魁利/透真

2018_ルパパト,[R18]

【同室:Rouge】

透真が当番の風呂掃除を終えて戻ってくると、魁利は自分のベッドに寝ていた、というより身を投げ出していた。風呂上がりのまま掛け布団の上に転がっているが、服は着ているから風邪はひかないだろう。せいぜいひどい寝ぐせがついたと朝大騒ぎする程度だ。
だから透真もとくに声はかけず、さっさと明かりを消して自分も床に入った。まだ眠くはないが、することもないし目を閉じていればそのうち眠くなる。
だがおそらく五分もしないうちに、部屋の反対側から声がかけられた。
「……透真」
面倒なので返事をしないでいると、今度は窺うように。
「透真?」
口調ははっきりしていて今起きたという感じではない。何度も呼ばれるのは煩わしかったから、目を閉じたまま答えた。
「早く寝ろ」
「自分も寝てないじゃん」
うれしそうな声と、ベッドから起き上がる音。その先の展開は予想がついて、思わずため息が出た。
「あのさ」
「俺は寝るからな」
壁を向いて布団をかぶりなおしたが、そんなことで魁利は追い払えない。
「どうぞどうぞ」
部屋を横切ってこちらへやってくるにやけ顔が目に浮かぶようだ。案の定、彼はするりとベッドにもぐり込んできて、その腕を透真の体に絡めようとする。
「眠れるもんなら」
「おまえ……」
悪戯な手を払いかけ、しかし結局追い出すのはやめた。きっと盛大に拗ねて面倒なことになる。それに……
首筋に当たる息がすでに荒い。シャツの中に這い込んだ手は無遠慮に肌をまさぐり、迷わず下着の中にまで入り込もうとする。さすがにその手を掴んで押しとどめれば、くすくすと笑って首の後ろに口づけてくるから手に負えない。
「おい……」
強めに吸われたのを感じて、見返ろうとする。妙なところに痕でもついたら……
文句を言う前に肩に歯が当たった。今はべつに痛くもないが、彼は熱中するとそのうち加減を忘れてしまう。そうなると厄介だ。翌日まで残る痕をつけられたことも幾度かあった。
「やめろ……」
「……ん」
承諾とも相槌ともつかない適当な返事をよこした魁利は、噛みついた場所へ申し訳程度に唇を押しつけたが、やがてまた歯を立ててくる。もうすでに上の空らしい。
「魁利」
絡んでくる腕を押しのけながら、体の向きを変えて相手に向き直る。ちらりとこちらを上目遣いに見た魁利は、愉快そうな笑みを浮かべて正面から抱きついてきた。
「OK……ってことだよな?」
確認する口調も自信満々で、まともに返事をするのも悔しかったから無言のまま彼の肩口に顔をうずめる。
承諾したことなどない。いつも魁利が勝手に始め、つき合わされるだけだ。
「ぁ……」
腰を押しつけてきた魁利が、熱い吐息を洩らした。欲望はすでに存在を主張しはじめていて、相手を煽ろうとさらに強く擦りつけてくる。服越しに透真と重ねられるそれは固さしかわからなくて、もどかしいなどという穏便な感覚ではない。
危機感を覚え、彼を押しやる。
「待て、取ってこい」
「え、いいよめんどくさ……」
「一滴でもこぼしたら二度とベッドに入れないからな」
「……………」
魁利は不満そうな顔をしたが、それでもぶつぶつ言いながら布団を出ていく。彼が戻ってくるまで、透真は仰向けになって息を整えようとしていた。
「自分だけ冷めたりすんなよ」
急いで戻ってきた魁利は透真の体に乗りかかり、乱暴にコンドームをこちらへ押しつける。
どういう行為でもしたければ着けろ、なければ買え、と半分は牽制のつもりで言い渡したのだが、彼は意外とまじめに買ってきている。以前はともかく共同生活を始めてから夜遊びなどはしていないようだから、それは透真とのためだけに用意されているものなのだ。
二人は荒く速くなる息を抑えもせず、ベッドに倒れ込んだ。魁利の唇が、透真のあごに押しつけられる。それでも唇を重ねることはない。無遠慮な彼の、唯一の遠慮なのかもしれない。
「ぅうっ……」
魁利が喉の奥で呻き、透真は唇を噛みしめ声を殺す。
自分よりいくらか若い男は、遠慮も忍耐も持ち合わせていなかった。透真の上で細い腰をくねらせる姿は、こちらを責め立てているようにも、媚びを売っているようにも見える。
「やべ、イく……」
喘ぎながらそう囁いた彼は、透真の胸に爪を立てる。痛みに顔をしかめながら、透真は生乾きの髪に指を突っ込んでかき回した。

雑に後始末を済ませた彼は、そのままベッドに横たわる。
「おい」
声をかけても起きるどころか顔も上げない。
「自分のベッドに戻れ」
「……ん」
こちらの要求をうやむやにする返事だけで、魁利はうずくまって動かない。ここで寝ることを決めたようだ。
「……………」
深くため息をついて、透真は自分も彼に背を向ける。はじめに追い返さなかった時点で、こうなるのは知っていた。
その理由は、考えるまでもない。
昼間、国際警察とやり合って手こずらされたこと。その日のうちにリーダーの彼が店にやってきて、屈託のない笑顔を魁利に向けたこと。
おもしろがっている風を装ってはいるが、魁利の中では整理がつかなくなりはじめているのだろう。
考えたくないことを考えなくて済むように、彼はじゃれついてくる。決して深入りはしない。ただ気を紛らわすために、憂さを晴らすために、透真の懐へもぐり込んでくる。
それを一蹴できないということは、自分も……
透真は思考を頭から追い出し、目を閉じる。背後から規則正しい寝息が聞こえてくるのが、妙に忌々しく感じられた。

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