【SS】神永と加賀美2(シンウル)【R18】

公式に認められていない男性キャラ同士の二次創作を書いてる側の人間として、女性キャラを貶すのはルール違反というかタブーのような気がしていて、でも絶対好きになれない女性キャラっているじゃないですか。

そういうとき、私はその女性を客観的な状態で自作に登場させることで、自分を納得させようとするらしいんですよ。「許す」というほどに上から目線でもないけど。
嫌な部分も嫌だという感情を込めずに、変に美化したり希望に寄せる改変とかもしないで、ただ作中と同様の人物として書く。
龍騎の桃井令子だったり、ウィザードのコヨミだったり。男性キャラでもたまにやるかな。

なぜなのかずっと考えていたんですが、今ようやく明文化できるとすれば「その(不快な)キャラが、私が書こうとしているキャラクターにとって意味のある存在である」と認めるための行為なんじゃないのかと。ポジティブなのかネガティブなのかわかりませんが。

だから今回の話には浅見弘子が出てきます。
神永と加賀美のジャマはしていないので、ご安心ください。


これを書いた後もっかい観てきたんですが、細部の記憶はともかく大まかな印象は変わらなかったです。
「リピア」に関して私はここを譲る気はない笑
ただ、帰ってきた神永は浅見に対して、敬語じゃないかもなとは思いました。

全部終わった後。加賀美と浅見から見たウルトラマン像を、神永視点で。
神永はリピアに好意的ですが、神リピのつもりはないです。
神永と加賀美がいちゃついてるだけですが、際どい会話をしてるのでR18。
体だけのリピ加を含みますのでご注意ください。


「それではこれで聴取を終了します」
浅見弘子はICレコーダの停止ボタンを押し、広げた資料を片づけはじめた。
「お疲れさまでした」
神永新二も手を伸ばして、書類まとめを手伝う。
「すみません……予定の時間も大幅に過ぎてしまって」
「いえ、問題ありませんよ」
持ち込んだものは全て片づけ、椅子と机も整えて二人は会議室を出る。戻る部屋も同じだ。
「よかったらお昼、いっしょにどうですか? 今の時間なら食堂も空いてると思うし」
「いいですね、行きましょう」
浅見の提案を断る理由は、今の神永にはなかった。
コンビを組まされた彼女のパーソナリティは、直接的にはまだ理解しきれていない。彼女と実際にコンビだったのは自分ではなく『彼』だったからだ。これから自分自身が浅見という人間を知っておく必要がある。
防災庁の食堂は、ちょうど昼の混雑を過ぎてどこにでも座れる状態だった。完売したメニューもあるが時間的に仕方ない。
それぞれ定食を頼んだ二人は、できるだけ周囲に人がいない席にトレイを置いた。
座る前に浅見のトレイを見やって、声をかける。
「温かいお茶と冷たいお茶、どちらがいいですか?」
「ありがとうございます……じゃあ、あったかいほうで」
給茶器から二人ぶんの茶を持ってきて座ると、礼を言った彼女はしみじみと神永を眺めた。
「神永さんって、気が利くのね」
「それほどでも」
むしろ浅見のほうが、公安調査局の人間にしては視野が狭い部分があるように見受けられるが、判断は早計だろうか。
彼女は焼き魚の身を解しながら、会話をつづける。
「今もすごくモテるでしょう」
よく言われます、とは答えない。
「残念ながら、仕事人間なので女性からするとおもしろみがないようです。私自身も、そういう方面にあまり興味がないせいでしょうか」
ここで「またまた、そんなこと言って……」という返しもそれに対する定型文も用意していたが、実際の浅見はふと手を止めて呟いただけだった。
「『彼』も、そういう興味はなかったのかしら」
名前は出なくともわかる。つい先ほどまで、数時間『彼』の話をしていたのだから。
「どうでしょうね。私には知りえません」
それはもう知っている、とばかりにうなずき、浅見は白飯をかき込む。
『彼』は神永新二の肉体と融合したが、神永が表出した行動や発言の記憶しか共有できなかったらしい。
それは神永のほうも同じで、『彼』が自分の体でなにをしたか、どう戦ったかは覚えている。だが『彼』がなにを考え、どういう意図で動いたのかは、彼の言動でしか知ることができない。
人類が求める高次元の技術も知識も、『彼』が禍特対に残していった以上のものは神永の中には残っていなかった。
『彼』と自分は、内面を共有できなかったのだ。
味噌汁をすすりながら、浅見がまたぼそりと言った。
「本当の名前くらい、知りたかったわ」
「ええ」
あらゆる場面で尋ねられているが、神永は「知らない」と答えつづけていた。
同じ種族でゾーフィという個体名が判明している以上、『彼』本人にもいわゆる「本名」があったはずだとはだれでも思い至る。浅見だけでなく、世界中が知りたがっている情報だろう。
だからこそ、それは『彼』の最も重要なプライバシーだと考えていた。今後も、この名は決して明かさない。沈黙も嘘も慣れている。
「でも、いいじゃないですか、ウルトラマン。名付け親は浅見さんですよ」
メディア、政府、防災庁、諜報機関、公安、どの報告書にも、「ウルトラマン」と記載されている。
ウルトラマンの男たる神永だけが知っている。知っているということさえ、地球人のだれも知らない。
「正体を明かしたあともとくに名乗らなかったということは、浅見さんがつけてくれた名前を彼が気に入っていたということではないでしょうか」
浅見は首をかしげつつも、かすかに笑みを浮かべた。
「うーん……まあ、そうかもね」
全て神永の推測でしかないが、これからも全ての地球人に呼んでほしい。
光の星の罪人「リピア」ではなく、地球の英雄「ウルトラマン」と。

