テン・ゴーカイジャー(感想+SS)

マーベラスとジョー。
テンのネタバレなのでご留意ください。

 *

「そういや、地球の宿に泊まんのは初めてだったな」
きっちりと整えられたベッドの上に、マーベラスは脱いだ上着を放り投げた。ジョーはすかさずそれを拾い上げ、ひとつしかないベッドを見下ろしてため息をつく。
「ルカのやつ、自分たちだけ贅沢したな……」
二人一部屋でいいでしょ、と男四人に安いホテルの二部屋をあてがったルカは、「女子専用なんで」と適当なことを言って隣のいかにも高そうなホテルにアイムと連れ立っていった。
部屋に入って知ったが、男たちには一人ぶんのベッドさえ与えられないらしい。シングルサイズでないだけまだ良心的といえるだろう。もっと不衛生で治安の悪い安宿にさえ泊まれなかったしばらくの時を思えば、文句は言えないのかもしれない。
仲間の再集結は喜ばしいが、皆が集う「家」はすでになかった。個人の船もあくまで個人の移動用。マーベラスに至っては乗り捨ててきたという。つまり「六人」での行動については、改めて考えなければならないのだ。
しかしそれも明日以降になる。今日は各自ゆっくり休んでね、とはこの狭い宿を押しつけたルカの言葉だ。
それならもう少し気を遣ったらどうだと考えているジョーにはかまわず、マーベラスは冷蔵庫だのクロゼットだのを開けては、もの珍しさにいちいち歓声を上げている。
「ちゃんと風呂もあるじゃねえか。二人でも入れそうだぜ」
「そんなに広いのか」
覗いてみると、たしかに清潔ではあるがあきらかに一人用のサイズだ。
「いや、これは……」
ジョーの言葉を遮るように、すでに服のボタンを外しはじめているマーベラスは室内に怒鳴る。
「おい鳥!」
「鳥って言うな!」
応じて、窓辺にとまっていたナビィが飛び上がった。いちばんつき合いの長いマーベラスにくっついてきたのは自然といえるが、ぞんざいな扱いも変わっていない。アイムのほうに行けばいい思いもできただろうに。
「暇ならハカセんとこ行ってろ。朝までおまえの相手はしてやれねえからな」
「はぁあ!? それってどういう……」
「どうもこうもねえよ、ジャマすんなってことだ」
話がややこしくなる前に、ジョーは部屋のドアを開けてやる。ナビィはもの言いたげに羽根をばたつかせたが、「ちくしょう、おやすみ!」と叫んで飛び出していった。
「朝まで?」
ドアを閉めてからつい苦笑してしまう。
「おい早くしろ、ジョー」
ブーツを床に投げ出したマーベラスが、上機嫌に叫んでいた。

