葉は、今とても空虚に響いた。
「おれがコウを押さえててあげるから」
震えるコウの手に自分の手を重ねて、メルトは彼を落ちつかせようとする。手負いの獣じみたコウの表情から、怯えと悔恨が薄れていくまで。
『ありがとう、メルト』
手を重ねたまま二人で寝入ってしまうことも少なくなかった。むしろ、殺気立ったコウがそれでやっと眠れるといった様子だった。

大人になってから、コウが荒れることはなくなった。彼はいつでも優しくて、無邪気で、メルトもアスナもその凶暴性は忘れかけていた。
だが、戦士としての力を持った彼がその力を暴走させたとき、その危険性は新しい仲間たちも知ることとなった。
あの日の夜……普段の落ちつきを取り戻したコウは、メルトの手を求めなかった。メルトも、大人の戦士となった身で、コウの手を握ってもいいものか、判断がつかずに言い出せなかった。
その夜も、彼は窓から抜け出し、メルトは布団の上に投げ出された自分の手をただ見つめていた。
「……おまえには、もう必要ないんだな」
手を握りしめ、目を閉じる。
コウはあのときと変わらず強さを求めている。だが、今度は壊す力ではない。守るための力だ。だれがそれを止められるだろう。
夜が明ける前に帰ってくるといいが……
メルトは頭から布団をかぶり、月光を遮った。

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【輝く凪の海】

堤防沿いの道で、ふと足を止める。
風のない夜、完全に凪いでいる海全体が眠りについているかのようだ。
上りかけの月に照らされた海の色が、その底に棲む一族の末裔を自然と想起させる。
「結婚かあ……」
コウはため息混じりに呟いて、海を見つめた。
山育ちのコウに、海の記憶はほとんどない。だから今脳裏に浮かぶのは、絶賛婚活中のカナロのことだけだ。海の底で暮らす彼に、陸上での長時間の活動はそれなりに負担がかかるらしい。今は馴染んだ海の中で体を休めているころだろう。
カナロは花嫁を探して日々陸を彷徨っている。彼のほうは選り好みしているわけではないのに、なぜか成就しない。
コウは今度こそと思うのだが、メルトたちはたいていの場合「今度もダメだろう」と最初から諦めた目で見ている。皆に言わせると「方法論が間違っている」「顔だけで結婚はできない」「とにかく残念」などとさんざんな評価だ。
コウにはだれが正しいのかわからないが、真剣なカナロのことは真剣に応援したいと思っている。
「応援は、したいけどさあ……」
時折ふと、ほんとうにそれがカナロの幸せなのかと考えてしまうのだ。
コウは、自分の結婚について考えたことはない。そういう時期が来る前に村を出ることになったからだが、そうでなくとも、まだまだ先の話だと思っていた。
ただ、なんとなく他の村のだれかと、自然にそういうことになるのだろうという漠然としたイメージだけはあった。希望ではなく、それが一族の慣例だったから。もちろん、婚姻とは無縁に生きる道もある。マスタークラスになると、それほど珍しいことではない。
だがカナロは、すでにマスター並みの実力を持ちながら、その生涯を一族の繁栄のみに捧げなければいけない宿命を背負っている。
その必死さはどこか痛々しくもあった。
人間の世界では、結婚はとてもすばらしいものだ。運命で結ばれた二人が出会って、周囲に祝福されて、愛の結晶である子供が生まれて……だがそこに「しなければならない」という言葉が入ったとたん、結婚は義務となり重圧となる。
もともと「婚活」とは、「しなければならない」人々が使いはじめた言葉だとメルトが言っていた。カナロを見ていると、まさにという気がしてしまうのだ。
かといってやめろとも言えない。海の一族の血は残さなければいけない。カナロはどうあっても「婚活」を続けなければならない。
「かわいそう、って言ったら、怒る?」
海に向かって呟いた。
その戦闘能力がもったいない、などとは言わない。戦うかどうかは彼の意志で決めることだ。
ただ、追い立てられるように妻を探し続けている時間の半分でも、同胞との接触に分けてくれたら。永年の誤解も対立もなくなり、力を分け合うこともできる。実際、今はそうやって戦っているのだから、彼がもっと近くにいてくれたら。
いや、ただ仲間として友人として、同じ時間を共有できたら。
「……なんて、おれの勝手か」
コウは一人笑って、駆け出した。
強くなろう。
カナロが戦わずともよい日が来るように。平和な世界で、教会で白いタキシードを着て伴侶の横に立つカナロに、みんなでライスシャワーを降らせてあげられるように。
カナロの幸せは、カナロにしか決められない。
だから、自分は彼の幸せを守れるくらい強くなろう。
コウはカナロが眠る海に背を向け、待ち合わせの場所に向かった。