 *

「聴取の概要は以上だ。お互い既知の事実確認といったところだったな」
ビジネスホテルの一室で、ベッドの端に腰かけていた神永はそのまま後ろに倒れる。
「おつかれ」
デスク前に座って手元の資料を見ながら、咥え煙草の加賀美は無表情に労った。頭に入れた情報を脳内で整理しているのだろう。神永もネクタイをゆるめつつ、今日の出来事をひとつずつ思い出していく。
「……浅見弘子分析官が」
「なにか問題でもあったか」
個人的な印象なので報告や分析はしないでもらいたい、と前置きは忘れない。
「彼女は今でもウルトラマンに強い執着を抱いている……俗な言い方をするなら、終わった恋への未練かな」
その言葉を加賀美は鼻で嗤った。巨体の外星人に恋などばかばかしいといった顔だ。
「俺にウルトラマンの片鱗が残っていないか、常に探りつつ……常に落胆している」
「向こうの勝手じゃないか」
「それはそうだが、彼女だけは『ウルトラマン』の神永新二しか知らないんだ。同じ顔で別人と言われても感情では飲み込みにくいんだろう」
同情するというほどではないが、理解はできる。田村班長からもそれとなく配慮するよう頼まれていた。
「俺は正直、おまえの顔をしたあいつにムカついてたよ」
灰皿に吸い殻を強く押しつけ、加賀美は机に資料を放り出す。
思わず彼の顔を見やると、目を逸らされた。
「たしかに禍威獣を駆除できるヒーローだ。外星人の情報も大量に提供してくれた。ウルトラマンがいなければ、人類は外星人の家畜になっていたか太陽系ごと吹っ飛ばされていたか、どう転んでも最悪な結果になっていただろうな」
だから公安として全面協力も厭わなかった。『彼』が最初に正体を明かしたのは加賀美で、仲間である禍特対より頼っていた時期もある。
「だが外星人というだけで警戒対象にはちがいない。さらに人間と融合できるとなれば、擬態やステルスとはわけがちがう。しかも……人のプライベートまで立ち入ってきた」
声には苛立ちが混じっている。その理由もわからなくはない。
人間を理解すべく、『彼』は大量の書籍やメディアの情報を吸収していった。その一部は神永の中にも残っていて、これから一生使わないであろう知識が無意味に増えている。
それでも足りずに彼が接触したのが、加賀美だった。
「プライベートというのは、俺たちの関係のことか」
「そうだ」
「なのにおまえは……」
「そうだよ、一度やつと寝た。仕事のうちと思えばどうとでもなる」
新しい煙草に火をつけ、無感情に答える。ポーカーフェイスはこの仕事の基本だ。
「たしかに、『彼』が他の人間で実践しようとしなかったのは助かった。おまえには無用な負担をかけてしまったが……」
仮に相手として浅見を選んだ場合、今の神永はかなり厄介な立場に置かれていたことだろう。
「全部覚えてるんだろ」
煙を吐き出す男を、横目で一瞥する。
「……らしくない過剰サービスだったな。接待の指示でも出たか?」
「だれが出すんだ」
二人の関係は公安といえどだれも知らない。性志向も知られていない。加賀美の意図以外ではありえない行動だった。
「やつの好奇心を満たすにはあれくらい必要だと思ったんだよ。ただの性欲処理じゃ納得しないのは、それまでの言動からわかってた。やつが知りたかったのは『生殖目的ではない愛情を伴う性交渉』だった。
神永新二の交友関係の中で、俺が適任だと考えたんだろう。下手に否定するより、望みどおり『性愛と快楽』を与えてやればいい。都合のいいポルノみたいなもんだ」
淡々と語るが、神永が思い出せる『彼』の記憶は、そんな事務的なものではなかった。感情の共有はできていないから、ただ事実だけしか知りえない。しかしそれはあまりに刺激的な体験だった。
