コウ/カナロ

2019_リュウソウジャー,[R18]

後遺症

 色のない世界に、真っ赤な花が散る。
 わけもなく伸ばした手が受け止めたのは、やわらかな花びらではなく滴る鮮血だった。
『きみ独りじゃさびしいと思ってね』
 男か女かもわからない声が嗤った。目の前で仲間たちが動かなくなっていく。視界に色はないのに、流れる血だけが赤い。
『安心しなよ、みんないっしょに滅ぼしてあげるから……』

「……!」
 ぎょっとして飛び起きる。
 思わず服になすりつけた手のひらを見たが、汗で濡れているだけだった。明かりのない部屋の中でも、血がついていないことは確かめられた。
 それでも鼓動は収まらない。もう一度手をシャツで拭い、大きく息をつく。
「だいじょうぶか?」
 いつのまにか、隣で寝ていた相手も身を起こしていた。
「ごめん……起こした?」
 笑顔を向けようとするがうまくいかない。まだ震えが止まらないコウの肩を、長い腕が抱きかかえる。
「また、悪い夢か」
 エラスの幻影はコウの心の奥底に消えず残っていて、時が経った今でも不意に苛まれることがあった。朝日を浴びれば気持ちも切り替わるが、夜の闇の中で恐怖から立ちなおるのは簡単ではない。
 汗ばんだ手を、カナロが握る。血まみれのイメージが消えず、とっさにその手を振り払っていた。しかし彼は半ば強引にその手を掴み、コウを自分の胸に抱き寄せる。そして頬に口づけてきた。
 やわらかくて温かいその唇は、にじんだ目の端に、寄せられた眉間に、言葉を発せない口元にと押しつけられていく。そこに欲望はまるで感じられない。彼はただ、無垢な獣のように愚直に、コウの怯える心をなだめようとしていた。
 耳朶にも触れながら、カナロは囁く。
「すまない……」
「なにが?」
「ここに、おれしかいなくて」
 きまじめにそう答え、彼はなおもコウの髪を撫でながら優しい口づけを降らせる。
「……そこは、おれがいるじゃないかって言うとこだよ」
 笑おうとしたはずが、なぜか涙がこぼれた。わざと声を上げて笑いながら、彼にしがみついてその肩口で頬を拭う。
「ここには、カナロがいるじゃないか」
 悪夢に目覚めたとき、傍らにいてくれること以上の救いなど、ありはしないのに。

(星空ワードパレット:牡羊座「花びら」「救い」「握る」)

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