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【黒い岩の陰】

振り下ろされた剣を受け止め、脇へ蹴りを入れる。だがその脚は辛くも止められ、お返しとばかりに長い脚が反対側から襲ってきた。
バンバは肘でコウの蹴りを受け、がら空きになっていた胸を突き飛ばす。視界や足場の悪さも手伝って、コウは背中から倒れこんでしまった。それだけなら手合わせは中断しなかったが、倒れた先が運悪く水たまりだった。
「すまん!」
派手に水と泥を跳ね上げて転がったコウに駆け寄る。バンバも背後は乾いた草むらだと思っていたのだ。
「だいじょぶ……」
よろよろと立ち上がったコウは、弱々しく答えて泥水に浸った上着を脱ぐ。
「ちょっと冷たいだけ」
へへっと笑って、彼は情けなく眉尻を下げた。

川でコウの服の泥を落として戻ってくると、半裸の彼は焚き火のそばにうずくまっていた。
「今夜は冷えるな。風がないのが救いだ」
服を火の近くに干しながら声をかけるが、「そう?」とむりやりに笑顔を作ってみせる。素直で快活に見えて、意外と意地っぱりなところがあるらしい。少しでも熱がこもればと、黒い洞窟の入り口に陣取ってはいるが、外は外だ。
バンバはため息をついて上着を脱いだが、これはさして防寒にならない。シャツも脱いでコウに差し出した。
「え……寒いんじゃないの?」
「おれが寒いとは言ってない。濡れたおまえが冷えているだろうと言ったんだ」
「……ありがと」
バンバのシャツに袖を通したコウは、火の前に腰を下ろしたバンバの横に座りなおした。
「なんだ?」
「隣にだれかいたほうが寒くないんだ」
主語はなかったが、自分の代わりに上半身裸になったバンバを気遣ったのだろう。黒いベストだけを肩にかけたバンバも、わざわざ離れるのも大人気ない気がして、戸惑いを隠し火に手をかざす。
ひざを抱えたコウは火を見つめながら思い出したように笑みを洩らした。
「ほんとはさ、くっついてたほうがあったかいんだけどさ」
「それはそうだろう」
「アスナと二人でメルト挟んでぎゅうぎゅうやってると、鬱陶しい!とか暑い!とか言われて、いつの間にか寒いの忘れてるんだよな。いちばん寒がりなの、メルトなのに」
仲睦まじい幼馴染のじゃれ合いが目に浮かぶようだ。
それでも同じようにくっついてこないのは、さすがにバンバに対しては遠慮があるのだろう。無遠慮に見えて、コウにはそういうところがあった。家には鍵もかけていないのに、奥の部屋には決して立ち入らせないような。ある程度まではためらわずに踏み込んでくるが、肝心なところでは身を引いて目を逸らすような。
「トワは?」
「寝てるさ」
「ホントに?」
メルトだってたまに寝たふりしてるんだよ、とコウは屈託なく笑う。たしかに、毎度完全に気づかれていないとは思っていない。まだ幼いころから、トワを安全な場所へ置いて一人街へ出ることはよくあった。トワのほうにも、そろそろ言いたいことがあるかもしれない。
「さあな。起きていたとしても、俺がどうこう言えるわけじゃない」
「へえ……」
なんか意外、と呟いて、コウは笑った。相変わらず緊張感がない。
出会ったころのコウは、信じられないほど弱かった。まともに戦力になるとも思えず歯牙にも掛けなかったが、戦いの中で目に見えて成長していった。今は、リュウソウジャーの中心として皆をひっぱっていくほどにまで力をつけている。
そのコウが、鍛錬の相手をしてくれと言ってきたのは、忘れもしないあの日。
敵の攻撃によって彼の「本性」が晒された日のことだった。
温厚で快活で、ときに弱くさえ見えていたコウの抱える闇は、戦士として最も忌むべきものだ。しかし同時に最も陥りやすい罠でもある。
表向きは立ち直ったように見えたが、彼の中では新たな戦いが始まっていたのだ。
メルトやアスナを心配させたくないからと、マスタークラスのバンバに頼んできたのは妥当といえる。戦闘能力だけならカナロも相当だが、彼はなにかと「忙しい」。あまり長期間陸にいられないという話も聞く。
コウなりのベストな選択なのだろう。
バンバにとっても、新鮮ではあった。同年代の仲間と切磋琢磨し合うといった雰囲気ではない。トワに修行をつけるのに似ているが、兄弟ゆえの甘さや厳しさが入り込まない。
弟のようで、弟とは確実に違う。自分がもし村を出ず、弟以外の他人を弟子にとっていたとしたら、このような関係になっていたのだろうか。
コウが肩をすくめてあくびをする。
「眠いか」
「うん……ううん」
「体温が下がって眠くなるのは自然な反応だ。少し眠るといい」
「でも……」
「夜明け前には起こしてやる。……肩くらいなら貸すぞ」
「ありがと……」
おやすみ、と囁いたコウが寄りかかってきた。
たしかに暖かい。肩を抱き寄せてやれば、さらに彼を暖めてやることができるだろうか。
そんなことを思いながらふと顔を上げると、白い月が黒い岩の庇からこちらを見下ろしていた。目の前で爆ぜる火とは対照的に、静謐で冷淡な光。心を乱すなと諭さんばかりに。
わけもなく気まずくなり、月から顔を背ける。すぐ横に、あどけない寝顔があった。

