【SS】由利と等々力「夢想」
web再録のために書いたSSを並べてみたら、とどゆりが少ないなと思ったので追加してみました。
えっちな由利先生です。
えっちなといってもいろんな意味があると思いますが、この由利先生は間違いなくえっちです。
つまり、深く考えずにどうぞ。
*
倉庫の入口が閉まりきらないうちに、後ろから抱きすくめられた。
「由利」
耳元で囁く声はすでに熱く湿っていて、我慢の限界といった様子だ。首元に食らいついた拍子に眼鏡が由利の頭に当たるが、等々力は気にする気配もない。広い手がコートの上から体をまさぐり、タイを引っぱって頬に触れた。
その指先に軽く口づければ、長い指は唇をこじ開けて侵入してくる。
「……っ」
舌を絡めとられ、求められるままその指を舐った。
「由利」
もう一度呼びかけられたかと思うと、耳朶を甘く食まれる。思わず肩をすくめたが、片腕はがっちりと腰に回されていて、もう片手は由利の口を犯すのに忙しい。厚いコート越しに密着した体は、否応にも煽られて息苦しいほどだ。
かきむしるように、自らのタイを引き抜いた。そうしていなければ、口の端から伝い落ちた唾液で汚されていただろう。そのままシャツのボタンを外していく。らしくもなく手が震え、ボタンを引きちぎってしまいそうだった。
「はっ……」
長い指が抜き取られた。名残惜しさに舌を伸ばして爪先を舐めるが、彼は意に介した様子もない。その手はあごから喉仏を撫でるように下りていき、そして広げられたシャツの襟元へと這い込んだ。
「ぁ……っ」
濡れた指の先が、胸の飾りに触れた。
「もう、こんなに勃ってるのか」
吐息混じりの声が揶揄するでもなく呟き、由利の体を羞恥に火照らせた。
ぬめる指でこねくりまわされ、つい息が荒くなる。等々力が行為のたびに執拗にそこを責め立てるから、勝手に体が応えるようになってしまった。おまえのせいだぞと腹の中で詰りつつ、声を殺して身をよじる。
「今日も……」
あいかわらず耳を嬲りながら、等々力は黒いロングコートの上から尻を撫で下ろした。それだけで、体の奥がじんと疼く。横目で見やるとずれた眼鏡越しに目が合った。
「……用意がいいな」
どこか困ったような口調で吐き捨てた等々力は、両手を由利の腰の前へと回す。前が開けられて急いた手が突っ込まれるのを、由利は期待に満ちた目で見下ろした。
その手は形を成しはじめている性器には触れず、後ろから下着の中へと差し入れられる。そしていつものように慎重に、入口に指の腹を押し当てた。思わず洩れそうになった声を飲み込む代わりに、彼の腕に縋りつく。
「なあ……いったい、いつからこの状態なんだ?」
指が関節ひとつぶん押し込まれる。
「それは……」
彼の手元でくちゃりと音がするような気がした。ジェルで馴らされた内側は、長い指を容易に飲み込んでいく。指の先で奥を抉られ、はっと息を止めた。等々力はまた耳に噛みつき、低い声で問いを重ねる。
「いつから俺を欲しがってるんだ?」
答えるより先に、彼の指を咥え込んだ場所がはしたなくひくついて、もっと強い刺激をとねだっていた。
「由利、今日こそは答えろよ」
特段器用でもない指先が、快感のポイントをかすった。
「ぁっ……」
思わず声を上げそうになり、唇を噛んだ。下着からはみ出した自身の熱が、期待に涎を垂らしているのを見下ろしながら。
「くそ……っ」
苛立たしげに呟いた等々力が、黒いコートのポケットに手を突っ込む。らしくもなく由利を責めようとしたようだが、自分の欲望に勝てなかったらしい。
「……ないのか!」
普段なら当然のように常備されている避妊具がないことに、ひどく焦っているようだ。上がる息を抑えながら努めて静かに答えた。
「……忘れた」
「らしくねえ」
耳元で聞こえる舌打ちのほうを向き、肩越しに相手の顔を覗き込む。
「中に出してもかまわないぞ」
「おまえ、まさか……」
眼鏡の奥で目を見開いた男は、それ以上はなにも言わず、ぎゅっと眉を寄せて乱暴に口づけてきた。顔に相手の眼鏡が当たるがそれどころではない。舌を絡め合うのに忙しかった。
口づけをつづけながら、等々力が後ろに猛る先端を押し当ててくる。なんの障壁もなく、直接的に繋がれるのだ。歓喜に震え、由利はさらに相手の舌を追った。
「くっ……!」
熱く太いそれを由利の中に押し入れながら、等々力が呻いた。力むあまりに彼の唇を噛んでしまう。意趣返しか、彼は一気に奥まで突き込んできた。突き抜ける快感に思わず背中が反り返る。
「んぅ……っ」
ぐちゃぐちゃと卑猥な水音を立てながら、そこは等々力を悦んで受け入れた。自分の中が彼の形に広がっているのがわかる。中を抉られるたび、あらぬ声が口からこぼれそうになる。
「やっ……ぱ、外に出すか?」
「いや、服が汚れる……」
苦しい言い訳だと自分で思ったが、相手はそこに思いを馳せることはないだろう。今の彼はただ愛する男を貪ることしか頭にない。
「由利ぃ……っ!」
「っ!!」
腹の中に等々力の熱が流れ込んできて、今までにない感覚に一瞬思考が白くなった。
シャワーの水音が浴室に響く。
美しい模様のタイルに手をついて、由利は熱い吐息を洩らした。まだ体が余韻に震えている。
鏡が曇って自分の表情が見えないのは幸いだった。
浅ましい欲にひとり浸っている、みじめな男の顔など決して見たいものではない。
しばらく冷水を頭から浴び、そしてシャワーを止めた。
洗面道具にまぎれさせた潤滑剤をなにくわぬ顔で片づけ、浴室を出る。
「ふ……」
もう一度、大きく息を吐き出す。そこにはもういかがわしい熱は混じっていない。
等々力はスキンなしでの行為を嫌がっている。由利を傷つけると思っているのだろう。逆の立場であれば由利もまたそうする。そして彼は、由利を辱めるようなことは言わない。反撃を恐れているのか、彼なりの遠慮なのか。
体と髪を丁寧に拭き、下着を身につけた。
服を着てしまえば、なにを考えていようと文明人のふりができるというのはなかなかの発明だなと、洗面所の鏡を横目に考える。黒いスラックスの下にある秘密は、由利ともう一人しか知りえない。少なくとも今は、由利しか知らない。
糊のきいたシャツに袖を通す。感じやすくなっている胸の突起をシャツが擦ったが、気づかないふりをしてベストの中に押し込めた。
鏡を覗き込んで銀髪とタイを整えれば、表からは欲情の片鱗も見えない。禁欲的な「由利麟太郎」の完成だ。
「せんせえ?」
ちょうどよく、大家が高い声で呼ばわる。
「警部さん、おみえになりましたよ」
部屋に通しておくよう頼んでから、鏡に向かって背筋を伸ばした。服の下はまだ火照りが残っているが、等々力には気づかれない。
この身に触れるその瞬間まで、彼が由利の企みを知ることはないのだ。
*
あの紙エプロンのせいで、先生はとにかく準備万端!っていうイメージがついてしまったんですけどさすがにこれは頭おかしいなって自分で思います(反省文)
もうホントとどでよかったよ、三津木くんじゃ受け止めきれないよこんなの。