「こちらも正直、あんなプレイまで実践できるとは知らなかったし、卑猥な語彙も豊富で驚いた」
眉間の皺が一層深くなり、殺意のこもった目で睨みつけられる。
「四十路の勤勉な公務員が、AV女優の真似事をさせられる気持ちを考えたことがあるか?」
押収資料の確認で山ほど観ておいて役に立ったな、と喉まで出かけて飲み込んだ。たぶん体重の乗った蹴りが飛んでくる。
「ほんとうにすまなかった」
「おまえのせいじゃない。だからムカついてる」
ほぼ一晩中、加賀美は『彼』の「恋人」を演じ、『彼』は本や映像からは得られない経験を得た。それを神永は「覚えている」。
「おまえが生きて帰ってくるとも思わなかったし、人生で最も屈辱的な夜を知られてるのも想定外だ」
「俺は死んだままのほうがよかったか?」
「人類のためには、ウルトラマンのほうが生き残るべきだっただろうな」
それは一般論であり、加賀美本人の意見ではない。皮肉にもなっていない返答は、実質の回答拒否だ。
冷めた缶コーヒーを飲み干し、加賀美はまだ長い煙草を揉み消した。
「ほんとうに、もうおまえの中にウルトラマンはいないんだな」
「そのはずだ」
彼はおもむろに椅子から立ち上がり、ネクタイをゆるめてこちらへやってきた。
「確かめてやる」
「今まででいちばん雑な誘い文句だ」
「今以外にいつ言うんだよ」
引き抜いたネクタイを隣のベッドに放り投げ、加賀美は神永の脚を軽く蹴る。ベッドに対して真横に寝ていた神永は苦笑して起き上がり、靴を脱いで枕のほうへ這い寄った。
仰向けになろうかというところで、腰の上に跨られる。片頬を上げる彼特有の笑い方で見下ろし、Yシャツのボタンを見せつけるように外していく。少なくとも彼は、ウルトラマンではなく神永が生きていることを喜んでいるようだ。危機はこれからだというのに。
「加賀美……」
「なんだ」
自分たちが互いの名を呼び合うことは、それほど多くない。他人がいる場所では聞かれる危険があり、二人だけなら必要ないからだ。
両腕を掴んで引き寄せ、その体を抱きとめた。
「いや、呼んだだけ」
「はぁ?」
加賀美が呆れた顔で覗き込んでくる。
だが彼はあの夜、わざとらしい嬌声の合間に幾度も「神永」と口走っていた。
神永を愛しているという芝居か、外星人への嫌悪感を和らげるためか、それともすでに死んだ男への必死な呼びかけか。
めったに聞かない「神永」と縋りつく声を思い返す。
「なあ、加賀美」
「どうした。恋人ごっこはウルトラマン相手で充分だ」
対して『彼』は、ほとんど加賀美の名を口にしなかった。
公安のルールに則っただけか。あるいはあくまで「公安の協力者」「神永に近しい人物」、つまり地球人の中の一人にすぎなかったということか。
「今、どれくらい案件抱えてる?」「言うと思うか? ……外星人の手も借りたいくらいだよ」
あの『彼』が加賀美に対してどういう感情を抱いていたのかは、知りようもない。
しかし『彼』は情熱的に加賀美を抱いた。愛も欲も知らない外星人が、神永の体を使って表面的にでも相手を愛そうとした。
神永が聞いたことのない加賀美の睦言を受け取り、神永が口にしたことのない愛の言葉を加賀美に囁いた。
「仕事の話は終わりだ」
口を封じるように、加賀美が唇を重ねてくる。安いコーヒーとタバコの味がした。刺すような警戒心は薄れ、公安でも警察官でもなくただの男に戻っている。
生還して以来、自分が求めていたのはこの時間だったのだと改めて気づいた。
「……本物の加賀美だ」
「それを……おまえが言うのか」
