コウ/カナロ

2019_リュウソウジャー,[R18]

練習相手

 出かける直前にお父さんから買い物頼まれて、荷物持ちにコウもつけられた。二〇九歳児同伴でおつかいねえ。いいけど。
 途中で見たことない移動販売のカフェを見かけて、せっかくだからってお茶してくことにした。十人くらい並んでるけど、二人だから待つのも退屈しない。
 コウはメニューを見ながら、どれにしようかなとかアスナには足りないよなとか大はしゃぎだ。周りが女の子ばっかりでも気にしてないみたい。わたしはいつもどおり人間観察。あのお姉さんラージサイズだ!とか。めっちゃ写真撮っててぜんぜん飲まない子たちどうすんの〜とか。
 あっちのカップル、女はノースリーブなのに男のほうが白いコートで暑そうとか……。
「ってカナロじゃん!」
「えっ」
 顔を上げたコウも気づいてなかったみたい。でもカナロ側もこっちには気づいてない。今日も熱心に婚活中ですか。
「もう、ホントそういうとこ!」
 カナロの前に立ってた女子が、両手グーにしたまま肩をすくめて叫んだ。
 あ、コレはアレですな。いつものパターンですな、とコウと顔を見合わせてうなずく。
 わたしたちがメニューの陰から見てるのも知らない海の王子さまは、力強くヒールの音を立てて去っていく女子の後ろ姿をただじっと見つめていました、とさ。
 不意に、横からメニューを押しつけられる。
「ごめん、おれタピオカマンゴーのラージでタピオカダブル、よろしく!」
「ラージでダブル!?」
 いやそこじゃない。でもつっこみなおす前に、コウはカナロのところまで走っていってしまった。もうあと二人くらいだから列を離れるのも癪で、赤いのが白いのに話しかけて腕を払われたりするのを遠くから見てるしかない。
 気になりすぎて、順番が来るまで自分の注文を決めてなかったことに気づかなかった。

