魁利/透真

2018_ルパパト,[R18]


【同室:Bleu】

クールな男だと思っていた。口は悪いがストイックで、冷静で年相応に頼りがいがあって。
でもいざ一つ屋根の下で暮らすようになると、彼が冷淡なだけではないことがわかってきた。とくに二人きりの寝室では、初美花が決して目にすることがない一面をいやでも共有することになる。

狭い男部屋で、居場所は自分のベッドの上が定番だった。
そんな自分の上に影が落ちて目を開ければ、透真がいつもどおりの無表情でこちらを見下ろしている。
なに?と尋ねようとして、口を開いたまま相手を見つめ返した。そのまま、言葉を発するタイミングを逃してしまった。
大きな手が伸びてくる。その手が、ベッドの上に投げ出された魁利の手首を掴んでシーツに押しつけた。
「あれぇ?」
わざとらしく驚いた顔を作ってやるが、そう簡単につき合ってくれる相手ではない。彼は無言で乗りかかってきて、魁利の頬に唇を触れさせた。
「なになに、甘えたいモード?」
「黙ってろ」
感情のこもらない声で告げられた言葉どおり、広い掌が魁利の顔半分を覆ってしまう。口をふさがれ、目だけを動かして彼の表情を窺うが、これといって変化はない。
透真の感情表現が乏しいとは思わない。ただ、知りたいときにかぎって彼は無表情の下にそれを押し隠す。せめて意図くらいは見せてくれてもいいのに。
セーターをまくられ、冷たい手が腹に触れて思わず身をすくめた。片手で魁利の口をふさいだまま、もう片手は魁利の肌を静かに犯していく。
たまらず、魁利は口をふさぐ手を引き剥がした。
「……っは!」
大きく息をついて、相手を睨みつける。
「やるならちゃんとやれよ、くすぐってるだけじゃねえか!」
憤慨する魁利の顔を見て、彼は逆に噴き出した。これはわかる、馬鹿にしているのだ。魁利も負けじと透真のシャツのボタンを外しにかかるが、自分がセーターを剥がされるほうが早かった。
普段の冷淡さからすると、もっと手荒で相手のことなどおかまいなしに弄んだとしても驚かない、と魁利は思っていた。だから、彼が異常な要求を何もせず、暴力的でもないことは意外だった。
今も、片手で魁利の両手首をまとめて枕に押さえつけてはいるが、それだけといえばそれだけだ。耳や頬に触れる唇も、腹をゆっくり撫で下ろしていく掌も、魁利の性感を知った上でのサービスにしか思えなかったし、なにより気味が悪いほどに優しい。毒舌さえ、こちらが話しかけなければなりをひそめている。
「……っ」
なにか茶化してやりたくなるが、地雷を踏み抜く危険性もあるから迂闊なことは言えない。
以前、最中にふざけて「彼女ともこんな感じだった?」と軽口を叩いたら、ぞっとするほど冷たい目で睨みつけたかと思うと、どうにもならなくなった状態の魁利を放り出し部屋を出ていってしまった。それから気の遠くなるような数日間、魁利には指一本触れず、触れさせてもくれなかった。会話どころか視線を合わせることすら拒まれていた。やがて日常に支障が出はじめ、透真が折れるかたちで自然に収束したが、あれは完全に失敗だったと思う。
魁利が始めたこの関係は、透真が許すことで成立している。必要以上に踏み込んではいけない。後腐れがないように。互いが傷つかないように。
だが肌を重ねる以上は、気になってしまうものだ。己よりも大切な恋人にどう触れていたのか。いったいどんな表情を見せていたのか……
禁断の問いの代わりに、別の質問を口にする。
「俺のこと……抱きたい?」
暫し動きを止めた透真は、小馬鹿にしたような笑みをにじませて答えた。
「考えたこともない」
それはそれでおもしろくない、癪に障る返事だ。やけくそで彼の頭を抱きしめ、耳元に囁く。
「俺は、ときどき考えるよ……」
小憎らしいほどに落ちついているこの男を、女同然に扱ったら。どんな顔をして、どんな声で泣くのか。その奥はどれほど熱いのか。体を繋げた先に、この関係はどうなってしまうのか……
「俺をか?」
愉快そうに口を曲げて覗き込んできた、その頬をなぞる。
「透真エロいから」
「言ってろ」
艶のある低音が心地よくて、魁利は肩をすくめ笑った。そしてその声がどんな色に変わるのか、やはり知りたいと思った。


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