キング/ノッさん

2013_キョウリュウジャー,[R18]

『キングの部屋があったらいいのか?』


スピリットベースでの平和なひととき。
ダイゴはふてくされた顔で、テーブルにあごを乗せている。
「のっさぁん、またラブホ行こうぜぇ」
「ぶっ」
ドリンクにむせたノブハルは、眉を寄せたダイゴからせわしなくベンチへと視線を動かした。
「ちょっ、やめてよそういうこと言うの! イアンもいるのに……」
「おれのことはおかまいなく」
優雅に足を組んで携帯端末をいじっているイアンは、少し肩をすくめてみせると薄く笑う。わざわざ打ち明けたわけでもないのに彼はいつのまにか二人の関係を知っていて、ダイゴも彼の前では遠慮がない。
それでもノブハルはダイゴをテーブルの端まで連れていき、声をひそめた。
「今までは純粋に、お風呂を使う目的であそこに入ってたんだよ。でもホントにそういうことするために行くなんてぼくにはできません!」
「そういう場所なんだからそっちのほうが純粋な目的だ!」
言い返すダイゴにつられて、ノブハルの声もつい大きくなる。
「ラブホテルに行くスーパーヒーローなんて聞いたことないよ!」
「じゃあどこですればいいんだよ!」
不意に、イアンが笑い出した。いかにもこらえきれずに噴き出したといった様子だ。
「ノッさんのためにガマンするんじゃなかったのか、キング」
「できる範囲でって言ったぞ! 限界ってもんがあるだろ男には!」
「えっ、いつどこでそういう話してるの二人とも」
うろたえるノブハルと不満げなダイゴの間に、イアンは明らかに面白半分で入ってくる。昼前で学生たちはしばらく来ないという気安さもあるのだろう。
「その気になりゃあどこでもできるじゃねえか」
「おれは外でもテントでもいいんだけどよ、ノッさんがゼッタイやだって言うんだ」
「テントもほとんど外じゃないか!」
抗議の声は悲鳴に近かったが、それがなにか?という顔で見返してくる二人を前に、ノブハルはしみじみとため息をつく。
「きみたちが悪いとは言わないけど、少なくともぼくの感覚ではプライベートでない空間でそういうことをするのは、とんでもなく恥ずかしいことなんだ。頼むからこれ以上のハードなハードルは勘弁してくれ……」
もじゃもじゃ頭がうなだれるのを見て、ダイゴとイアンは顔を見合わせる。
確かに感覚はかなりちがう。そのちがいをむりやりなかったことにして自分のほうへ引きずり寄せる行為の乱暴さを、二人ともよく理解していた。全ての関係は歩み寄ることから始まる。同様に、こちらが相手に100%合わせることも不可能だ。折り合いをつけることはぜったい可能だと信じているからこそ、ダイゴはあきらめない。
「ノッさんの家がダメなのはわかってるけどさぁ……なんかどっかねえのかな。おれテントしかねえし、ここ使ったらたぶんトリンに怒られるし……」
「あたりまえだよ聖地だもの!」
妙に真顔で考え込んでいたイアンがはっと顔を上げ、指を鳴らす。
「ホテルでもテントでもなくて、キングの部屋があったらいいのか?」
「それは……まあそれがいちばんだけど……」
「でもおれ、自分の部屋なんか持ったことねえしな」
ダイゴの家は世界中にある。つまり、どこにもない。テントさえ張ればそこが家だ。テントがなくても少しの食料があって眠れさえすれば、倉庫でも木の上でも船の中でも家になる。金以外の対価で一晩から長期の宿を得ることも難しくはない。
だれもが彼の性質からそれを知っていて、だからノブハルもピンとこない。
怪訝な表情の二人を見渡し、イアンは楽しげに目を細めた。
「キングに空き部屋を提供する代わりに、なんでも屋に依頼したい仕事があるんだが」
「え、ぼくも?」

