【SS】おっさんずラブ「誰とでも」

5話の予告で成瀬→四宮が確定した!という勢いで書きなぐってしまった成シノです。

6話はシノ春的にはだいたい予想どおり、成シノは完全に予想外で、これだからおっさんずラブはやめられないんだよなとハマったときのSHTみたいなことを思ってました。
最初にコレ!って思ったのは成シノなんだけど、牧春からの流れってことで春シノもワンチャンあったらいいなあと思わなくもない。要はシノさんが幸せになればなんでもいい!
でも武蔵がまた春田と結ばれなかったら、このシリーズ永遠に続くんですよね……(OLは武蔵が恋を叶えるまでエンドレス転生する物語だと思っている)

なのでSSの内容は完全に的外れなんですが、ピクブラのほうはいつか引っ込めるかもしれないので、記録としてここに置いておきます。
ちなみに執筆からピクブラ投稿までiPadで完結してます。思い立ったときにすぐ走り出せるツールっていいですよね。

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成瀬→四宮→春田で、成シノ。
シノさんの気さくに見えて根っこは妙に薄暗いとこが好きです。

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「……抱いてくれないか」

いやにまじめな顔をして何を言うかと思ったら。
予想もしない言葉につい息が止まる。
「はい?」
やっとの思いで絞り出した返事に、彼はこともなげに苦笑して肩をすくめた。
「いや、まあアレだ、誰とでもってことじゃないよな。おまえが嫌ならいいんだ、言ってみただけだから」
それでこの話はおしまい、とでもいうように部屋へ戻ろうとする彼を、気づかれないよう深呼吸して呼び止めた。そんなとんでもないこと、おれ相手に言っておいて何もなかったみたいに済ませるのなんか、許さない。
「……どっちの部屋に行きます?」

風呂に入るみたいな感じで気負いもなく服を脱ぎ捨てて、彼はおれのベッドに腰を下ろす。
いつもと変わらないように見えるのに、こちらを見上げる目には隠せない欲が宿っていて、胸の奥が鈍く痛んだ。この欲がおれ自身に向けられたものでないことくらいはわかる。
なんでおれなんですか、なんて答えのわかりきった質問は飲み込んで、彼が望むとおりにベッドへ押し倒す。何度か目にはしていたものの、その締まった身体に触れるのは初めてで、余計な肉のついていない腹を撫で下ろしながら思わず喉を鳴らしていた。
「おい、脱がないのか」
「必要ないですから」
互いに目を合わせないようにしているのは、これが今だけの関係という暗黙の了解から。それなら全裸で抱き合う必要もないはずだ。彼が欲しいのはおれじゃないんだから。

自分から誘ってきたくせに、躊躇いもなく服は脱いだくせに、彼は普段のストイックさを捨ててはいなかった。前戯もそこそこに抱いてほしいと急かしておいてだ。
「……っ」
歯を食いしばってシーツを掴んで、与えられる刺激をただ受け止めている。低い呻き声を押し殺すだけで、しかめた顔も気持ちよさそうには見えない。これでもそれなりには丁寧に高めてあげているつもりなのに。ただおれの腹を突き上げる熱だけが、彼の欲望を表出していた。
「大丈夫ですよ、声出しても」
でも彼は目を伏せたまま首を横に振る。なにかの遠慮なのか、意地なのか。
ふと目を落とすと、厚い胸の先端が尖って張りつめていた。どういう理由であっても今はおれを感じているのだと思ったら心が揺れて、そこへ唇を寄せていた。
「ぁっ!」
あきらかに色の違う上ずった声が洩れて、はっとした彼は自分の手で口を覆う。
「ここ、弱いんですね」
「ちが……っ」
昂奮が抑えきれなくてこっちの声もかすれてしまったけど、気づかれなかったみたいだ。繋がったまま、そこだけを舌先で舐め転がして責める。
「ぅあ、やめろ、成瀬……」
大きな手がおれのシャツを掴んで、髪を掻き回して、やめろと言いながらもっと欲しいとせがんでくるのがおかしい。愉しくなって再び奥を突き上げた。
「ぁあっ!」
今度は喉を逸らせて切なげに喘いでくれる。年下の男にしがみついて、鍛えた身体を艶かしくよじって……頼れるお兄さんキャラなんてここにはいない。
「シノさ……」
耳元に囁きかけると、それを遮るように彼はおれの顔を自分の肩に押しつけた。
「呼ばないで、くれ」
息だけでそう訴えられて、思わず唇を引き結んだ。そうだ、この人が欲しいのはおれじゃない。目を閉じて、別の男を感じているんだ。絶対に自分のものにならないとわかっている男を。おれとは少しも似ていない男を。
頑丈な腰を掴んで、激しく突き上げる。この人だけは壊したくない。でも、他の誰かに渡すくらいなら、自分で壊してしまいたい。矛盾する感情に振り回されて、加減ができなくなっていた。一晩だけの関係なんて、慣れているはずなのに。本気になることなんてなかったのに。
終わったあとも、しばらく息が乱れて声が出なかった。ペースを見誤ったみたいだ。でもまだ彼から離れたくない。
「もう一回……いいですか?」
「若いなあ……」
仕方ないって顔で笑って、それでもおれを抱き寄せる。
今のは、あなたの処理。ここからは、おれの発散だ。どこまでいっても気持ちはすっきりしないけど。

さっさと服を着た彼を、ベッドに寝転がったまま見上げる。ついさっきまでおれの下で乱れていた名残りは、悔しいほどに微塵もない。
「悪かったな、つき合わせて」
そんな、皿洗い手伝わせたみたいな言い方しないでほしい。
「べつに……おれも、たまってたんで」
心にもない台詞を吐いて寝返りを打つ。背後で静かに笑った彼が、部屋を出ていくのを聞きながら目を閉じた。

あの人の熱が残るベッドにそのまま寝る気にはなれなくて、リビングへ避難したら、ソファには先客がいた。
春田さんがぼんやり転がっている。
なにか言ってくるかと思ったけど、こっちをちらりと見やっただけでクッションを抱え込む。いっぱしに考え事でもしてるつもりなんだろう。だからおれも、こんな時間に何してるんですか、なんてめんどくさいことは訊かなかった。
仕方なく冷蔵庫から水を取り出して、ベランダに出る。真夜中の空気が、体と頭を冷やしていく。
たった今顔を合わせた男の言葉が耳の奥で響いた。
『キスくらい、誰とでもするって……』
ああ、そうだよ。
なんとも思ってない相手となら、誰とでも。

結局あの人とは重ねられなかった唇を、きつく噛みしめた。