再会したときのことを具体的に考えていたわけではない。
会いたいという気持ちすら、使命感の下に封じ込めた。この作戦を……復讐を果たすには、宇宙全てを欺く必要があった。
「んっ……」
肘が濡れた壁にぶつかる。やはり二人には狭い。それでもおかまいなしに口元へ噛みついてくるマーベラスを、ジョーは全身で受け止めた。
初めは血と泥で汚れた体を洗ってやろうというつもりもあったが、相手には少しも協力する気が見られず早々にあきらめた。なにより、ジョー自身が平静ではいられなかった。
打ちつける水流の下で、二人は一心不乱に互いを貪る。
この狭いバスルームのせいばかりではなく、自分も相手も「大きく」なったようだ。食うに困る時も、身を守るのに連戦を強いられる時もあった。過酷な日々に鍛えられた体は、あのころよりも頼もしい。
ガレオン沈没とともに一味が散ったと敵に信じ込ませるため、間接的に連絡を取り合うことしかできなかった。一人になったとたんに賞金稼ぎから狙われることも格段に増えたが、それでもだれかが欠けるなどとはだれ一人考えもしなかっただろう。
仲間たちの賞金額が上がっていくのをいくらかの痛快さをもって眺めながら、ジョーはジョーなりになすべきことを心得て生き延びてきた。再集結の日……失踪したキャプテンと再会する日のために。
目を閉じて口づけに熱中するマーベラスの顔をゼロ距離で見つめ、その光景が全く変わらないことに心から安堵する。その目が永遠に閉ざされたままの可能性もあったのだ。
「マーベラス」
「ぁん?」
怪訝そうに瞼を上げた彼の顔を、両手で包み込む。唇はまだもの欲しげに半開きで、中断が不満なようだった。
覗き込んだ左の瞼は、ほとんど正常に戻っていた。目立った外傷もなく、あとは本人のちょっとした見栄が意固地に左目を覆っているのだろう。そのうちあの眼帯もいらなくなる。
「……なんでもない」
そう呟き、瞼に唇を触れさせた。眼帯姿を目にしたときには絶望的な気分になったものだが、無事ならばこれ以上案じることもない。
「おまえは、いっつもそうだ」
「なにが」
マーベラスは長い髪に指を通しながら、愉快そうに口を歪める。
「俺の目だの脚だのがなくなったところで、自分が代わりになりゃいいと思ってやがる」
考えることさえためらわれるその仮定に、反論しかけたが材料が見つからない。たしかにあの瞬間は愕然としたが、同時に自分の役割を悟ってもいた。それが腕でも脚でも、変わらなかっただろう。
「そうかもな」
正直に答えたジョーの髪を引っぱり、マーベラスは声を上げて笑った。
その拍子によろめいて浴槽の外へ転がり出そうになった体を、あわてて抱きとめる。
二人とも夢中になりすぎて、のぼせかけているかもしれない。そろそろ出ようと、彼の体越しにシャワーを止めた。
「ところで、手ひどくやられたな」
左目の件は解決したものの、腹部に痛々しい痣が広がっているのがずっと気になっていた。本人が平然とふるまっていたせいで、服を脱ぐまで気づかなかったのだ。
連戦でやられたのかと思っていたが、マーベラスはこともなげに答える。
「これはルカだ」
「なに?」
「あいつ、怪しまれちゃ意味がないとか抜かしやがって、そこそこ本気でやりやがった……ルカの蹴りに比べりゃ、ただの人形なんざ数にも入らねえよ」
その「ただの人形」を百もけしかけられ追いつめられていた男は、どこかうれしそうに腹をさすって、痛みに顔をしかめた。
「せっかくルカが用意してくれた『広い』ベッドだ、朝まで楽しませてもらわなくちゃな」

枕に頭をつけるなり意識を手放した船長に、布団を掛けてやる。
この星に着いてから、休息もなしに独りでひたすら戦いつづけたことを思えば無理もない。しばらくはろくに睡眠もとれていなかっただろう。
彼の隣に横たわり、その無防備な寝顔を眺めた。二人だけだったころは、この半分の広さのベッドでよくそうしていたことを思い出す。起きているときのぎらついた表情との落差が激しくて、ずっと見ていても厭きなかった。
今、その顔つきに少しだけ過ぎた年数を感じなくもないが、警戒心を完全に手放した彼を眺めていられる心地よさはあのころと変わらない。
「ぅん……」
向こう側へ寝返りを打ってベッドの端ぎりぎりまで転がったマーベラスを、こちらへ引き戻す。寝ながらもジョーの腕を認識したらしいマーベラスが、にやけた寝顔で抱きついてきた。
抱き枕にされるのもずいぶん久しぶりだ。
船室のベッドは狭すぎて、こうなると身動きもとれなかった。それでも相手の規則正しい寝息と鼓動が伝わってくるうち、窮屈な姿勢でもいつしか深い眠りに落ちていたのだから不思議なものだ。
だが今夜ばかりは、まだ眠れそうにない。
「地球の宿に泊まるのは、初めてだからな」
だれにともなく言い訳して、腕の中の体を抱きなおした。

 *

緑「ちょっと、狭いよ鎧……」
銀「そんなこと言わないでくださいよ! じゃあ横じゃなくて縦に並べば広々ですよね!」
緑「縦って上下かよ! 重い重い、すごく重くなってる! 筋肉が凶器!」
鳥「はぁ~、こっちもいちゃついてるし……もう語尾にチュンとかつけてよそで出直そうかな……」
銀「全力全開ですね! 後輩に便乗していくのもアリですよ!」
緑「鎧はなんで先輩のぼくに乗ってんのさあ!」

ベッドでしっとり語り合いながらゆっくり脱がせて……って筋を考えてたのに、書きはじめたらマベが勝手に風呂入って勝手に寝やがって会話どころじゃなくなったので「!?」ってなりましたが、当時もそんな感じで二人にまかせてた気がします。

約250人のレジェンドにレンジャーキーを返して歩かないといけないので、しばらく地球に滞在しますよね? 地球に家買ったほうがよくないですかねルカさま?