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【紫の空の下】

都会の夜空は、黒ではない。不穏な紫だ。
人も灯りも少ない村では、銛の上に広がる漆黒の中に、星や月が瞬いているのが見えたというのに。
今、見上げる紫の空に星はほとんどない。さっきまで見えていた月も、いつのまにかビルの向こうに隠れてしまった。
ビルのネオンの裏、明るい繁華街からは見えないその位置でぼんやり佇むのが、ナダにとっては常だった。だから完全に油断していたことは否めない。
「見いつけた」
うれしそうな声にまさかと思いながら振り向けば、屋上の手すりの向こうにトワが立っていた。
「……んなとこでなにしとんのや、はよこっち来い!」
彼がそこからやってきた時点で危なくはないとわかってはいたが、その光景自体が心臓に悪い。
トワは身軽に手すりを飛び越え、こちらへ駆け寄ってきた。
「子供は寝る時間やぞ。兄貴はどうした」
「兄さんはいないよ」
こともなげに答える言葉の意味を尋ねれば、彼はどこか大人びた笑みを浮かべた。
「ときどき、兄さんがいない夜があるんだ。どこへなにしに行ってるかは知らないけど、訊かないルールだから。暗黙の了解っていうの?」
「なんやそれ……保護者失格やな」
「兄さんには、兄さんだけの時間があるんだ」
もうちょっと責任感の強い男だと思っていた。お節介というより過保護すぎるくらいだったあの世話焼きっぷりは、弟相手には発揮されないのか。そしてトワがそれを当然のように受け入れているのも、なにか釈然としない。
それ以前に、置いていかれた弟が、人がいない場所とはいえ夜の繁華街に現れるのはあきらかに異常だ。彼の言葉からして、わざわざナダを探してきたのだろうが……
「そんでも、おまえが夜遊びしてええ理由にはならん。早よ帰れ。なんなら送るか?」
「うん、それでもいいな」
そう言いながら、トワは動くそぶりも見せない。これは本当に送っていく必要があるだろうか。
「しゃあない……訊きたいことがあるならさっさと訊けや」
「え?」
兄の不在中に、一人で自分を訪ねてきたということは、まだ引き出したい情報があるのだろう。
「そうやな、兄貴のことか。秘密主義やからなあいつは。よっしゃ、おれしか知らん恥ずかしい過去でもなんでもしゃべったる……」
「知りたいとしたら、ナダのことだよ」
おしゃべりを遮られただけでなく、正面から視線と言葉を投げつけられ、思わず目を逸らしていた。
「……もう、充分すぎるくらい知っとるやろ」
忌まわしい鎧の断片は、コウを通じて戦士たちにもナダの記憶を見せつけたという。力を求めてみじめに足掻く情けない男の姿を、彼らにはすでに知られている。
しかしトワは首を振った。
「ガイソーグの鎧が教えてくれたのは、鎧を纏ってからの記憶だけじゃないか。その前、鎧を見つけるもっと前の……ううん、ナダのこと全部知りたい」
もっと前の。
まだ純粋に、強さと正しさを求めていたころの。
そう、ちょうど今の彼くらいの……
「……夜が明けるどころか、また暮れても終わらんでその話」
「いいよ」
彼は肩をすくめて笑った。
「冗談やない……」
耐えきれずに彼の前から立ち去ろうとすると、腕を掴まれた。
「冗談じゃないよ」
「……………」
この腕を灼くような、肌の熱さ。逃すまいと指を食い込ませてくる、意志の強さ。
「……嫌んなるくらいそっくりやな」
「兄さんと?」
だが、弟は兄のように言葉や気持ちを歪めない。眩しいほどにまっすぐ、ナダの懐に飛び込んでくる。だから、あのときのように乱暴に振りほどくことができない。
「いいや。やっぱ全然似てへんわ」
わざとらしく向けた背中へ、彼が楽しげにぶつかってきた。

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どれか一編でも楽しんでいただけたら幸いです。