 コウのタピオカマンゴーミルクティータピオカダブルと、自分のタピオカ豆乳抹茶ミルクあずきトッピングを持って、男二人が座ってるベンチまで小走りに行く。
 あ、カナロのぶんまで気が回らなかった、ごめん。
「水、持ってこようか?」
「いらん!」
 ですよね。
 コウはタピオカマンゴーをすすりながら、カナロの顔を覗き込む。
「でもそれはさあ、カナロのやり方なんだから仕方ないよな」
 なんか話のつづきっぽい。でもどうせ話題はひとつ。カナロは結婚のことしか頭になくて、結婚のことなんか頭にないコウと建設的な話にはならないのに、コウはいつも絡んでいく。
「戦いと同じで場数だよきっと。さっきのは練習と思ってさー」
「ふざけたことを言うな、恋はいつでも一発本番だ」
 そうか。それだ。
「じゃあ、練習すれば?」
 二人が同時にわたしを見た。ふふ、ういちゃんの出番ですぞ。
「さかあがりの練習とかするとき、横から動画で撮るんだよ。自分で見返して悪いところを確認できるの。撮ってあげるから練習しようよ」
「はあ!?」
「いいなそれ! やろう!」
 カナロが思いっきり顔をしかめる横で、コウのテンションは上がってる。
「しかし女性を練習台にするなど失礼だ……」
「大丈夫、コウだから」
「えっ」
「なに?」
 よくわかってないリュウソウ族のために、ちゃんと説明してあげる。コウを女の子だと思って、いつもどおり口説くカナロを、わたしが横から撮ります。そのあと動画を見ながら反省会します。以上。
「えー……でもまあしょうがないかあ。他にいないもんな」
 コウがあっさりOKして、カナロも何かぶつぶつ言ってたけど、きっと顔を上げて、コウを睨みつける。
「わかった、やってやろうじゃないか」
 あとから思うと、失恋直後で気弱になってたかヤケになってたかだと思うんだけど。とりあえずわたしもスマホかまえて、ベンチに座る男二人をフレームに入れた。
「ちょっとちょっと、決闘するんじゃないんだよ、デートだよデート」
 ついつっこんでしまったのは、カナロが思いっきりコウを睨んでるのと、コウも姿勢正しくして真顔になってたから。二人とも緊張してるっぽい。
 コウがはっと気づいて、ふにゃりと笑った。
「そうだ、これ飲んでいいよ」
「あ、ありがとう」
 ドリンクのカップを渡されたカナロも、素直にそれを飲む。甘いものでちょっと気分がやわらかくなったのか、いつも女の子に向けてる笑顔をコウにも見せた。
「このストローはいいな、紙製で地球に優しい……」
 いやエコいいから! エコ置いといて!
「ただタピオカは澱粉のカロリーがとても高い。きみの健康が心配だ。ゼリー状のスウィーツなら、寒天など海藻由来の……」
 もう!ホント!そういうとこ! ここあとで反省ポイントだからね!
「あのさ……世間話はもういいから、男と女の会話っていうか、ちゃんと口説いてみてよ」
 そう注文をつけると、彼はちょっとだけ口をへの字に曲げてドリンクを脇に置き、それでもコウの手を取る。おお、いい感じ。
「……太陽のように明るくまばゆいきみが、冷たい海の底からおれを呼び寄せたんだ。その無垢な瞳でずっとおれだけを見つめていてくれないか」
 おおお、あいかわらず何言ってんだかわかんないけど、イケメンだからヘンに説得力がある、ような気がする。コウもマジメな顔して手を握られたままおとなしく聞いて……。
 ん? 肩が震えてる?
「……っ」
「ちょっとコウ! 笑っちゃダメ、ちゃんと返事して!」
「ごめんごめん……」
 噴き出したコウは、自分のほっぺたをぺしぺし叩いて、それでもまだ笑っている。わかるけど、それはいかんよ。
「だってさー、ずっとカナロと睨めっこしてるのに、もっと見ろとか言うんだもん……」
「じゃあおまえは、どうやって女性に想いを伝えるんだ!」
 逆ギレしたカナロの反撃に、今度はコウが詰まる番だった。
「そんなの考えたこと……」
「じゃあ今ここで考えろ。参考にさせてもらう」
「えっ、急に言われても……」
 腕組みしてふんぞり返ってるカナロと、腕組みして考え込んでるコウ。あれ、何してたんだっけ、わたし何を撮ってるんだっけ。
 我に返りかけたところで、コウがぱっと顔を上げた。
「きみが好きだ!」
「え……」
 ぎょっとしたカナロの腕をむりやりほどいて、両手を握って。
「ずっといっしょにいよう!」
 そう言って相手を抱き寄せる。ていうより、ぎゅっと抱きしめる。おお、直球オブ直球。
「おれ、あんまり難しいこと言えないから……これでいい?」
 抱きついたまま耳元で囁いてるけど、カメラからは死角だしそこまでは聞こえない。ただ、カナロの耳が真っ赤になってるのは見えた。
 そして、その横顔がどうしていいかわからないって表情になってるのも。
 カナロの肩にあごを乗せたコウが、不思議そうに声を上げる。
「カナロって心臓の音速いんだなー。海の人たちってそうなの?」
「知……るか!」
 カナロがコウの胸を押しやって、二人はやっと離れた。
 きょとんとしているコウに対して、カナロは溺れかけた人みたいに肩で息してる。
「うい、撮れた?」
 コウの言葉にはっとして停止ボタンを押した。
 たしかに撮れたけど。でもちょっとこれは……。
「えっと……ごめん、録画ボタン押し忘れてたみたい……」
 自分でもよくわからないまま撮れてないなんて嘘をついたら、二人ともすごい勢いで立ち上がった。どっちも背が高いから迫力がある。
「なんだと!?」
「ういがやろうって言ったんじゃん!」
 おう、思ったより本気だったんだねこの練習動画作戦……。
 大きなため息をついたカナロが、そのままコウに背を向ける。
「時間の無駄だった」
「そんなことないよ、おれのやつ参考にするって言って……」
「あんな幼稚な誘い方ができるか!」
「なんだよそれ、カナロだっておもしろじゃん!」
「おもしろいつもりはない!」
 言い合う二人の横で、今撮った動画をそっと再生する。
 うーん、やっぱコレは非公開でしょう。本人たちの前で見返すなんてムリムリ。前半はともかく、後半のカナロの表情にどんなコメントしたらいいのかわかんない。
「じゃあっ、幼稚じゃないの見せてみろよ! 笑わせるのなしな!」
「あれはおまえが勝手に笑っ……」
 また険悪な表情になりかけたカナロが、いきなりコウの腕を掴む。わっ、こんなとこでガチ喧嘩はダメだよ……と言いかけたとき。
 掴んだ腕を引き寄せ、倒れかかってきたコウのひたいに、カナロは優しく唇を押し当てる。
 キスだ、と気がつくのに三秒くらいかかった。
「カナ……」
「……次は、契りの口づけを」
 にこりともせずそう言い放った強気な王子は、コートの裾を翻して足早に去っていった。
 わたしもコウも動けずしゃべれず、カップを持ったままその背中を見送る。
 ……なに今の。
 自分のおでこに手を当てたまま、コウは呆然と呟いた。
「うい……今の撮った……?」
「撮ってるわけないでしょ!」
「うっそマジで!? 今の反省会必要なやつだろ!?」
「どこ反省すんの!?」
 二人で大騒ぎしてるあいだにドリンクの氷が全部溶けちゃって、おつかいのことなんかすっかり頭から抜けちゃって。
 でも今日のことは二人とも、なんとなくみんなには言えなかった。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!