【SS】コウとカナロ(リュウソウ)

コウ×カナロ。R18。
19.【不治の感情】「冷たい」「昨日見た悪夢」「殺したい」

 *

剣が鳴った。
なんとしても勝たなくては。その一心で攻めつづける。
銃撃をかわし、とどめの一閃を決めたところで不意にあたりが明るくなった。
コウの足下に倒れているのは、動かなくなったカナロだった。

シャツの下に手を入れ、怖々と触れる。その肌は陸の一族より冷たい。今だけではなくて常にそうなのだが、初めはいつも戸惑う。
「おまえの手は熱いな……」
負けないほどに熱を帯びた声で囁かれて、顔に血が上った。なんだか自分ばかり焦っているようで、こんなときだけ相手が年上に見えてくる。
自分のシャツの裾で汗ばんだ手を拭って、相手の顔を真上から覗き込んだ。
「はは、緊張してる」
「らしくないぞ」
カナロは迷わずコウの首を抱き寄せ、唇を押しつけてくる。いつでも真剣で、情熱的で、却って気持ちがほぐれるような気がした。
「なにを怖がってるんだ」
「うん……」
昨日見た悪夢を引きずっていないといえば嘘になる。カナロを寝所へ引きずり込んだのも、その不安を現実で相殺したいという気持ちがあったのかもしれない。
勢いをつけるためにコウはシャツを脱ぎ捨て、相手に抱きつく。
「カナロ、ひんやりしてて気持ちいい」
笑いながらそう言うと、彼も抱き返して答えた。
「おれにはこの熱が気持ちいい。おまえと戦ったときを思い出す」
「!」
自身が倒した彼のイメージが明滅する。しかし彼自身はかまうことなく、コウの肌に手をすべらせている。自分では見えない背中の傷も、カナロの指先は愛おしげに撫でている。
「今ならわかる。おれたちはあのとき結ばれたんだ」
「あ……」
二人で立ち向かった試練は、手かげんなしの真剣勝負だった。二人とも本気で相手を倒そうとしながら、相手が倒れないことも知っていた。勝敗を決めるためではなく、ただ互いの存在を確かめるために剣を交えたのだ。
マスタークラスであるカナロの攻撃は常に冷静だったが、その心はたしかにコウと変わらぬ熱を帯びていた。
「……うん」
安堵したコウはカナロの首筋に顔をうずめ、髪へ鼻先を突っ込んだ。潮の香りがした。

もう体温の差は気にならない。
完全になじんでお互いの境界がわからなくなってしまった。
「ぁあっ……」
腰の上で喉を反らせて喘ぐカナロを、うっとりと見上げる。戦いの最中にはだれに見せることもない、鍛えられた体を眺められるのは今だけだ。
互いの手は指をしっかりと絡ませていて、たやすく外れない。だから今は腰を揺らすカナロに主導権を握られている格好だった。
「っ、カナロ、そんなに……っ」
コウが呻くたび、彼は苦しげな顔にちらと笑みを浮かべる。戦闘でどれだけ優位に立っても笑わない彼が見せるその表情に、心も体もざわつくのを止められない。
離れない手を引き寄せ、倒れ込んでくるカナロを胸で受け止めた。つながった部分の角度が変わった衝撃に、二人同時に声が洩れる。
「コウ……」
近くなった顔に頬ずりするかたちで幾度か口づけ、なんとか相手の唇を捉えて重ねた。カナロもすぐに意図を理解し、顔をかたむけて応えようとする。
ぶつかる胸が汗ですべり、自然と揺れる腰からは快感が突き上げてきて、呼吸もままならない。それでも口を離してしまうのは惜しくて、夢中で貪り合う。
「んっ……!!」
カナロの中に熱を迸らせ、コウは体を強ばらせる。
弛緩していく手から、カナロがそっと自分の手を外した。
ふと見ればまだ彼の欲は満たされていない。自らの屹立に伸ばされる手を、コウはあわてて掴んだ。
「だめ、自分でしないで!」
とっさに意味がわからなかったのか、蕩けた表情で見返してきたカナロは素直にうなずいた。早くも再び体の奥が疼きはじめた勢いで、彼を寝台に押さえつける。
「おれがいるんだから」
「……ああ」
抱き合った二人は、今度こそひとつの塊になった。

剣が鳴った。
どちらの太刀筋も冴え渡り、なかなか勝負がつかないがそれでもかまわなかった。
コウの前に立っているのは、決して倒れることのないカナロだった。

 *

手汗を拭くとゴーカイグリーンが脳内に転がり込んでくる仕様だったの忘れてた。