濡れた唇のまま、加賀美は苦しげに眉を寄せた。
『彼』が知りたかったのは、加賀美との性行為ではなく二人の関係性だった。だから、自分を神永新二として扱ってほしいと加賀美に頼んだ。ウルトラマンではなく、神永と呼んでほしいと。
加賀美が普段とちがう行為を「提供」したのは、当然「接待」の意味もあっただろう。ウルトラマンには味方でいてもらわなければならない。
しかし個人的に好印象を持っていなかったということは、「神永として接してほしい」という『彼』の要望に対する、加賀美なりの抵抗とも思える。
もしくは……これは自分の願望に過ぎないかもしれないが……。
「おんなじ顔しやがって」
大切な人間を失ったがゆえの、自傷行為か。
「同じ体だからな」
抱きかかえた後頭部の髪を逆立てるように撫で上げ、首筋に唇を押し当てる。そして、強く吸い上げた。
「おい……っ!」
加賀美が神永の腕を振り払って身を起こす。
「今なにを……」
キスマークは厳禁。長年、暗黙の了解だった。
いつどこで命を落とすかわからない仕事だ。変死体がどう扱われるか、職業柄よく理解していた。多くの目に触れる遺体に、恥ずべき痕跡を残したくない。そんな理由から、二人は互いの肌に情事の痕はつけないようにしていた。
「しかも場所……」
どれほどきっちりスーツを着込んでも隠れない、短い髪も届かない、首の真横。
「コンシーラあるだろ」
「そうじゃない!」
変装や傷隠しに使う道具くらいは持っているが、もちろん問題はそこではない。
全て承知した上で、神永は初めて加賀美の肌に口づけの痕を残した。
「ちなみに俺は、生還以来毎日検診を受けている。明日もまちがいなく複数人に全身を晒す」
「くそ、策士め」
反撃ができないことに毒づいた加賀美は、返す言葉も思いつかなかったのか、にやける神永の胸に思いきり頭突きしてきた。
咽せて呻いて笑って、もう一度彼の体を抱えなおす。
「これでもう迂闊に死ねないな」
「……………」
神永の胸の上にあるドッグタグをつまみ上げ、彼はふてくされたように呟いた。
「一回迂闊に死んだ男に言われるのは、無性に腹が立つ」
「わかるよ」
笑いながら相槌を打ち、再び彼の首元に顔をうずめる。今度は肌を吸ってもなにも言われなかった。ひとつもふたつも同じだとあきらめたらしい。
神永の唇が胸へと下りていくのに従って、彼も神永のあごに、こめかみにと口づける。
特別に過激な行為を望むわけではない。ただ互いの肉体が存在することを確かめるだけの凡庸な接触だ。
だが、加賀美はそれを『彼』には教えなかった。『彼』が知りたかったのは、まさにこの感情だったかもしれないのに。
「あいつ……」
神永の髪を指で梳きながら、加賀美はふと思い出したように呟いた。
「結局……本名もわからなかったな」
昼間の浅見と同じことを、同じ口調で言う。
たしかに、公安関係者にとって「未知」「不明」はストレスだ。だが『彼』と近しかった二人にとっては、それはただの「情報」ではない。好意でも敵意でも、浅見と加賀美にとってコードネームで済ませていい存在ではなかった。
しかし、それでも。
「『彼』はウルトラマンだよ……加賀美」
その命を神永に捧げた外星人は、この男との交流で少しでも知ることができただろうか。
大切な存在に呼びかける行為の意味を。


仮に本物の神永が「おっはよーっ!」って笑顔で滝とハイタッチして船縁に「この新商品もう食べた?」ってお菓子あげてて班長と「今夜飲みに行きます?もちろん班長の奢りで!」とか陽気に話してるような男だったら、浅見ショックで出勤拒否しちゃうかもしれない。