立派な門構えの敷地に足を踏み入れ、ダイゴとノブハルは口を開けたままその建物を見上げた。
「すげえ……」
「なんか、イアンっぽくないね……」
ひび割れ苔むした石畳の先には、洋館風の古い屋敷が建っていた。鬱蒼とした庭の奥には、土蔵まである。古めかしい扉に似つかわしくないナンバーキーのロックを開け、イアンは二人を薄暗い屋敷の中へ招き入れた。
「相棒の家だよ。今はおれの持ち物だけどな」
大理石の表札には確かに、仰々しく「御船」と彫られていた。
廊下の先の重そうな扉たちには目もくれず、イアンは時代がかった作りの台所へ向かう。だが水回りには使った形跡がほとんどない。
「ホントに生活してる?」
ノブハルの問いには曖昧な笑みが返ってきた。
「週に一度は寝に帰ってる」
つまりそれ以外の日は、よそのベッドで寝ているということだ。
「こんなだから泥棒も入らねえが、だれかいたほうが防犯上安心だろ? 2階上がってすぐの部屋はおれのベッドルーム。それ以外の部屋は空いてるから好きなときに使えよ。玄関のキーはあとで教える」
「おお……ありがとな、イアン!」
興奮気味に両手を広げるダイゴの横で、ノブハルが眉を寄せている。
「キングがちゃんと屋根の下で寝られるのはいいことだと思うけど、ぼくがそういうことのためだけにここに来るのはやっぱりどうかと思う……」
その言葉を待っていたと言わんばかりの笑顔で、家主はなんでも屋のシャツを着た男に向きなおった。
「そこで、なんでも屋さんのお仕事だが」
「そういえば……依頼があるって?」
「頼みたいのは、この家の掃除、ちょっとした修繕、ついでに庭の手入れってとこか。いつかやらなきゃとは思ってたが、おれはそういう細々とした労働は苦手なんだ」
「ああ……」
二人は大きくうなずいた。
「いつどこをいじるかは任せる。終わったとこだけそのとき請求してくれ。もちろん泊まりがけでもいいぜ」
ダイゴだけでなく、ノブハルが訪れる口実まで用意したということらしい。
「おう、いいなそれ! さっすがイアン!」
「策士のやり口はセクシィだねえ……」
「ノッさん、それちょっとわかりにくい」
ダジャレにならなかったダジャレのことは脇に置いて、ノブハルは遠慮がちに尋ねた。
「その、だれかを連れてきたりはしないのかい?」
「そうだ、イアンはここ使わねえのかよ」
恋人と二人きりで過ごす云々の話をしているのに、星の数ほどの相手を持つ彼は自分のことを全く勘定に入れていないというのも奇妙な話だ。
「こんな埃っぽい家に? おれは都会派で通してるんだ」
そうは言うが、内装も調度もそのままにして変えないこと、「宝物」が眠っているのであろう地下室と土蔵はノータッチで、などと条件をつけてくる彼は、ここに女性を立ち入らせる気など最初からないのかもしれない。
「今夜はもう約束が入ってる。部屋は好きにしろ。どこも大掃除しないと使えないと思うけどな」
玄関のキーを告げると、イアンはすぐに始めてくれと言い置いてさっさと出ていってしまった。
残された二人は暫し室内を見回していたが、目が合うと自分の状況を思い出し、それぞれが腕まくりをする。
「どうする?」
「まずは……全体見てから、キングの部屋を決めようか」
「おう!」
ダイゴの目はすでに、未知の探索に輝いていた。

翌日、タイガーボーイのランチタイムに現れたイアンは、奥の席に頬杖をついて座っているダイゴを見つけた。
「昨日は楽しんだか?」
向かいに座るやいなやそう問いかけたイアンに、ダイゴはさっぱりした顔で答える。
「いや。なんもしてねえ」
「は!?」
思わず腰を浮かせたイアンは、水を持ってきたウエイトレスを「注文はあとで」と笑顔で追い返した。
「ゲストルームを一部屋片づけたって聞いたぜ?」
予告どおりイアンは帰宅せず、ただノブハルからの作業終了連絡を受けた。客用寝室の掃除に、ベッドと照明のメンテナンスを日暮れまでに終えたのは事実だ。すぐにでもその部屋を使ってもよかったが。
「そのあとノッさんはうち帰って、おれはスピリットベースのテントに戻った」
「なんでだよ! ガマンの限界じゃなかったのか!」
イアンは掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出すが、ダイゴは動じない。
「んー……それはそれとしてっつうか。いつでも二人きりになれるんだって思ったら、安心してよ。あせることもねえかって」
「Oh,my……」
イアンは思わず天を仰いだ。
「バカか! 時は金なり、オッサン老い易く、恋せよオッサンだぞ!?」
「オッサンじゃねえ、ノッさんだ」
ダイゴの前にランチが運ばれてくる。イアンはため息をついて、自分も同じものをと注文した。
その日のウエイトレスがアミィでなかったのは幸いだった。

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